ちょっとした悪戯

「……その、私は別に嫉妬とかしたわけではないんですよ?」

「分かってるよ」


 俺と翡翠を尾行していた白雪も合流し、俺たちは三人で過ごすことにした。

 翡翠は今トイレに行っているので白雪と二人っきりだが、二人になった途端に全然嫉妬していないと言い続けている。

 確かに嫉妬はしていないだろうけど、どんな風に過ごすのか気になったのと同時にやっぱり寂しかったんだろうなということは分かった。


「翡翠から色々と聞いたよ。白雪が寂しがっているのに気付かなかったわけじゃないんだけど、もう少し察しが良かったらなって思った」

「そ、そんなことないですよ。確かに寂しかったのは嘘ではないですが、それを斗真君が謝ることではありません!」


 素直に認めた白雪が可愛くて、俺は周りの目を気にすることなく思いっきり抱き寄せた。

 既に彼女はダサいサングラスとマスクを外しており、その美貌は余すことなく周りに見られているので翡翠同様に多くの視線を集めている。

 考えてみれば俺は彼女と運動をするために外を走っていたが、こんな風に色んな所から人が集まるデパートの中に来たことはなかったので、その分いつも以上に視線を集めているんだろう。


「ただいま……あら、私が居ないところでラブラブしちゃって」

「おかえり翡翠」

「……おかえりなさいお母さん」


 だから白雪さん、そんな嫌そうな声を出さないでもろて。

 さて、こうして俺の大切な彼女たちが合流したわけだが……ここからがある意味で俺にとって試練の始まりだった。

 ギュッと俺の腕を抱く白雪はともかくとして、そんな俺と親しそうに会話をする翡翠……目も眩むような美女を引き連れる俺には色んな目が向いていた。


「……まるで針の筵だな」

「良いじゃないですか。見せ付けてやりましょうよ」

「そうよ。王様気分になったつもりで堂々とね?」


 それはつまり、翡翠も白雪と同じように腕を抱きたいという催促なのだろうか。

 俺なら分かるけど白雪と翡翠は親子だが、絶対に周りの人はこの二人が親子だなんて分かる人は居ないだろうし、どんなに察しの良い人でもほぼ確実に姉妹としか思わないはずだ。


「試しにやってみましょうよ」

「えっ!?」


 ということで物は試しだと言わんばかりに空いている方の腕を翡翠が抱いた。

 両サイドから二人に抱き着かれることで、俺はいつもベッドの上で感じている感触をそのまま現在進行形で味わっている。

 ギョッとするような視線を向けてくる人も居るが、大半は分かりやすい嫉妬を織り交ぜた視線なのは言うまでもない。


「……一言言っていいか?」

「なんですか?」

「なに?」

「周りの視線が痛い……体に穴が空きそうなほどに痛い。でもそれ以上にこの感触があまりにも幸せすぎる」


 そう素直に感想を述べると、二人は更に強く密着してきた。

 ただ流石に俺の気持ちも考えてくれたのか、翡翠は俺の腕を離して隣に並び、これくらいは許してと言って頬にキスをしてきた。


「あ、私もキスしたいです」


 そして今度は白雪の方からも頬のチュッとリップ音を立ててキスをされた。

 はてさて、離れてくれたことで視線はいくつか和らいだがその後に二人から立て続けにキスをされた場合にどうなるか……はい、更に睨みつけられることになった。


(まあでも、これから先当たり前だけど慣れないとなんだろうな)


