序章 ひとりぼっちの青年

 彼はずっと、ひとりぼっちだった。

 きらわれる能力を持って生まれたため家族からはうとまれ、かと思ったら都合のいいときだけたよってこられて。

 家族からげるように家を出た後は、暗くてきたない場所を歩いてきた。なんとか彼をやとってくれる者がいたため、食いつなぐことができた。だが、そこでも彼はれいぐうされてきた。

 自分の生きる意味は、何なのだろう。

 こんなまがまがしい力しか持たない自分なんて、生きる価値がないのではないか。

 いっそ、死んでしまった方が楽なのではないか。

 そんなことを考えていた彼に、光が差し込んできた。

『あなたは変な人ね』

 そう言って笑うのは、光のしんのような少女。みにくくて汚い自分ではれることはおろか、近づくことさえおそれ多いと思えるような彼女はしかし、彼の手をしっかりとにぎって笑ってくれた。

『あなたは変な人だけど、いい人だと思うわ。自分にできることをしようとがんる人は、とってもてきだもの!』

 彼女は、知らないだろう。

 その言葉で、どれほど彼が救われたのか。その言葉が、裏のないがおが、やさしい手のひらに触れてもらうことが……どれほどうれしかったかなんて。

 いな、知らなくていい。知る必要もない。自分はこれからも、やみの中を歩いて行くのだから。

 ……だが、それでも。

 心の中に光をともしてくれた少女の笑顔はいつまでも、彼の胸の奥でかがやいていた。

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