第15話 開拓の始まり

 おはようございます。本日も異世界の天気は晴れ。油断すると眠くなるポカポカ陽気が続いています。


 つーわけで、さっそくスマホを開いて建造ツールのクラフトをセットする。アンロックまで無駄に時間が掛かるからな。賢い俺はうまく時間を使っていくのさ。うん? なんで昨日やらなかったのかって? うるせえ、忘れてたんだよ! 言わせんな、バーカ!


 ぽちっとクラフトを開始すると、昨日同様にエゲつないほどにバッテリーが消費された……が、今日の俺はその程度じゃあ動揺しないぜ。なんたってたっぷりと魔石を持っているからな!


 何となく電池が少ないのが嫌だったので、ささっと充電を済ませておく。いいですよね、無駄に満充電。何でもできそうな気がしてくるぜ。


 そう、開拓ツールを使った肉体労働なんてキツそうな作業でさえ、今の俺には敵ではない! 


 さあ、来たれスコップよ! 現れよツルハシよ! 気合十分に『開拓ツール』をタップしてみると……唐突にカメラが立ち上がった。


 あれれ? 道具は? ははーん、なるほどそういうあれか? AR機能みたいなノリで開拓スキルが発動する感じ? 超常的な力で楽に開拓出来ちゃうアレなんだな? ふーん、肉体労働する気満々だったけど、こっちのほうがいいな。何が悲しくて異世界まで来て穴掘りで汗流さなきゃならねーんだ! 手のひらなんてもうグルッグル返してやりますわ!


 つか、ほんとカメラ使わせるの好きだよな。


 画面にはカメラを通した目の前の風景が映し出されていて、それに重なるようにメニューが並んでいる。なんだか有料のカメラアプリみたいなUIだな……。


 色々と出来そうだけど、まずは試しにこれかな。


【切土】と書かれたボタンを押すと、画面上の地面に網目状の模様が広がった。なるほど、わからん……いや待て、これなんか見たことあるな。ゲームだわ、そう、なんかのスローライフ系のゲームで見たことあるわ、こんなやつ。


 俺がやったPCゲーだと、仮選択した範囲をマウスでドラッグすると均される感じだったんだよな。つーことは……


 多分そうだろと、適当に少し離れた場所をスワイプしてみたら……ビンゴだわ。やや盛り上がっていた場所が切り取られて平坦になっていく。顔を上げて実際の景色を見てもちゃんと地面が均されている……。


「うわなんだこれおもすれ! やべーな神の力じゃん!」


 女神がくれた加護だからそれも当然か! しっかし、気持ちいいなこれ。シュシュっと画面を撫でるとスーッと地面が均されていく。削ぎ取られた筈なのにどこにも見えない土やら石やら草やらの行方が気になるが、気にしすぎると頭皮に悪いのでしらんぷりしとこう。


 ……やばい、これは油断するとずっと触っちまう奴だ。自制しねえとやべえな、ここら一体スーパーフラットにしちまったら割と洒落にならんわ。


 ようし、何となくだが勝手がわかったぞ。さっそく家を建てる場所と畑を作る場所を作っていこう。


 場所は……そうだな、せっかくだしあそこしよう。


 夢だったんだ、池なり湖のほとりに家を建てんの。実際やったら湿気やら虫やら災害やらで酷い事になんのは目に見えてるからさ、やりたくても出来なかったんだけど、ここならそんなの気にしなくてもいいからな。


 おーおー、スイスイ地面が平らになるのやっぱきもちーな! やべーわ、おもしれえわこれ。ハマるわ。スーパーフラット待ったなしだわ。


 っと、危ない危ない。マジでいらんとこまで削るところだったわ。今度は……そうだな【掘削】を試してみよう。


「ほいっと」


 適当に一カ所軽くタップしてみると、幅も深さも50cmくらいの穴がボコっと開いた。

 

 なるほど、1タップ50cmね。思ったより規模が大きいけど、開拓用機能だから最小値の設定がでけえんだろうな。


 大体の感覚はわかった。じゃあ押したままにするとどうなるのっと……おー、こりゃあいいね。押している間どんどん穴が深くなっていくわ。そのままスワイプするとそのまま掘れていくのね。いいねいいね。


「いやあ、楽ちんだわ。これでもうクロベエに掘って貰わなくてすみそうだな。お前穴掘り好きじゃないって言ってたしなあ」

「ふうん、そっかあ……」


 少し寂しそうな顔をしているので撫でておく。お前も自由なんだ、俺に言われなくとも好きな時に好きなだけ掘ったらいいさ。


 さて、これで基礎工事は出来そうだが、問題は玄関から敷地外に伸ばす道だな。見栄えがいいように均したはいいけど、このままじゃ雨でドロドロになっちまう。舗装は無理でもせめて砕石敷きたいよなー。


 ストレージにも小石が入ってはいるが、規模を考えるとストレージのだけじゃとてもたりねえ。


 となれば、塩の洞窟で掘削するっきゃねーよね! しかたねえなあ、砕石たんねえもんな! 掘らなきゃいけないよねー!


