第13話 塩うまい
さて、収納の懸念も無くなったしさっそく片付けるとするか。肉は腐ると嫌だからボックスに入れて……金属片やらなんやらの直ぐ使わん素材もボックスにぶちこんで……毛皮もボックス……いや、風が当たるところに干しておこう。解体機能の妙で既に綺麗に鞣されてるけど、気分の問題ってやつよ。
これで当分肉に困ることは無くなったわけだけど、調味料無しで喰い続けるのはやっぱりしんどいわけで。
「さっそく岩塩掘りに行ってみますかねー」
「がんえん?」
「塩だよ、塩。おまえの体にはあんまり良くないんだけどな」
「どく?」
「食べ過ぎは毒だけど、無いと飯が不味くて俺が困るんだ」
「じゃあとりにいこー」
魔獣化してるから塩も平気そうだが、一応気にかけておく。有るか知らんけど、タマネギとかチョコとか猫の毒になる物は色々あるからなあ。魔獣の体質については後でパンちゃんさんに聞いてみよう。
いざ岩塩だと気合を入れ、クロベエにまたがり岩塩ポイントに向かってひたすら走る。地図からして少し遠いかなって思ったけど、15分くらいで岩場に到着しちゃったわ。こいつ本気で走るとはえーのね。車かよって速度出てちょっと色々出そうだったわ。
到着した先にあったのは見事な岩山だけど……正直何処を掘ったら良いか分かんねえ。こういう時はアレだな。オーケーグーなんとか的な、ヘイなんとか的なノリでアイツに質問をするに限る。
「親方ーどの辺掘ればいいっすかねー」
ポコン
『おう、そこの角のあたり掘って見ろ!……って誰が親方よ! ほら、あの出っ張ってる辺りから掘りなさい。奥にたくさん埋まってるわよ』
「ういっす!」
いやほんとノリが良い女神だわあ……
とりあえず掘ってみよう。と、言ってもツルハシなどは配布されていない。女神なパンちゃんが何も言わない……という事は、今ある手持ちでなんとかできると言う事なのだろう。
ふむ……なるほどひらめいた……!
「そぉい!」
大きく振りかぶってスマホを岩肌に投げつけてやった! 手持ちの道具で一番頑丈なのはどう考えてもこいつだ。他に便利な道具がない以上、こいつを投げるのが正解で間違いないだろう。
ガッ
いい音が鳴り響き岩肌が1m四方の範囲で砕け散った。うむ、予想通りの成果だ! つうか、ドン引きするレベルの破壊力だよこれは……。
ポコン
『ちょ! あんた何してんのよ! ばっかじゃないの!?』
「え? 採掘だけど……? みてみてースマホの加護のおかげで岩がどんどん掘れるよー ソォイ!」
ポコン!!
『って、また投げてるーーー! どんどん掘れるよじゃないわよ!』
ガッ
ゴッ
女神様からなんかメッセが来てるようだが、見る暇はない。なんたってスマホは手から離れているからな! ひょいっと投げ、どんどんテンポ良く砕いていく。
ノリノリで暫く砕いていると、途中でかわいい岩塩が顔を出した。
「うふふ これこれ!」
砕けて落ちた岩塩を隅にまとめ、もう暫く掘っていく。当分困らないだけの量は手に入ったけれど、なんだか楽しくなっちゃったのでどんどんいくよ! なんたって、軽く投げているのに結構良い具合に崩れてくれるから楽しいったらもう!
ガッ ゴッ ビシ!
……これ、思いっきり投げつけたらどうなるんだろう? 今は結構軽めに投げているけど、一体どうなっちゃうんだろう? なんか全力で投げつけてみたくなっちゃったな……ああ、やるしかねえな!
「ぬおっしゃああああるぁ!」
ズズンッ
ビシ ガッ ゴッガッゴガガゴゴゴッガゴゴゴッゴゴゴゴゴゴグッガゴゴゴゴゴ……
あれー跳ね返ってこないぞー?
すげー勢いで岩にめり込んだと思ったら中で反射してどんどん奥に奥に入り込んでいるようだ。思いっきり投げたせいで妙な貫通力がついたのか、普通に投げたのとは違って穴の入り口はスマホサイズの小さな穴だ。手すら入らない穴の向こう側で今も鈍い音を立てているスマホ……ああ、これはやってしまいましたなあ。
「まいったな……スマホロストしちまった……」
やっちまったと思って項垂れていたら、スッと手の中にスマホが現れる。
ポコン……
『……まさかこんな形で説明することになるとは思わなかったけれど、ロスト対策の加護もかけてあるのよ……』
もうすっかり丁寧な言葉を忘れたパンちゃんが説明をしてくれた。
・持ち主の手元からある程度離れると手の中に転移する
・近距離であっても拾えない場所に飛び込んだ瞬間戻ってくる
・なんなら念じれば手元に戻ってくる
・捨てようと思っても捨てられないと思え。何時もお前の後ろに居るからな
捨てないよ! 呪いの人形か何かかよ! 怖えな!
……しかしなるほどね。中々便利に使えそうだ。
失う危険が無いとわかれば楽しくなってきた。ちょっと投げるだけで砂山を削るかのように簡単に岩が削れていくのだ。あっちに投げこっちに投げ、ちょいちょい出てくる岩塩を拾い、再びあっちへこっちへ投げまくる。
気づけば使い切るのが無理そうなほど積み上がった岩塩が目に入って嫌な汗が出たが、調子に乗って掘ったおかげか良い具合の洞穴が出来上がっていたのは結果オーライだろう。これだけ広けりゃいつか何かに使えるだろうしさ。
ストレージを塩で埋めるのがなんか嫌だったので、とりあえず必要な分だけ収納する事にした。残りはこのまま洞穴に置いておいて後で回収すれば良いでしょう。誰かに取られるって事も無かろうし。
しかしかなり立派な洞穴を産みだしてしまったな。ううむ、これほんとどうしような? 取りあえず名前でも付けておこうかしら?
……うむ、そうだな。ここを塩の洞窟と名付け末永く言い伝えさせる事にしよう……。
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