第64話「ご乱心の氷姫」
ーーと、なんだかんだ俺に文句を言いまくっていた3人だったが今度ばかりはそうもいかなかった。
あれから小一時間。
俺たちは道の迷宮区を片っ端から進んで行った。
まず、この間で分かったことがある。
上位の迷宮区には別れ道が多く存在していることだ。俺が今まで行ったことがある迷宮区はCまでだが、FからDまでの迷宮区には別れ道はほとんどの場合存在しなかった。
特に、FやEの迷宮区ならそれは顕著で皆無と言っていい。とにかく深層までの一直線のみでどこかに分岐する必要もなく攻略は簡単だった。
無能だった俺でも2,3時間もあれば攻略できる程度で何日もかけていくような場所ではない。
ただ、ランクが上がれば難易度が上がるのは必然で、Dランクだとあるところにはあり、Cランクにもなるとその別れ道の数は一気に増える。
無論、ボスと言えるそのランクの魔物が現れるのはその中で一番深いところに繋がっている道だ。
とにかくその数が多くなると消耗も大きくなり、そう簡単に攻略はできないようになっているというわけだ。
だが、俺たちはそんな別れ道を俺のスキル【未来予知】で選び抜いて進んでいったため約2時間と少しで中盤あたりまでやってきていた。
正解の道ばかり選んでいたためか魔物が現れてもCランクが数体だけだった。将来的に、魔物の現れやすい場所やその出現条件に付いて大学で論文が書けそうなくらいコツが分かった。
すごい発見ではあったが、俺の心の中の興奮とは裏腹に俺の隣を歩いていた氷剣を手に構えてやる気満々な姿をしていた黒崎さんは少し退屈そうに愚痴をこぼした。
「なんか、味気ないわね。ここまでくると」
「あ、ツカサッちもそう思ってた?」
「えぇ、どうしてかね」
すると、二人はまたもやジト目を俺に向けた。
「……文句ありますか」
「いや、別に」
「なんでも、ないけどさ……っ」
さすがに何度も言われるのは俺も嫌なのでそう言い返すと二人はボソッと呟いてそっぽを向いた。
まぁ、若干ネタと言うかそう言うノリ的な部分はあったがそれでも心配してくれたのか下田さんが苦笑いを浮かべながらこう言った。
「二人とも、そう攻めないでください。これは仕事なので國田君が正しいですよ。実際、Aランクの迷宮区を早くここまで来れてるわけですから、だれ一人怪我することなく来れてることが凄いんですし」
「下田さん……」
「分かってるわよ。もちろん、さすが國田君だと思ってるわ」
むにゅーと気に食わない顔をする彼女。
まぁ、そんな表情もどこかで見たことがある。
どこか、それは紛れもなく俺たちが一緒に住んでいる家ではあるがたまにほかの探索者の話をしているとよく顔を顰めていた。
他の探索者。
ん、いや待てよ。
あぁ、そういうこと……なのか?
