第14話 肉に塩、そして。
洞窟から戻りドサドサと岩塩をボックスに入れる。凄まじい量だが、採掘場にもまだまだ沢山残っている。ボックスの塩を使い切り、向こうに置いてきたのも使い切った頃、俺はどれだけこの世界を変えられているんだろうな。ふふ、なんだか楽しみになってきちゃったな。まあ、ゆっくり自分のペースで進めていこうじゃないか。なんたって時間はいっぱいあるんだ。
ゆっくり楽しみながら世界を弄くり倒してやろうじゃないの。
ポコン!
『真面目な顔をして語ってる所言いにくいんですけど、スマホのストレージとそのボックスは繋がってるって教えましたよね? なんでわざわざ移し替えてるんです?』
……そうだった……。
無意味な行動を指摘され、顔がかっと熱くなったが、居た堪れない気持ちと空腹からメッセは既読無視を決め込むこととした。
……さて、気を取り直してヒッグホッグの肉を焼いてみることにしよう。説明されてもスマホから肉を出すのはまだなんかやだな……なるほど、こういう時にボックスが役に立つというわけか。
鉄板なんて無いので豪快に棒に刺して焼く。鉄の串でもあれば楽なのだが、無いので棒が燃えないようやや遠火でじっくり焼いていくのだ。
遠火なので時間がかかる。こういうのは作ってる最中が一番つらい。ましてブタのような魔獣の肉だ。じっくり火を通さないと怖いので適当に切り上げて「レアだぜ!」と言い切って食えないのがつらい。さっきからジュウジュウと脂が火に落ちて良い香りを立てるもんだからもう辛い! おなか壊して良いからたべりゅうう! ってなる! つらい!
つらい修行のような時間を暫く過し……とうとうNIKUの時間だぁ! うおおおおお!!! っと、待て待て! 慌てるな! 岩塩だ! ナイフで削った岩塩をふぁぁさあっとかけるんだ。
うおおお! いただきます!
「うんめえええええええ!!!!」
「あちい! あちい! うまい! うまうま!」
クロベエも熱いのに耐えつつ、とろけた顔でむしゃぶりついている。いやあ、洒落にならん! これは本当に旨い。イノシシっぽい見た目からもう少し野性味溢れる獣臭い味を想像したが、普段スーパーで買ってる豚肉よりよっぽど旨くて参ったね。こりゃ完敗だ。
「ほんと美味しいわね! みてよ! この脂! 凄く甘いわよ!」
「へー! うおおお! マジだ! 脂までうめえとかやばいなこれ! 胡椒とかありゃなー」
「あるわよ黒胡椒! ほら、お肉みせて? 私がゴリゴリかけたげるから!」
「サンキュー! うおおおおお! 最強に旨い!」
「今度はこのレモンをかけて……んん~~~!!! 美味しい! 美味しい!」
「わ、レモン果汁あんの? 俺にもー! うっひょおおおうめえ! いやあ、塩レモン最高! ビールが欲しくなりますな!」
ひとしきりワイワイと食べ、良い具合に腹が落ち着いた所で異変に気付く。
「あのー、パンちゃんさん?」
「はい? あ、お茶ちょうだい」
「ああ、はいはい。茶は無いので水ですが……って、そうではなくて! あのー なんでちゃっかり居るんすか?」
「あれ! めがみ いつきたんだー?」
「え? あ! ああ! うん、様子を見てたらね、なんか美味しそうなの焼いてるじゃ無い? でさあ、私の今夜のご飯と来たらカップ麺だった訳よ。なんだかなー、ずるいなー、私も頑張ってるのになー、ガチャで爆死した分良いことあってもいいんじゃないかなー はー、肉かーいいなーそう言えば『私ロース!』っておねだりしてたなあって思ってたらここに居た訳よ」
「居たわけよじゃないよ! スルっと混じるとかぬらりひょんかよ! 胡椒とかレモンとかありがたかったけど、普通こう言うのって『まさかこれは……胡椒の実?』なんて偶然見つけたり、創造スキルで生み出したり……なんかこう、苦労して手に入れるようなもんじゃ無いですか? それを……こんな楽に……しかもスーパーの値札ついてるし使いかけだし……私物かよっつう」
「えっそっち? うん、でもそうね……軽率でした……ごめんなさい……異世界生活を楽しんでねと言ったのに、水を差しちゃいました……」
「ああいや、楽だしいいよ。楽しみを奪われたとか言ってるわけじゃねーから。あくまでも一般論をノリで語ってみただけで、俺としちゃーめんどくせーこと回避できるならそれでいいんですよ。つーわけでその胡椒はそのまま頂戴ね。また肉あげるからさ。ああ、なんなら今度は醤油持ってきてよ。醤油とか味噌とか自作すんのぜってーむりだしさ」
「えぇ……? まあ……うん……この世界をどう発展させるかは全部貴方に任せてるし、どんな手段を使おうと文句は言わないわ。前も言った気がするけど適当に色々やってくれたらいいから。適当にね」
異世界転移とかさせられたからこちらの世界を開拓して開発して地球のものを再現してどうのこうのやる羽目になるのかなーと思ったが、今のところは適当で良いらしい……。
もっと食い下がってみたところ、胡椒や醤油なんかはパンちゃん経由で買ってきて貰えることになったけど、流石にそうやって地球から輸入したもんをこの世界で売るというわけにもいかないだろうな。
あくまでパンちゃんから頂ける物は私用として、こちらの世界に住む人々用にちゃんと胡椒的なものやレモン的なものくらいは見つける必要がある。最終的に自立をさせなければいけないのだから、その材料を手に入れ、加工して使う文化を広めなければいけないんだ。
「そうそう、貴方の役割は人間族と魔族に文化を与え広めること。人間族はともかく魔族は難しいだろうけど私も手伝うし、がんばってねー」
「っ! 読心術か! つか、気軽に言ってくれるなあ……」
そんな感じで予想外の客が来てしまったが、楽しい夕食だった。
食料はまだたっぷりあるし、ヒッグホッグの石は2回満充電できる程の魔力があるようだったので、明日は狩りはやめ別のことをすることにした。
……すっかり忘れていたけど、開拓ツールのクラフトが終わってたんだ。
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