第7話 懺悔と決心

 俺の家に帰ってきた。

ミヤビは意識はあるがフラフラだ。軽い脳震盪のうしんとうだろう。

着てる服を洗濯して、またパジャマになってもらう。


 ウチは鍼灸院だが、ある程度の治療薬はそろえてある。

負傷部分には薬を塗り、患部に包帯を巻いて圧迫する。

氷嚢ひょうのうで冷やしながらソファで休ませる。


 俺は、ミヤビがケイテツにやられているのを見ている事しかできなかった。

帰ってきてから「なんで助けてくれなかったの?」となじられた。謝ることしかできない。

 謝ったからと言ってゆるしてもらえる訳もなく、俺にもがあるため、ミヤビはわがまま言い放題になっていた。


 「腹が減った」と言われて、ミヤビの好物を買い出しに出る。

「下着の替えが無い」と言われて、女性物の下着を買いに行く。恥ずいわ。




 バタバタした午前を過ごし、遅い昼飯を取ってやっと一息つく。

食後、お茶を飲みながら包帯であたまグルグル巻きのミヤビがポロポロ泣き出した。

 どうした?どこか痛いのか?



 「くやしい……!」  そこかよ。 完全に敗北だったな。


 「横から見てケイテツさんとわたしの感じ、どうだった?」

恋する乙女みたいな事言い出した。


『相性が悪いよな……ケイテツの試合を重ねてきたえられた銃剣術じゅうけんじゅつにミヤビの今の杖術じょうじゅつでは付いていけないだろう。

 寝技はやらなかったはずだが、ケイテツが寝技に付き合ってくれるとは思えない』


 「ケイテツさんのパンチ、見切れなかった」


 『ミヤビは目が良いから余計に混乱したんだろう。ケイテツは『波頭突はとうつき』という独特な突きを好んでいたから、普通のパンチに慣れてると余計に惑わされるんだと思う』


 「くっ……このままではハルカを助けられない」


 ケイテツの次の狙いはミヤビだ。降参したふりしてアガルテア内部に侵入して、ハルカを連れて逃げる。 という作戦もアリだと思うけど、ミヤビの脳内にはそんな選択肢はないらしい。


 『どうしてそんなに戦いに固執するんだ?』


 「この世は戦わなきゃ生きていけないでしょ?」 うーん。



「リュウシンさんはどうしてケイテツさんと戦えないの?」


『あ、ああ。 それはな……』 言い淀む。



ガタン!


ミヤビがテーブルに突っ伏す。 『ミヤビ、どうした?』


「死ぬう……」 すごいダルそうだ。 熱が上がってるかもしれない。


ミヤビをベッドに寝かせ湿布薬を張り替えて、氷嚢の氷を交換する。


もし今アガルテアの襲撃を受けたらひとたまりも無い。俺が守らねば。




  _________________________


             暗い


             暖かい


       愛しい女性が現れて俺に笑いかける


            『ユキ』


    『どこへ行ってたんだ? ずっと探していたのに』


   問いかけるとユキは悲しそうな表情になって暗闇に消えた


            待ってくれ


 ______________________________



 ……しまった。  寝てしまったか。  嫌な夢を見た。


 目を開けてるのに暗い。  夢の続きのようだ。  寝てる間に日が落ちたのか。


 どうやら寝ているミヤビの布団の上に突っ伏して寝てしまったようだ。

悪いことをした。 重くて寝にくいだろう。 すぐにどいてやろう。


 動こうとして気づく。頭をミヤビに両腕で抱くようにつかまれてる。

ミヤビは寝ているのか?

 明るかったら流石に恥ずかしいが、暗いからかあまり気にならない。

 それより、下手に動いたら起こしてしまうかな?



