第70話 閑話「唐揚げ戦争」
雫に好きな人がいるとかいないとかで色々と話を聞いた俺が正気を取り戻してから数日。
「じゃあ、二人とも頑張ってね!」
「雫、お姉さんとして莉里をサポートしてやってくれ。一応、学校には許可も取ってるし話もいってるだろうからな」
「分かってる~~任せて! じゃあ、いこっか!」
「う、うんっ……」
そんな感じで楽しそうに笑みを浮かべる雫に、やや頬を赤くして心配そうに頷く莉里を送り出して、俺と黒崎さんは普段通り高校へ向かった。
昼休みになり、お互いに同じ人――雫に作ってもらった美味しい弁当を広げて、人気のいない屋上のベンチに座る俺と黒崎さん。前の名前呼びの話から若干空いてしまった隙間も埋まってきたようで、俺と一緒にいるときに微かに放っている冷気が少しだけ少ない気がしていた。
「「いただきます」」
声をあわせていつも通りの挨拶。
特段変わらない日常に感謝を抱きながら、弁当を開けて目に入った唐揚げをパクっと口に入れた。
「うまっ」
じゅわっと解ける肉汁が常温で冷たくなっても変わらない味を出していて、冷食とは全く違う雫の手料理のレベルの高さを再確認する。
「……私も作れるようになりたいわね」
隣から頬っぺたがおちたかのような蕩けた関心の声が聞こえてきて、我ながら自慢の妹だなと胸を張った。
「黒崎さんが作ると心なしか冷たくなりません?」
「うるさいわよっ。仕方ないじゃない。訓練して押さえれたからとは言っても多少は出ちゃうんだから」
「アイスとか作ってくださいよ」
「舐めてるの? やるわよ?」
「舐めてないですし、怖いからやめてくださいっ」
「っ腹立つわね」
そんな下らないいじりを挟みながら、俺は次の料理に目を向ける。
ニンジンやキュウリが混ざったポテトサラダ。ポテサラは俺の好きな食べ物で、元は両親が良く作ってくれていたものだが、そのレシピをアレンジして雫がもう一度食べさせてくれている。
これもまた、美味しくて何とも言えないしょっぱさと酸味がいい具合に旨味を引き出してくれている一品になっている。
俺の味の好みと言うか、お互いの味の好みが似ているというか。
一緒の人を好きになるところとかを見ると改めてしっかり兄妹なんだなと感じるし、なんだかんだ言って雫は俺の事をよく分かってくれているからな。
最近はちょっと反抗期チックなところがあるけど、兄の俺は知っているつもりだ。ただ、やっぱり反抗されるのは心に来るものがあるけど。好きな男子の件もちょっと心配し過ぎた。黒崎さんのフォローがなくちゃ脛蹴り連発だったろうし。
「あ、そのポテサラ私も作ったわよ」
そんなところで隣の黒崎さんは口に運んだポテサラを見るとそう言った。
「確か、莉里と作ったんですよね?」
「えぇ。あの子、なんか料理すっごく上手なのよ。私なんかよりも一瞬に飲み込んじゃうもんだからプライドがズタズタよ」
「なんかそう言う過去でもあったんですかね?」
「一人でいたとか? ずっと一人暮らしだった的な?」
「そしたら黒崎さんもうまくなってるじゃないですか~~っいててててて、ごめんなさい、何でもありませんっ!」
いじりが少々鋭かったらしい。ムスッとして抓ってくるの結構いたいんだよな。
まぁ、ちょっと意地が悪かったのは認めるけど。
「はぁ。まったく、國田君は……余計なところばっかり強くなって腹立つわよ」
「余計なとは……俺、黒崎さんみたく探索者で強くなるのが夢だったんですよ?」
「そっちの話じゃないわよ。それに、あなたは最初から強かったわ」
「え、そんなことないですって。俺、最初はまったくと言っていい程叶わなかったじゃないですか。それに黒崎さんの戦闘を間近で見た時は度肝抜かれましたし」
「……褒めても何も出ないわよ?」
「別に何か欲しくて褒めたわけじゃないですって。でも、くれるのなら雫が作ってくれた卵焼きくれません?」
「っあ、ちょっと勝手に取らないでよ!」
「いただき~~っ」
むぅっと頬を膨らませる可愛い顔を浮かべながら冷気をドバっと放出させる。
「あ、ちょっとさすがにそれはなしですよ。黒崎さん?」
「なしとかそういうのないわ……私にもくれるわよね、肉?」
「いや、俺が取ったのは卵焼き……っ」
「————何か、関係ある?」
「うっ……た、助けて」
「今更助けなんて来ないわよ!!!!!」
直後、霧散する冷気の中の合間を抜けて俺のお弁当を狙ってきたのは言うまでもないだろう。
と、お弁当をすべてかっぱられた俺は腹を膨らませて一息つく彼女の隣に座っていた。
「……私を舐めないでよね」
「流石に急にはずるいです」
「ずるくないでしょうが。未来予知でも知覚なんとかでも使えばよかったのに」
「そんな簡単じゃないんですよ! 俺だって今、使えるように訓練してるんですから!」
「さっさとできるようになることね」
「っ」
——続く。
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