楽園?


 ……見える池の側に行け、君の今後へのささやかな贈り物だ……危険はない……

 ……神様の贈り物ですか?『宣託』……ありがとうございます……


「クレアさん、『宣託』があり、あの池に向かいます」


 ドローンは池の側に向かいました。


「えっ、湯気が……温泉?」

 そこには天然の温泉が自噴していたのです。


 断崖絶壁の岩棚、広く300メートル四方程度の広さ……

 そのど真ん中に温泉がありました。

 温泉は池から流れ出して、滝になって崖を落ちていきます。


 温泉の周りは、地熱で暖かく、高山植物の群落があります。

 あれだけ寒かったのに、このあたりだけ、外気温が10度ぐらいのように感じますね。


 背後の崖から水が湧いており、温泉から流れ出る小川とは、別の小川となって流れ、これも滝になって崖を落ちていきます。

 

「還らずの荒野の中の楽園だな、このあたりだけ暖かい……」

「しかし、ここへは誰も訪れることはできませんよ……」

「もう夕方、今日は強行軍でしたね、山を越えたことですし、今日はここで野営しましょう♪」


 家を温泉の池の縁に止めました。

 玄関からそのまま温泉に入れます。


 池といっても、でっかい岩のくぼみで、底からお湯が湧いているようです。

 深さは一番深い場所で60センチほど、段になっているところもあり、腰かけられるのです。

 大きさは20メートル四方ぐらいです。

 どうやら単純温泉のようですが、湯温が40度はありそうです。


「この家でなければこれませんね……ここ、登録しておきましょう♪」


「さて、先に温泉に入りますか?」

「そうしたいが、一緒に入ってくれるか?」


「それは……水着がありませんが……」

「なに、あの大きなタオルを貸してくれればいい、ヒロ殿以外は誰もいないことだし、洗髪は家の風呂でする♪」


「もうヒロ殿は、私のお腹と太ももを見たのよな♪だから私は、もうヒロ殿なら、見られても良いと思っているぞ、これから見た場合は責任とって貰うがな♪」


「えっっっ、それは……そんな不埒なことをしたら、男として責任はとりますが……」

「聞いたぞ!ヒロ殿は男らしいのだな♪」


 突然ニコニコしだしたクレアさんです。


「ではバスタオルを貸してくれ♪ヒロ殿は腰にタオルを巻けばいいではないか♪」


 もはや『勝手知ったる他人の家』状態のクレアさん、さっさとバスタオルを身にまとい……タオルを持ってきて……


「ヒロ殿、さあ、いこう♪」

「ちょっと待ってください、クレアさんの前では脱げないではありませんか!」

「なぜだ?男であろう?」

「そういう問題ではありません!もう」


 トイレに行って服を脱ぎ、タオルを腰に巻いて出てきたヒロさん。


「ヒロ殿、華奢な身体なのだな♪胸が薄い」

「すいませんね!」


 クレアさん、素知らぬ風をよそっていますが、目がヒロさんの下半身に……

 タオルでは隠しおおせぬのですね……


「私が念のために先に入ってみます」


 玄関からチャポン……


「大丈夫ですよ♪クレアさんも入ってください♪」


 温泉からの眺望は抜群でした。

 日が沈み始め、夕焼けが空を染めています。


 眼下とはいきませんが、目の前は遠くの山が見え、その麓には深い森の緑が広がっています。


「あっ、クレアさんが言っていた町の明かりが見える♪」

 そう、初めての異世界で、人の営みを目にしたヒロさんでした。


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