 「……ユキさんって誰?」


 びっくりした。 起きてたのか。

『俺、寝言言ってたか? ……ユキはケイテツの奥さんだよ』


 「好きだったの?」


 『う。 ああ……そうだな』


 「女を取られて、それでケイテツさんと戦えない?」


 『ち、違う。 話すと長くなるんだが……』


 「話して」

有無を言わせない。



 『ケイテツとユキとは高校からの同級生で武道を通して仲良くなった。

皆同じ大学に入って、同じ武道の部活に入ったから一緒にいることが多くなった。

 そんな中、二人が実は付き合っているという告白をされた。 その時俺は嫉妬しっとしてしまった。 心から祝福しゅくふくできなかった。


 卒業後二人は結婚した。俺は坊さんになる修行のため山寺やまでらに弟子入りした。

ケイテツは自衛隊に入った。 自分の精神せいしん修行のためらしい。


 しばらくして寺に手紙がきた。ユキからだ。

『ケイテツがカルトにハマって怪しい連中とつるんでいるのをやめさせてほしい』

という内容だった。


 俺はユキの役に立てる事を喜んだ。

探偵さながらのことをやって怪しい連中とのつながりをやめさせていった。だがケイテツ本人は最後まで抵抗した。話し合っても分かり合えない。結局俺たちは武道によってつながった仲だ。戦って決着をつけることになった。


 俺は勝ってケイテツに『ユキのために真っ当に生きるよう』に約束させた。

俺はまた寺での修行に戻り、得度とくどを得て実家に帰った。

 しかし、そこで知ったのはユキが自殺したという話だった』


 「自殺……」 ミヤビは複雑そうだ。


 『ケイテツは俺が帰った後、今までよりさらにカルトにのめり込んで、金のためならなんでもやるようになったらしい。

 ……結局約束なんかで人は変えられない。武道だってただの暴力だ』



 「やっぱり悪いのはケイテツさんだ。 リュウシンさんは悪くないよ」



 なぐさめてくれてるのか。

 『ありがとう。 でも、昨日ケイテツからユキの気配を感じた。 やっぱり俺にはケイテツとは戦えない』


 「気配って…… ユキさんの幽霊でも見えたの?」


 『俺、幽霊がことごとく見えてしまうんだ。いや本当に』


 「えー」 ミヤビが怪しんでる。



 『ユキが死んだ後、自分をめていた俺は断食修行だんじきで自分の心と向き合うことにした。  断食して瞑想めいそうしているといろんな悪魔もうそうがやってくるんだ。


 ある日、少年の業魔ごうまがやってきて話しかけてくる。

その少年があまりにもしつこいのでつい相手をしてしまったら、

その日から幽霊やが見えるようになってしまったんだ』



 「少年の業魔ごうま?」


 『普通に会話もできるんだ。『カルマイーター』って名前までつけて話してたよ』


 「!!カルマイーター!? それ、ハルカに取り憑いてるお化けだよ!」

……なに?



 えぇ? ……そういえばおばけの推薦だって言ってたな。 どんな因縁だよ。


 だがしかし……。  カルマイーターは「えん」を操る力を持っている。

ケイテツはスピリチュアルの研究をしていた。 奴が欲しているのはハルカじゃなく、ハルカに取り憑いた「カルマイーターの力」なのでは?



 ミヤビが目的のはずなのに、俺の鍼灸院をかつ念入りに破壊できたり。深夜の襲撃なのに待ち伏せできたのは、が「縁」の操作を受けていたからだとしたら……

 ケイテツが「ユキの自殺はリュウシンおれのせい」だと逆恨みしているとして、


 ①スピリチュアルの研究で、ハルカの中のカルマイーターを発見する。(達成)

 ②ハルカを洗脳して言いなりにする。(達成)

 ③カルマイーターの力の全てを手に入れる為にミヤビを拉致らちする。(未)

 ④(ユキの自殺の原因である)研究の邪魔をしたリュウシンに復讐する。(未)

 

 奴の狙いはこんなところか?


『あの嘘つきヤロー、完全に俺への復讐目的ふくしゅうもくてきじゃねえか』何が俺に用は無いだよ!



 まだこれは俺の予想でしかない。 ケイテツ本人に確認する必要があるな!

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