第3話 反撃の準備

 時が戻り、俺の自室。風呂上がりのミヤビとカレーを食っている。

昨日の残りをあっため直したやつだ。たくさん食べていいぞ。

 ミヤビは服が乾くまでの間、俺のパジャマを着ている。


 食事をしながらお互いの自己紹介も兼ねた雑談をした。

 俺は父親が寺の住職じゅうしょくで、俺もお坊さんを目指してたが辞めた事。

武道一般を修めて、一度は警察官を目指していた事。

人の役に立てる仕事がしたくて鍼灸師になった事を話した。


 ミヤビは家が古武術の道場で戦い方を(かなり厳しく)仕込まれた事。

誘拐されたハルカちゃんは、かけがえの無い親友で幼馴染という事。

最近お化けに取り憑かれてから、変な事が起きる事を話してくれた。



 

 食事が終わり。 お茶をれる。 ここからが本題だ。

抜き取っておいた襲撃犯の財布には会員カードが入っていた。



 『生体スピリチュアル共同団体 アガルテア』



 『知ってる?』とミヤビに聞く。

ミヤビはふるふると首を振る。 だよねえ。


 「スピリチュアルってうらないとか?」


 『日本だとそんなイメージだが、海外では結構ちゃんとした研究組織とかある。

だが、今回の場合は単なる詐欺グループカルトかなあ……』

 はあ…カルトかぁ…話は通じなさそうだなあ。


 だがこの手の組織に誘拐されたんだとしたら、確かにハルカちゃんは危ないかもしれないな。早急に動く必要がある。

 こうなったら俺もとことんやるつもりだ。


 当然被害届は出すが、警察は当てにできない。

 うちを襲撃した三人は刑事罰けいじばつで逮捕してくれるだろう。しかし、指示した証拠も無い「アガルテア」なんていう団体に捜査が入るとは考えにくい。

 指定暴力団の構成員が襲撃したならともかく、アガルテアなんて法人化もしてない同好会だ。


 奴らには鍼灸院うちのいんをメチャクチャにした事の文句を言ってやらなきゃならないからな。

 武装して襲撃してくるような連中だ、民事みんじで訴えても裁判さいばんに付き合ってくれるとは思えない。こっちもそれなりの対応はさせてもらおう。



 『ミヤビは自由にしててくれ。情報収集してくる』


 「私も付いて行く!」


 『ひよこちゃんかよ……。電話で聞いてくるだけだ。テレビでも見ててくれ』


 カルト系に強い治療家仲間に頼んで情報を売ってもらおう。

自由診療じゆうしんりょうの治療家の中には霊感療法れいかんりょうほう生業なりわいにしている奴らもいる。彼らならこの手の組織に詳しいはずだ。ついでに警察にも通報はしておこう。




 部屋に帰ってくるとソファで猫みたいに丸くなって、ミヤビが寝ている。

テレビがつけっぱなしだ。テレビを見ているうちに寝てしまったようだ。

友達ハルカが心配で昨日は眠れなかったんだろうな。


 お姫様抱っこで俺のベッドへ運ぶ。  軽い。

こんな軽い体で、素人とはいえ武器を持った男二人を倒すとはな。異様だ。


 ベッドに寝かせて布団をかける。夜は冷えるからね。 くさくないよ?多分。


 俺はキャンプ用の寝袋に入って寝る。体力は回復させておきたい。





 午前3時。


 ベッドで寝ているミヤビの体をゆすって起こす。

 爆睡ばくすいしてる。本当に疲れてたんだな。 おい起きろ。

 深夜だ。うるさくするとお隣さんに迷惑だ。顔を近づけて声をかける。おーい。


 ぱちっ。 ミヤビの目が開く。 ちょっと驚いてる。


 「あのっ……お願いがあるんだけど……」

ん?


 「優しくしてね……?」

……忘れてた。 こいつ、俺の言う事をなんでも聞くんだったな。


 『ユーモアがあってよろしい。では早速着替えてもらおうか?』


 「着替える?どうして?」


 『反撃に出るからだよ。一刻も早くハルカちゃんに会いたいだろう?』




 俺がもらった情報では、

 アガルテアの所有物件は「事務所」と「倉庫」だけだそうだ。

 「倉庫」は非合法イリーガルな連中が管理していて、人一人隠すくらいはできるそうだ。

 「事務所」は一般構成員が利用しているので、非合法な行いはできないだろう。

そしたら、ハルカちゃんは「倉庫」に監禁されているに決まってるって予想だ。


 もし居なかったとしても、なんらかの情報が手に入るはずだ。

 俺の鍼灸院しょくばはメチャクチャになっているそうだ。警察が現場に行ってくれた。

 もう院が修復するまでは仕事ができない状態と言うことだ。


 そしたらもう、やることは「反撃」しかないってわけよ。



 こんな時間にいるのは警備員くらいのはずだが、さらってきた人間なんかがいるとしたら、非合法な連中が常駐じょうちゅうしている可能性がある。


 そんなところに女の子を連れて行く事に罪悪感を覚えるが、置いて行ったらまた勝手に動き回るだろう。その方が怖い。

 俺も勝算があってこの時間に出向くのだ、情報は最強の武器だな。

 一緒に連れて行ったほうが安全だと判断した。

 それでも準備はできるだけやろう。


 『ミヤビ、何か得意な武器とかあるか?』


 「武器?つえかな」


 『つ、つえ? 杖かー……他には?』


 「やっぱり短刀たんとうかな?警棒とか」


 『警棒も無いな。敵から奪っておけば良かったな』

あ、そうだ!


 『警棒は奪えたら奪おう。杖はないが鍼灸院のゴミで水拭き用のモップのの部分がある。ヘッドは壊れたが、柄はスチール製で長さが120センチ位ある』

 捨てるのが面倒だったんだ、これ。

 こいつを竹刀袋しないぶくろに入れて運ぼう。



 さあ、出発の準備だ。

電車は当然動いていない。雨は止んでいる。移動は俺のバイクになる。

 ミヤビにヘルメットとジャケットを貸す。


 部屋から出て、駐輪場からバイクを押してくる。

 カワサキのGPZ900Rだ。海外では「ニンジャ」って呼ばれてる。

 ニンジャか……



 『ミヤビ……』


 「ん?」


 『お前んって、ニンジャ一族とか?』


 「ちがう」

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