第69話「莉里、学校に行く」


 莉里を預かってから2週間が過ぎると、ギルド長からの声もかかり俺たちはまたしてもAランク迷宮区の深層攻略がスタートした。


 Aランク迷宮区の攻略は難易度が高いためまだ終わってはいないが前回のように一気に攻略するのではなく、ゆっくりと攻略するという方式に変わった。


 理由はいろいろあるが、あのような事態に備えてということと雫と莉里二人だけにしておくのはちょっとかわいそうだしいろいろな面で危険だということらしい。


 彼女が危険、というのもあるにはあるが大きなのは実は巨大な組織の娘とか、捕虜だったとか、そういう問題があった場合に雫まで影響が行くからだ。


 いくらギルドが運営するがちがち防御なマンションとはいっても、そういう組織的な輩は突破する機構を持っている可能性もある。俺の情報を手に入れたように入らないとは言い難いし、見張りをつけて俺たちも一緒にいる時間を増やすことにしたって感じだ。


「あの、ツカサさん。掃除したいのでお部屋入ってもいいですか?」


「ん、あぁ、いいわよ。ってでも、掃除なんかしないで遊んでていいのよ?」


「いや、私は居候させてもらっているので何か……」


「大丈夫よ。私がするから雫ちゃんと遊んでなさいっ」


 まぁそんなこんなで莉里はあっという間に俺たちの家の一員になった。


 最初は懐疑的だった黒崎さんもいつの間にか仲良く話すようになっていて、雫とも波長が合うのかよく恋バナ、好きな漫画の話だったりをしているのをよく見かける。


 

 ソファーに座って会話をする二人を俺は使い終わった皿を洗いながら見つめる。

 俺も気分はお父さんでなんかこうしてみるとちょっと娘みたいに見えてくる。


 まあ、それもそれでありかなとも今の俺は思っている。


 まだ17歳の高校2年生なんだけどな。

 あ、て言うか修学旅行いつなんだろ。そろそろかな。



「雫ちゃん、学校に友達とかいないの?」


「え、私!? うーんいるよ? でも私はバイトもしに行くしあんまり外じゃ遊ばないかな~~。それにうちの中学校は部活してる人多いし、あんまり遊ばない女の子のほうが多いかも」


「そう、なんだ……家に呼んだりはしないの?」


「うーん。だって、うちにはツカサちゃんとかお兄ちゃんとかいるし、つれてきたらいろいろと面倒なことになるでしょ?」


「た、確かに……それはつらい、よね……」


「うんうん! うちのポンコツおにいのせいで私は青春できないし~~」


 いたずらな笑みを浮かべながら小悪魔のようにつぶやく雫。

 ほんと、我ながら策士な妹だ。


 ただ、生憎と今の俺は昔の俺とは違う。


「俺はいっぱい稼いでるだろ、今はっ」


「えへへ~~そうだね、でももっと稼いでほしいなぁ~~」

「なんでだよ」


「旅行行きたい!」


「率直だなずいぶん」


「だって、せっかく莉里ちゃんいるし、いっつもここで一人っきりでかわいそうじゃない? 私が出払ってるときとかずっと一人ですることもないじゃん?」


「え、いや、私は別にっ」


 急に回ってきたという顔をしながら慌てて否定する莉里の横で、「ほらー」とほほを深ませる雫。


 これはこれではめられたなとも感じたが、雫の言い分はあながち間違えでもないんじゃないかと感じた。


 俺や黒崎さんは休日も平日も任務のために外出している。何せ、俺と黒崎さんはまだ学生なために学校にも行っている。お互い、テスト時期には勉強しなくちゃいけなくなるし、生活費を稼ぐために任務だって欠かせない。


 それに雫だって中学生だ。


 平日は学校に行くし、以前よりもかなり減ったがバイトにだって週1,2で行っている。やめてもいいぞといったが自分で稼ぎたいから続けるといっていたし、任意とはいえ家を空けている時間が多い。


 すると、もちろん莉里はこの家で一人になるわけだ。


 見張りと言っても遠くから監視しているだけだし、魔力やその感知系のスキルの人が周りにいるだけ。


 彼女視点で見ればただ一人で家にいるだけになる。まだ越してきたばかりであまり娯楽もないし、俺たちもゲームがすることがないために遊べるものもない。


 スマホの一つや二つ買ってもいいけどとは思っていたが結局できずじまいだ。


 それに……いつも雫の学校での出来事についてばっかり質問してるし、雫以外に友達ができないのは辛いことに感じる。


 友達、欲しいよなぁ。


 そう思ったところで黒崎さんが呟いた。


「ねえ、それじゃあ莉里ちゃん学校でも行ってみる?」


 その言葉にハッとした。言われてみればその手があったかと。


 確かに、そんな心配は莉里ちゃんが学校に行けば解決する。あいにくと莉里ちゃんは可愛い。


 男子人気も得られるし、転校生的な立ち位置で入学すれば友達はできるのでは、と。


「確かに……」


 いや待て。

 戸籍もないかもしれない子をどうやって入れる?


「でも莉里ちゃんは身元不明ですよ? 年齢は魔力で測定できますけどそこまでわからないですし……」


「それはうちのトップに何かしてもらえればいいわよ」


 その手もあったか。

 にしても、いいのかそんなことして。いくら国の機関だとはいえ……改ざんって。


「だいたい、この子はうちの不手際だし」


「それはまあ、ごもっともですけど……国が怒りません?」


「あの人なら大丈夫よ。伝説が伝説を呼んだ男だし、何よりペラが回るもの。私だって言いくるめられないんだから」


「それは……確かに」


 現役時代は確かにテレビにでがちだったし、議員になっていた時期もあった。


 話もいいし、なんだかんだ人柄もいいし。


「じゃあ、掛け合ってみる?」


「え、いいの!?」


「本当、です……か?」


 驚く2人。

 行き当たりばったりの思いつきではあったがやってみる価値はありそうだ。



「できる限りのことはやってみるよ」

「えぇ、私たちに任せなさい!」



「や、やった……雫ちゃんの好きな男の子に会えるっ……」


「あ、な、何言ってるの!?」


「え、だってこの前……かっこいい子がいるって教えてくれたから……」


 え、何?

 今、なんて言った?


 直後、場が固まる。

 焦り真っ赤になった顔で莉里の口を塞ぐ雫、それに対して驚きびっくりする莉里。


 まさに、修羅場が突如として発生したのだった。

 

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