第8話 対決
午前8時、アガルテア事務所の受付に俺とミヤビはいた。
『おはよう。ケイテツ導師は居るかな?リュウシンが来たと伝えてほしいんだけど』
受付のお姉さんはにこやかに笑って答える。
「おはようございます、リュウシン様。 本日アポイントメントはございますか?」
あ、あぽ? この娘はアルバイトかな?
受付の奥から白いローブに白い帯でショートカットの少女が現れる。
「お待ちしておりました、リュウシン様。ケイテツがお待ちです」
少女に連れられてビルの最上階である3階へ上がった。
「導師室」なる部屋の前に通される。 最上階にこんな部屋作りやがって。
「あ!」
『どうした?ミヤビサン?』
「わっ、わたし、今のうちにおトイレ行っておきたいなー。なんて……」
『なんだションベンか。先に行っておけと言ったろう?これだからガキは』
ミヤビに
「……ご案内いたします。 リュウシン様、ケイテツはこの中でございます」
案内役はミヤビを連れて降りていく。 ミヤビが俺に悪態をついて去っていく。
さて、ノックくらいしてやるか。
部屋の中はガラス張りのオフィスだった。
部屋の奥は、上質な感じの木製デスクに高級そうなオフィスチェア。
手前に作業用の机があり、上には魔術的なものから宗教的なものから並んでいる。
そこから扉まではちょっとした広さがあり、体操とか儀式とかできそうである。
ケイテツは椅子に座って待っていた。
「来たな、リュウシン。 ミヤビは連れてきたか?」
『ああ。 今はお花摘みに行っているがな』
ケイテツが大きくため息をつく。 な、なんだよ?
「何か企んでいるのか……。 変わらないなリュウシン」
『それはこっちのセリフだ嘘つきヤロー。 お前、本当の目的は俺だろう?』
ケイテツは少し意外そうだ。
「俺、とは?」
『お前の目的は以前、俺が魂の研究を邪魔したことへの復讐。
ハルカとミヤビが持つ
「はぁ……」 ケイテツがでかいため息をつく。 なんだよ?なんだよ?
「僕の目的はそんな事ではないよ、リュウシン」
ケイテツの眼に凶気が宿る。
「確かに僕にはお前が邪魔だ。 だがそんなことは今は重要ではない。
僕の目的はハルカが持つ『天の力』を使ってユキを甦らせる事だ」
『業魔の力を「天の力」と言っているのかお前は? ユキを
「業魔……悪行によって人を惑わせて、正しい道に進むことを妨害する悪魔か。
ハルカの力は人々の
そしてもう一つ。 死んだ人間の
『それでどうやってユキが甦るんだ?』 嫌な予感しかない。
「ユキの魂は自死の業を背負って地獄に落ちているかもしれない。
まず、縁を操る力でユキの魂を見つけ出す。そして浄化の力で業を軽くし、縁を使って
『そんなことをして、ハルカはどうなるんだ?』
「大丈夫だ、二重人格のようになるとは思うがハルカが消滅するわけではない」
『何が大丈夫だ。 そんなことしてユキが喜ぶと思うのか』
「お前に、ユキについて語ってもらいたくない」
『……話しても無駄だな。 とにかくハルカは連れて帰らせてもらう』
「ふん、やはり僕たちにはこれしか無いようだな」
ケイテツが歩いてくる。 やっぱこうなるのか。
__________________________
リュウシン
「洗脳の基本は家族や友人から『孤立』させることだ。 逆に言えば家族や友人の説得は有効だ。 ケイテツはお前を洗脳してからハルカに合わせる気だろう。
ミヤビがハルカに直接会って洗脳を解け。あとは二人で脱出しろ」
とのことだ。
だが少女がどうしても自分を一人にしない。
今は教団の中を見学させてもらうふりをして施設内を歩いている。
部屋の一つに入るとそこは無人の道場のようだ。ケイテツが教えてるのだろうか?
『道場もあるんですねえ……』
ふと少女の気配をすぐ後ろに感じる。 振り返ると距離が近い! なになに!?
「あなた、ケイテツ様と戦ったんですよね? その包帯……。 そこまでやられてまだ歯向かうつもりなのですか?」
作戦はバレバレです、リュウシンさん。
『わたしはケイテツさんに興味はないわ! ハルカを連れて帰りたいだけ』
「私はケイテツ様を心から尊敬しています。そのケイテツ様がハルカさんとミヤビさんを特別扱いする様に指示されました。 ハルカさんが来てケイテツ様は変わってしまった。それまでは私のことも愛してくださっていたのに……」
『あなた、ケイテツさんの事……』
「私に与えられた
!?
「私と戦って勝てたらハルカさんの部屋の鍵を差し上げます。負けたら貴女には一生ここで過ごしていただきます」
『そういう分かりやすい話、嫌いじゃないよ』
女性同士だったら絶対負けない! 負けたくない!
少女はローブを脱いだ。 スポーツブラにスパッツで細いながらも筋肉質。
総合格闘技の選手のような
『名前を聞いても?』
「スー」
答えると同時にスーは踏み込んでジャブを放つ。 せっかちだね。
わたしはバックステップで距離を測る。
正直自分と同じくらい体の小さい人間と戦うのは初めてだ。 いつも大人の男の人と殴り合っている。 勝手がわからない。
隙をみてカウンターのパンチを放つが
格闘技的な攻防が上手い。 沢山練習してそうだ。 打撃はわたしより
ジャブとローキックで上下のコンビネーションが刺さる。 じわじわとダメージが
間合いが近くなるタイミングを測って得意の飛び膝蹴りを繰り出す。 しかし反応されて上手く当たらない。 それどころか着地の足を刈られて転倒してしまう。
倒れたわたしを
得意の大技は身軽な彼女には当たりずらい。 それどころか致命的なミスにつながるので気をつけなきゃ。 負けたら監禁するなんて明言してくる連中なのだ。
起きあがるわたしに追い討ちをかけてくる。ローキックとパンチが刺さる。ダメージの蓄積を感じる。
だが同時に、大きな違和感も感じる。 殺気がない。 本気さが伝わってこない。
わたしは気づいてしまう。 スーの技に殺気がないのは、彼女の
私は自分の
ふっ。 唇に暗い笑みが
ジャブからストレートのフェイントを見せて
そのままの勢いで
スーの体を左腕で抱え込みにいく。 スーは右腕でガードする。 その腕の肘を逆に伸ばし、
スーは大きく体勢を崩される。降りてきたスーの顔面に膝蹴りを入れる。
『スーありがとう。 鍵、もらって行くよ』
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