 というわけでやってきました塩の洞窟! 今日は塩では無くて石目当ての掘削だ。ではさっそくいってみましょう! 


 えい! ズゴゴゴゴゴン! とりゃ! ズガガガガガガン! いいねいいね! 気分が上がってきたぞ!


 ソイヤソイヤと岩に向けてスマホを投げまくってると、メッセが入ったようで穴の奥からポコンと音が聞こえた。


 手元に戻ったスマホをタップし確認すると……


『だーかーらー! 開拓ツールがあるのになんでスマホでやるのよ!!!(猫が泣いてるスタンプ)』


 だってスマホ投げるの気持ちいいんだもん。プチプチ潰す感じに近いのかな、これ。投げるとさ、ズゴゴゴゴゴゴンって景気がいい音がしてどんどん掘れていくんだもの。めっちゃすっきりするんだぜ、これ。やめられるわけないじゃん!


 そんなわけで無視をしてスマホを投げているのだが、投げるたびポコポコポコポコ通知がなってやかましい。


 たく、しゃーねーな。開拓キットでやってやるよ。自由にやれと言っておいてこれだから神々は信用ならん。


【掘削】をタップし、壁面を写して岩をタップすると……ゴリっと削れたな。


 ふむ。ならばそのまま押しっぱなしにすると……ゴリゴリゴリゴリゴリ……。


 これはこれで面白いな……。


 なんだろう、俺はこういう知育玩具のような物が好きなんだろうか……なんだかちょっぴり悲しくなってきたぞ……でも、楽しいっ! 悔しい! ゴリゴリゴリゴリ……


 ……ゴリゴリゴリゴリって、気付けば山のように積まれた石に囲まれていた。やべえな、マジで夢中になりすぎたわ。危うく石の中で即身仏になるところだったわ……。


 結構な量の石を用意できたが、これじゃあまだ荒いつーか、デカすぎる。もうちっと砕かなきゃならないけど……今度はこれを指定して【掘削】でいけるか? おお、いけるじゃん。いい感じの砕石になってくじゃんよ! えいえい! ゴリゴリゴリゴリ! やっべ、たのし……って、やべえやべえ。また夢中になっちまうところだった。


 さって、このあほほど出来た砕石どうすっかねーって……俺には便利なアイテムボックスがあるんだったわ。


 じゃあ、ちまちま一個ずつ収納を……なんてね。俺は学習する賢い生き物なのさ。そんな苦労をしなくても、指でまるっと範囲を囲えば内側の物が収納されるって学んだのさ。


 つーわけでさっそくまるっと範囲選択して……って、このままやったら要らないのも入りそうだな……やっぱタップしないとだめ? でもこれ、細かい石を1個ずつタップしてたら死んじゃうよお。指の先がガッチガチになって何かの達人みたいになっちゃうよお……。


 ポコン!


『アホな事考えてそうだけどさ、例えば『石』って念じながら収納すれば余計なものは入らないわよ』


 マジかよ。ご都合チートじゃん。どういう理屈かわからんが、意図しないものが混じって格納されることはまず無いらしい。うっしゃ、だったらさっさとサクサク入れちまおう。


「ぐるっとかこんでぽーい ぐるっとかこんでぽーい ぐるっとかこんでーーぽぽーい!」


 歌いながらぽいぽい入れていたらあっという間にスッキリした。むう……収納も面白かったな。なんだかものたりねえ……あ、そうだ! 岩山を全部砕いて入れてしまおうかしら? 塩も石もあって困るようなもんじゃなかろうし……いや、辞めておこう。ひと山消そうとしてるのがバレたら、パンちゃんからアホほど叱られそうだしな。


 範囲指定もさあ、早く教えてくれてればさ、岩塩だって昨日全部持って帰れたじゃ無いかあ。俺が閃いて試してなかったらさあ、コツコツ指で小石をタップしてるのを見るまで教えてくんなかったんだろうなあ。……なんつーか、ほんといじわるつーか、段取りが悪いよなー。


 ポ、ポコン


『き、聞かないのが悪いんだもん! 質問してくれたら教えてたもん!』


 ……ああ、これあれだわ。段取りが悪いとか意地悪とかじゃねえわ。パンちゃんも細かい仕様を忘れてた奴だわ。


 ぽんこつ女神め!

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