第3話  不動産屋

次の日僕は、僕の部屋を仲介した不動産屋にいた。

典型的な街の不動産屋で、頭のはげ上がったおじさんが一人でやっている不動産屋だ。

一番初めに部屋を借りようとしたときから、うさんくさいなとは思っていたけれど。

まさかね。

しれーと事故物件かよ。

僕は古いソファーに腰掛けた。

そしておじさんも僕の前に座る。

そのソファーは何年使っているんだ、と言うくらい年季がはいっているが、よくよく見れば全てに年季が入っている。

物件場情報を検索するパソコンだけが新しくて、この古い事務所の中で異彩を放っている。

「聞きました」

「何を?」叔父さんはとぼけるとかではなく、本当に分からないという感じで返事をした。

「あの部屋。事故物件ですよね」

「あっ、な、何の事でしょうか」おじさんは慌てたことが、おもいきり顔にでた。

「あっ、お茶でも入れましょうか」客用の応接セットもないような所なのに、そう言うと立ち上がった。

その態度で白状したような物だ。

「まあ、はなからお茶など出す気がなかったのか、かなり間に合わせ感のあるお茶の出し方だった。

「僕もうかつではありました。今時ネットで調べればすぐに分かるので、まさか黙っている不動産屋さんはないだろうから、あえて自分で調べたりはしませんでしたけど、まさかですよね」

「あっ、コーヒーの方が良いですか。インスタントですが」必死で話をそらそうとするおじさんを無視して話を進める。

「可愛い女の子が住んでいたんですよね」

「誰にそんな事を」

「えっ、いやー」まさか本人とは言えない。

「誰だって良いじゃないですか」

「退去しちゃいます?」不動産屋のおじさんは、さぐるように僕の顔をのぞき込む。

それが、一番の関心事か。

「まあ、とりあえず、聞かせて貰いましょう。どういうことなのか」

「教えたら、出て行かないと約束してくれますか」

「どの口が言うんですか」幽子はとんでもない美少女で、ドはまりのタイプなので、出たくないと思ってはいたが。

「いやー彼女はかわいそうな子でね。男に騙されたんですよ。結婚の約束までして、おじさん、私結婚するんです。なんてこっちまでうれしくなるような感じで」

「なのに裏切られて。自殺ですか」

「イヤその辺はよく分からないんですれど。本当に良い子なんですよ」

「だから、何ですか」この不動産屋、良い子強調しすぎだ。

「ですから。たとえ化けて出ても、良い子だから実害はないと思うんですよ。それに化けて出たりはしないと思うので、家賃だって、少し安くなっているし」

「普通そういう場合って、なんでこんなに安いの。ていうくらい、安いですよね。気付かない程度の安さってどうなんですか」

「ですから。とても可愛い子だったので。まあ何とか」話にならない。

「まあ、今日のところは帰ります」

「じゃ、住み続けてくれるんですね」

「それは、また考えます。そちらも何か考えておいてください」

「考えるって?」

「だから家賃を安くするとか」

「いやー安くなっていますよ」

「もっと」

「いやー」

「なんか。それなら住み続けよう、みたいな何かです」

「いやー」いやー、いやー言ってるんじゃないよ。と思ったが、とりあえず不動産屋を後にする。

「ありがとうございます」不動産屋をでる時、おじさんが深々と頭を下げた。

複雑な心境だ。確かに可愛いのはみとめる。美少女でドはまりの、タイプだ。でもねー。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る