ふと気が付いて隣を歩く黒崎さんの肩を叩いて尋ねてみた。
「——あの、もしかして黒崎さん」
「な、何よ」
「嫉妬、してるんですか?」
「——んなっ⁉」
結果、図星だった。
真っ赤な頬に、ビクッと飛び退いた身体。
後ろを歩く下田さんと斎藤さんもその状況にやや驚きつつも次の瞬間には噴き出していた。
「っ」「っふは」
「や、やっぱり……」
思い返してみればそうだった。
俺と黒崎さんでHYSOPPの会議をしに行き、他にもメンバーがいると言われた時彼女は少し顔が歪んでいた。歪んでいたというかムスッとしていた。
それに、俺がよく家でニュースを読んで居た時も黒崎さんはあまりいい顔をしていなかった。
ツンツンと肩を触って来たり、お菓子を作って食べさせたり、なんなら大胆にゲームや映画をしたり見ようと誘っていた。
なんか、妙に最近ムスッとしている時が多いなとは思ったけどどうやらその原因は他の探索者と一緒にいたからとのことらしい。
「——そ、そうなの、ツカサッち?」
俺の分かり切った視線を遮る様に斎藤さんの不純な問いを込めた眼差しが向けられる。
もちろん、反応は余計に分かりやすいものだった。
「……ち、ちがっ、そういうことじゃなくて……別に嫉妬なんかしてはいないけど……」
「そうなの? ほんと?」
追撃するかのように問いただす斎藤さん。
すると、挙句の果てには何か思いついたのかそれのほうを見つめてニコリと笑った。
「あっ」
「え? な、なんですか?」
「うんとね、ツカサッち。これ、どうかな? 嫉妬してないなら大丈夫だよね?」
次の瞬間、むにゅり――と腕に柔らかい何かが当たった。
「っ⁉」
思わず反射的に飛び退こうとするもガッチリとホールドされていて逃げ場はない。グイグイと引っ張られて俺の体が斎藤さんの方へ倒れる。
あまりにも近づきすぎたため、そのまま頬が斎藤さんのそれをぶつかった。
「ん、いやっ、ちょ、斎藤さん!」
「ほらほら、どうかな~~ツカサッちもはくじょうするかなぁ~~!?」
むにゅり、ふわり、ぽにゅり。
やわらかいものと、汗と香水のいいにおいが混じった女の子らしい匂いが俺の鼻腔を刺激してきて、頭が真っ白になりそうだった。
無論、目の前で見ている黒崎さんも例外ではない。
俺のあられもない姿を見てそれはそれはご乱心と言ったご様子だった。
じりじりと握り締めた拳が視界に映る。
徐々に近づき、そして、急に腕を離される。
「——え、ちょ、黒崎さん?」
「っわ、私の気持ちも知らないくせに!!」
「待て、待て、待て、話を聞いてこれはそのちがっ!!」
それはもう不可抗力と言うか理不尽だった。
拳が思いっきり頬を突き抜け、さっそうと脳が揺れる。
次の瞬間、俺の記憶はほんの一瞬だけ吹き飛んでいたのだった。
五分後。
「っ……ひ、ひどいですよ。黒崎さん」
「うぅ……私もどうしてなぐるのよぉ~~!」
今回ばかりは俺だけじゃなくて、元凶の斎藤さんも殴られていた。
ひりひりする頬を抑えながら、ムスムスとして怒りと恥ずかしさを滲みだす黒崎さん。
次々と現れ始めたCランクの魔物をサンドバック化の様に切り刻む姿に俺は後ろで文句を垂れながら見つめていた。
「さすが甲鉄の氷姫ですね」
「暴虐の氷姫のほうが似合いそ~~」
「……っ」
斎藤さんの一言にクスッと肩が揺れる。
すると、黒崎さんが後ろを向いた。
「なんか言った?」
メデューサのような恐ろしい目ですぐに視線を逸らす。
「——なんでもないです」
「すみません」
そんな風に日常でもよくあるくだらない謝罪をした瞬間だった。
――『知覚向上・全』発動。
――『神速』発動。
――『跳躍』発動。
――『表皮装甲』発動。
第六感に引っ掛かった気配。
俺の体は直後動き出していた。
――――ギュインンンンンンンンンン!!!!!!
回転する何かが視界の端に現れる、その一瞬よりも前。
動き出した体は三人の前に飛び出し、その先には奴が牙を向けて突っ込んできていたのだった。
あの日、コテンパンにしたブルードラゴン。
それも30体以上に連なる軍勢が。
【スキルリスト】
『
『
『
『脚力増加・強』『神経伝達速度上昇・強』
『腕力増加・強』
『
『
『表皮装甲』『痛覚耐性』
<あとがき>
お疲れ様です!
本作には関係ありませんが、今日、新作の方を投稿しました!
異世界ファンタジーで、個人的にもかなり面白く作れてるなと思っているので是非読んでみてください! 面白かったら是非フォローしてみてくださいね!!
タイトル:魔法至上主義な異世界で【魔法適性0】の無能貴族に転生して領地を追放されたけど、俺だけが持つ固有スキル【
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