第72話「正体は――」
呼び出しから2時間前。
もともと休日だった今日、俺は黒崎さんに付き添う雫の傍ら、暇そうだった莉里を連れて少し外に出ていた。
莉里のほうも学校生活にすっかりと慣れてきて何人か話せる友達もできたらしく、笑顔が地道に増えていた。
正直、俺自体は何もしていない。
男だからという理由であまり遊んでいなかったし同じ中学生だからという理由もあって部屋も雫の部屋を使わせていた。
それに女子だからというよしみでなのか莉里ちゃんは俺とではなく、黒崎さんとよく話していた。正直な話、妹じゃない年下の女の子は少し扱いずらいというか……なんて接してあげればいいかわからない時もあったしそういう部分ではよかったけど。
まぁ、とはいえ、匿うと言ったのは俺で、いろいろと謎の多い彼女の受け入れを願ったのも俺なわけで。
ただ、そんな扱いずらいだなんて心配も杞憂だったようですっかり雫の様子もうかがえるようになった彼女が俺に声をかけてくれたのだ。
「あの……外、遊びに行きませんか?」
と。
ちょっとびっくりしたがもちろん二つ返事で前々から興味があったと言っていた美術館へ連れて行ったというわけだ。
高校生というか、そういう才能がなくて芸術や美術的なものを見てただ圧倒されるだけだったが彼女は目を光らせながら眺めていた。
かぶりついたかのように眺める数百年前の絵画。
混乱時期だった時代も乗り越えてぼろぼろになりながらも残った絵に懐かしさを覚える俺とは裏腹に、彼女はとても楽しそうに眺めていた。
にしても、これは将来は美術系の高校に進ませないといけないなと思いながら、球形でお昼は備え付けられているレストランに入った。
「どう、決まった?」
「……んと、え、こ、これ」
目の前の席で恥ずかしそうに指をさす彼女。書いてあるのは「特盛イチゴパフェ」。
「おう、いいよ」
俺の言葉に目を泳がせ、しどろもどろになりながら、顔も真っ赤にする姿は年相応というかかわいいところもしっかるあるんだと安心できた。
さすが、俺の妹と仲良くしているだけあってなかなかして……とロリコン認定は避けたいからそれ以上は言うのをやめておこう。
とにかく、一日中遊びつくして服も買ってあげたり、つけたいと言っていたアクセサリーも買って、帰り道についた時だった。
「お兄さん、今日はわがままにつきあってくれてありがとうございます」
手に持った二つのキーストラップを見ながら、静かな声でそう言った。
「ん、それは気にしないでよ。俺も莉里が楽しんでくれたらそれいいし」
「それにおそろいのこれも買ってもらいましたし……」
「いんだよ。俺だってこれでも年長者だし、一家の家計を支えている大黒柱って言ってもおかしくはない!」
「だいこくばしら?」
「んと、まぁ、リーダーって感じかな?」
「リーダー……お似合いですね」
「あははは」
黒崎さんがいたら噛みつかれそうだし、雫には否定されそうだけど。
にははと笑みを浮かべる莉里の姿は見ていてほっとする。
ぼろぼろになった彼女はあまり見ていられなかったしな。
「莉里はどう? 最近、学校とか楽しんでる?」
「はい! 知らないことも多くて勉強はこれからついていけるか心配ですけど……でも楽しいです! いろんな人がいて、私は今まで一人だったので……」
「そうか、ならよかったよ。正直、上の人に声かけたときはちょっと否定的だったけど。そこはうまくやってくれたみたいだし。いやなこととかはない?」
「はいっ。ないです! むしろ楽しいこといっぱいで今までよりも最高です!」
「おう。雫もしっかりやってるか?」
そう尋ねると少しだけ迷ったように顔をしかめて、ぶるぶると首を横に振ってから呟いた。
「雫ちゃん、学校でも明るくて……すごいです」
「ほぉ……仲良くしてる感じ?」
「仲良くってどころじゃないくらいなかいいですよ。私なんかよりもたくさん親しい人がいて……嫉妬しちゃいました」
「はははっ。それは俺もだ。好きな子がいるだなんてしってびっくりしたしな」
「……そ、それは、すみませんっ」
「どうして莉里が謝るんだよっ。まぁでも、俺はまだ認めてないがな!」
「でもいい人そうでしたよ? それに雫ちゃんいっつもお兄さんに厳しいのに男の子には優しくて……」
「な、なぬ⁉ まじで⁉」
「は、はいっ」
いつの間にか手が勝手に動いで莉里の肩を掴んでいた。
「あっ……ごめん」
「い、いえ……」
「まぁでも、確かにいろいろ縛るのはよくないよな」
「え?」
「いや。二人には自由にしてもらいたいってことだよ」
「私は今で十分自由ですよ……」
「?」
「なんでもないです。早くいきましょ!」
ふと見せた暗い表情。
あまり気にしなかった俺はそのまま手を引かれながら家に帰った。
そうして、それから2時間後。
ギルド長の黒沢城之助の部屋に訪れた俺はあの表情の深層に少しだけ近づくことになる。
出会って早々、彼は重苦しい表情でこう呟いたのだ。
「涼宮莉里……あの娘の正体は――」
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