第12話 解体すんぞ!

 イノシシを引きずり拠点に戻った。いや、嘘をつきました。俺にはそんな力はありません。チートは全部スマホに行ってますからね! クロベエちゃんに引っ張って貰いましたとも。


 ともあれだ。折角やっつけたことだし、解体する前に写真を撮り図鑑に収めることにしよう。


◆◇


魔獣:ヒッグホッグ 体長2m~5m 


泥浴をして体中に泥をつける。その身についた泥は魔力により性質が変わり魔鉄鋼となる。

……額のあれ、外骨格だと思ってたけど、あれ泥がヒッグホッグから滲み出る魔素と結合して硬化したものなんだって。ぶーちゃんに突っ込まれて気づいたよ。いやあ、大自然ってフシギだね♥


 そんなヒッグホッグは食べても美味だ。身はブタの様な肉質で脂は甘く、非常に美味である。筆者はロースを炙り、レモンと塩でいただくのが好みである。


◇◆


「筆者って誰だよ……いやツッコミどころが有りすぎる本文から推測できっけどよ」


 ポコン!


『私ですが?』


 即レスかよ。知ってたつーの。つか、こいつヒマなんだなあ……。


「レモンと塩って書いてるけどこっちにもあるの?」


 ポコン!


『ありますよー レモンはルンという果実ですが大体似たような形です。塩は海塩も無くはないんですが、大体は岩塩が使われてますね。ほら、うちの子たちちょっとアレなのでまともに製塩する技術が……ごほん。ええと、岩塩ですが、この辺りの岩場を掘ると出てくると思いますよ【位置情報添付】』


 おお、地図に岩塩ポイントのピンが刺さったぞい! やれば出来る女神様だわ。こいつを解体したらさっそく取りに行こう……解体……そうか、イノシシさん、解体しなきゃかあ……。


 釣りが趣味なので魚を捌いたことはある。鳥もヤマドリを貰った時、なんとかネットで調べながら頑張った。ちょっとキツかったけれど、なんとなく魚の延長的な感じがしたからな、そこまで辛くはなかったんだよ。


 しかしイノシシはどうだろう? 狩り漫画で解体シーンを見たことはあるくらいのもんで、まったくの未経験。


 忌避感はオオカミさんの魔石抜きで鍛えられたからマシだけど、果たして俺に出来るのかしら。ええと、漫画によると確か血抜きをして水につけるんだっけ? そんで木に吊るして……下に穴掘って……


 ポコン!


『はい、今アプリで出来るようにしました』

「まじかよ」


 この神がかった実装タイミングよ……まあ神がダイレクトで実装してくれてんだけども。


 でもさ、もう少しこう、なんというか……異世界であえぎたかったというか、苦労して食った肉は旨い! みたいな……こう……ロマン的な……おなかの中身とか見てグエー! とかは嫌だけどさあ……もっとこう……ねえ? 今色々考えてたとこだったのになあ。


 ポコン……


『要らないなら戻します……(しょんぼりキャッツのスタンプ)』


「いやいや! 助かるから! 血みどろになるの嫌だし、確実に失敗して不味いお肉にしちゃいそうだもん! マジ助かるし、ほんとにありがたいから! 戻さないで!」


 慌てて返事を書く。確かに少しがっかりはしたが、冷静に考えれば毎度解体はめんどくさい。サバイバルとか憧れはするけど、楽ができるならそっちのほうが良いからな! さようなら異世界サバイバルガチ勢だった俺! 俺はエンジョイ勢として生きて行くっ! 


 というわけで、ウキウキしながらアプリを見て見るとクラフトに『解体』というものが増えていた。ボタンを押すと画面がカメラに切り替わる。まあ、そうだと思ってたよ。


 画面上に大きめの四角い枠が見える。どうせこれに対象を収めれば……ほらね。『マニュアル解体』と『オート解体』のボタンが表示されましたわ。


「マニュアルは……なにかわからんが、まあいつか使うだろう。とりあえず今回は楽そうな『オート』で!」


 ポチリとボタンをタップすると、ヒッグホッグが光に包まれ中で何かが始まった。


 ゴキッ ガキッ ベリリッ ぬちょぁっ!


「音よ! ここまですんなら音も消えるようにして! 音がグロいから! つーか、こういうのってピカって光ったら『デデーン!』って肉だけ現れる感じじゃねえのかよ……はあ、中の様子は想像したくねえな……」


 少しの時間、お伝えするのもはばかれるような音が周囲に響いていたが……それもすぐに止み、中から毛皮と少量の金属片、そして大量の肉が現れた。電池の消費は……お、ほとんど減ってないじゃん。ラッキー!