 二人と生きていくってことはそういうことだ。

 そんな風に二人と共に建物を出た後、ちょうど昼ということもあって昼食を摂ることになった。

 何を食べたいかと聞かれ、ちょうど目の前にカレーうどんが絶品だと看板が出ている店を見つけて腹が鳴った。


「カレーうどんですか?」

「良いじゃないの。行ってみましょうか」


 え、逆にカレーうどんで良いのかと俺は思ったがそのまま店の中へ。

 ちなみに誤解がないように言うなら俺はカレーうどんやこの店を馬鹿にしたわけではなく、ある意味でセレブ同然の二人が居てもこういう店に入るんだなと俺は驚いたのわけだ。


「美味しいものはなんだって美味しいからね。これでも私は会社の知り合いと食堂でラーメンを頼んで食べることもあるからね」

「へぇ……」

「あまり食べ過ぎるのはどうかと思いますけど、私もこういったものは嫌いではないですし。友達と昼食を食べる時に頼むこともありますよ」


 それはまた新たな発見とも言えた。

 とはいえ基本的にこういうのを食べるのは店に来た時だけで、カップ麺を食べたりすることはやっぱりないらしい。

 そう思ったら俺ももうずっとカップ麺は食べてないし、偶にはこうして麺類をいただくのもありか。


「らっしゃっせ~」


 中に入ると結構客の数は多かった。

 大人も多いがそれ以上に学生っぽい姿も見え、もしかしたら俺と白雪とは違う高校に通う部活帰りの生徒なのかもしれない。

 体操服姿の彼らは白雪と翡翠に目を向けた後、俺を見て目を丸くした後にヒソヒソト仲間内で何かを話している……うん、何も聞きたくはないものだ。


「……う~ん」


 三人ということで奥の方に案内され、ご座敷の上に腰を下ろした。

 特に何を欲しいとかはないので、絶品とされているカレーうどんを三つ頼んだ後に俺は自分の体を見た。


「どうしたんですか?」


 隣に座った白雪が聞いてきたので俺はこう答えた。


「いや……確かに俺は白雪や翡翠に比べたらあれだ。決してイケメンってわけじゃないけど、最近は痩せてきたことも含めて自分の変化に自信を持ってるんだ」

「はい」

「うんうん」


 自分の見た目が彼女たちに釣り合わないと思うことはもちろんある。

 だがそれを気にしても仕方ないのは当然として、俺は運動を通して変化した自分の体だけでなく、彼女たちが愛していると言ってくれる自分自身のことに俺は自信を持っているのだ。

 だからこそ、己惚れるわけじゃないがそんなに彼女たちの傍に居ることに疑問を持たれるほどかなと思ったのだ。


「結局、他人の言葉は所詮他人の言葉だ。だから最終的には俺の気持ち次第、二人が俺のことを想ってくれるだけで十分なのに、それでもなおやっぱり俺はだなんて言えないからな」


 だからこその自信だけど、まあ他人の感覚をどうこう出来るわけじゃないからな。

 気にしても仕方ないとして、俺は開き直るように隣に座る白雪をさっきしたように抱き寄せた。


「……すぅ」

「あ♪ もう斗真君ったら」


 首筋に顔を埋めるとくすぐったそうに身を捩ったが、嬉しそうな声を出して俺にされるがままに体の力を抜いた。


「本当に仲が良いわねぇ。どうして私が隣に座っていないかって思うけど、それ以上に愛する人と愛する娘の仲の良い姿は良いわねぇ」


 チラッと見た翡翠はうっとりするように俺たちを見ていた。

 こうやって白雪に触れているとやっぱり悪戯心というか、もっともっと彼女を困らせたいと考えてしまうのは正直ヤバいとは思っているが、俺の手は止まってくれずに彼女の服の中に入っていく。


「斗真君……? もう、困った人なんですから」

「嫌か?」

「嫌じゃないですけど、せめて声が出ないくらいには手加減をしてくださいね?」


 そうお許しをもらったので、俺は優しく白雪に悪戯を開始した。

 まあ傍から見ても精々抱き着いている程度に見えるだけで、服の中に差し込んだ手までは気付かれないはずだ。

 白雪の体に手を這わすと悩まし気に彼女は吐息を零し、何故か伝染するように翡翠の方にも変化が訪れる。


「お待たせしました~!」


 店員さんがうどんを持ってきたので瞬時に手を離したが、白雪の表情は色っぽいものに変化しており、そんな彼女の瞳を見た女性の店員さんも瞬時に顔を赤くしてしまった。


「ありがとう……ございます」

「あ、はい……ごゆっくり……」


 これは……俺が悪いのだろうか。

 俺がギルティなのだろうか……その後、俺たちは昼食を終えてのんびりとした時間を過ごしてから家に帰るのだった。


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