第71話「高度に発達したスキルは魔法と見分けがつかない」


「あの二人……」


 学校の教室。

 今日も行われる普通の授業。

 すでに実践を行っている俺達とは裏腹に教室のムードはとても閑散としていた。


「それで第三次世界大戦の火種は切って落とされることになり……って、おい、國田は聞いているのか? 外に何かあるのかな?」


「えっ——あ、はい!」


「おい、お前は最近公欠が多くてただでさえ遅れてるんだからな? 頭がそれなりにいいとは言え、よそ見はいかんな」


「は、はいっ!」


 クラスの仲間は皆、俺の事を受け入れつつあったが全員が全員そうとは言えなかった。


 爆発していた不満。


 俺が黒崎さんと一緒にいると言うくだらないことで男子生徒の半分おふざけだったが反感を買い、クサビとジンが消えたことで安堵していた他の生徒たちとは違う人たちが俺を少し違う目で見るようになった。


 まぁ、今まで雑魚だと思ってきた男がS級の黒崎さんと一緒に行動しているとさぞムカつくのは否めない。


 慈悲で助けてるだけだと思っていたら、親しげだもんな。


【早くセックスすればいいのに】


 っておい、あんた久々だな姉さん。


【神の悪戯の効力はいつまでも持ちませんよ】


 ……え? 何そのスクープ。


【まぁ冗談ですが】


 ……ムカつくな。



 ……あ、黙った。


「おい、國田。またよそ見か?」


「い、いえ! 違います!!」





 そんな日常に加え。

 俺たち4人によるAランク迷宮区の攻略は続いていった。


 もちろん、雫や璃々の事もあり俺と黒崎さんの予定的にも、それに加えて下田さんや斎藤さんの他の任務や訓練と平行でもあったので長い時間、フル稼働で行うと言うことはなかったためもあり、探索の任務は難航を深めていった。


 いつも以上に短い時間で、どうやって攻略を進めるかと言う観点での戦い。


 かなり難しかった。


 いつもなら、もしくはよくあるRPGゲームなら、もっと簡単に裏ルートや直線で綺麗に深層へいけるかを考えるが俺たちの任務はだったからだ。


 Aランクのわき道や行き止まり、別れ道の数々は潜れば潜るほどまるで木の根の様に増えていく。それを一日ずつ、一つずつ攻略していくのは骨が折れる。


 それに加えてBランクを優に超える未知の魔物との戦い。


 ・スライムシープ(B+)……粘性のある羊型魔物。群れを為し、ねばねばした酸を放つ。※硫酸よりも酸が強く、王水の様に金を溶かすことができる。

 ・ギガントエレファント(B+)……行き止まりの部屋の壁に擬態し、突如襲い掛かる巨大な像型の魔物。硬さはクリスタルドラゴンよりもないが極度な再生能力を持つ。

 ・ヘルファイア(A-)……炎上網、意思はなく、ただそこに存在するだけの炎。探索者を感知して迷宮区から突然飛び出して纏わり付く。


 ——といった頭のおかしな魔物との戦いには本当に骨が折れた。というか、そのままの意味で黒崎さんはギガントエレファントに対して骨を折っている。


 もちろん、斎藤さんの回復魔法で治りはするが心の傷や神経伝達までを完璧には治せないし、体は元気でも精神的な疲れは溜まる。


 簡単に言うがこんなのと渡り合ってきた探索者は問答無用に尊敬してしまえるくらいに凄かった。


 ヤバい奴らとの戦いで楽しかったとは言い難いが、おかげで俺もスキルの扱い方がより鮮明に分かった。


 知覚系のスキルの常時使用にも近づいた。


 そのままの意味でとらえると少し乖離があるが、自分や周りに害を及ぼすような危機的なものなら常に感じ取れるようにはなった。


 加えて、やつらの持っていたスキルでもある。


・粘性酸(B)

・擬態(C)

・炎上(B)


 も習得することができた。


 ただ、良い反面、代償としてというかなんというか……まぁ、結果的にあのブルードラゴン自体の発生の原因は分からなかった。


 俺の未来予知スキルや視覚向上スキルや知覚向上スキルでこの迷宮区の終わりは近いと言うことが分かってきたが結果的にはそれだけ。


 もちろん、それ以外は何もわかなかったと言わざる負えない。


 まさに、得られたものは俺達の経験値のみだった。


 そして、何よりも。


 そんな経験値なんかよりも霞む話があった。


 そう、それは——————






 ――その一時間前。

 探索者ギルド札幌市中央区支部の報告室にて。


「下田君。最近の攻略はどうかな?」


「ギルド長。いや、まぁまぁですね。あまり進んでいるとは言い難いかと。涼宮さんのこともありますし、一日の稼働上限が4時間となると……」


「はははっ。無論分かってるさ。そんなんで皆を無能だとは言わないし……何より君たちは凄い。Bランクの迷宮区をたったの4人で渡り合ってるんだからね?」


「……まぁ。すべては國田君のおかげですけど」


「彼はどうかね? 私のお気に入り」


「凄いですよ、まったく。あれでまだ5パーセントの力しか出してないって言われて度肝を抜かれました。というか、抜かれすぎてもう抜く度肝がありませんよ」


「ぶははははは!!!!! そうだろぉ!」


「……えぇ」


「彼にはもっと強くなってもらわないとだがね~~」


「どうしてなんですか?」


「それは言えない。これは国家機密に関わる」


「じゃあ……HYSOPPに入れさせた目的は彼にアンチスキルを倒させるのではなく?」


「それはもちろん目的だよ。その一つ。ただ、彼の力はその程度で言い表せるようなものじゃあない。最強の力さ。私も現役時代に噂を聞いた事がある……」


「……最強。チープなものですね」


「どごがかね?」


「最強。最も強い。彼はそんなの優に超えていますよ。あれはもはや……人の領域を超えている」


「ははは……それはそれでチープなものさ。昔から言うだろう? 高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかないと。クラークの三法則だったかな? まぁ、科学ではなくスキルだが、同じものだ」


「……まぁ」


「と、そんな話はいいとして、悪い知らせがある。彼女の話だ」


「彼女? 涼宮さんの事ですか?」


「あぁ……あの娘の話。そして、あの異常発生の話でもあり、核の話でもあるぞ」


 息を飲む。

 そうして、その日の夜。

 俺と黒崎さん、下田さんに斎藤さんがギルド長室へ呼び出されたのだった。





PS:カクコン現代ファンタジー部門中間選考突破しました! いつも応援ありがとうございます!!!!

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