 しっかし、見てくださいよこの肉の量! すっげえな、なんだか興奮してきたぞ!


「うおおおおおお! 見ろよクロベエ! 肉だぞ! 肉!」

「にゃあああ! にく! にく! にく!」

『ロース! ロース! あたし! ロース! ロース!』


「おい、今頭ん中に直接語りかけたのどこの女神だ!」


 しかしいきなり大物を倒してしまったわけで。


 あの巨体だぞ? 手に入った肉の量はかなりのものなんですわ。いやマジでこれどうすんべ?


 大抵この手の話だと中の時間が止まってるストレージスキルがあってさ、ぱっと手をかざしてしまっちゃったりしてさあ、無駄に大量の食材を保存しちゃったりするもんだけど……俺が持ってるアイテムボックスはスマホの機能だからなあ……。


『そうだ! 言おう言おうと思ってたけど、あんたアイテムボックス使えるのになんで使わないのよ? ぽっけを木の実でいっぱいにしてみたり、わざわざヒッグホッグをクロベエちゃんに運ばせちゃってさ。見ててイライラしてしょうがなかったわ』


「いやさあ、だってなあ?」

『中に入れればちゃんと鮮度を維持してくれるのよ? 感謝して活用しなさいよ』

「腐んねーのは助かる。マジで助かるんだけど……スマホの画面にお肉を当てるのはこう……ねえ? なんかさあ、抵抗が……あるだろ?」


 液晶にお肉のぬめっとした脂がつくんだぞ、嫌すぎる……。

 なんかコーティングしてあるって言ってたから拭けば落ちるんだろけどさあ、だからといってわざわざ付けたいとは思わないじゃん? 女神に魔改造されたけど、これ買ったばかりの新モデルよ? 怒りの一括13万円のスマホよ? 肉でヌチャアはちょっと……。


『ふふっ 肉をスマホに? プククッ 面白いこと言いますね? あーー! なんで丸太やら小石やらを画面にくっつけてるのかなって思ったらそういう事? フフッ 仕様上、確かにそれでも入るっちゃ入るけど、それって隠蔽用に用意した抜け道みたいなもんで……プッ……お肉を……液晶に……あは、ああそっか、馬鹿なのか君は! あははははははは』


「ちょっと女神様?」


『あっはっはっは……そう言えばちゃんと説明をしてなかったけど解体と同じなのよ。スマホよく見なさいよ。回収アプリも増えてるでしょ? それを押せばカメラが立ち上がるから、その枠内に入れて回収したいものをタップするだけ。簡単でしょ? あ、先に言うけどそのアプリは最初っからあったからね? 普通、すぐに気づくと思うんだけど、君と来たら、気付かないどころか、すまっスマホに……肉をあて…当てる心配をしちゃって……あはははははは』


「へー! なるほどなー! 教えてくださってありがとうございます! くそが!!!! でもこう、もっとこう、ねえ? 気楽にぽいぽい入れたいときとかいちいちアプリ起動してーとか面倒じゃないっすか? 他の方法があったりは……?」


『贅沢な子……しょうが無いなあ、じゃあいかにも”アイテムボックス”というような道具も出してあげる』

「やったぜ! そうだな、カバンタイプより指輪タイプがいいな! かっこい――』


 まだ俺が喋ってる最中だというのに、それをぶった切ってドスンという音とともに天から何かが降ってきた。


『はい、アイテムボックスよ。大事に使いなさい』

「まさかまんま箱型のアイテムボックスを寄越すとは……」


 見た目は大きめのクーラーボックスくらいの木箱……つうか、これまんまマインちゃんなクラフトのチェストじゃねえか。


 こんなふざけた見た目だが、大抵のものは大きさ関係なくヌルりと収納できちゃうすげー箱らしい。


 取り出すときは欲しいものを想像しながら手をいれると良い感じにヌルっと出てくるそうだ。スマホのボックスと連動していて、どちらからも出し入れが可能。念のために生物は入れられない様にロックがかかっていて、俺がうっかりぬるっと落ちる様なことはないらしい。


『あ、これめちゃくちゃ重たいから、移動させたい時はスマホのアイテムボックスに入れるといいわよ』

「アイテムボックスにアイテムボックスを入れるのか……斬新だな」

 

 親ボックスに子ボックスを入れると親ボックスと連動している子ボックスの中に子ボックスは有るのだろうか……なんてちょっと不思議に思ったけど、この件を深く考えると頭がどうにかなりそうだったので気にしないことにした。

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