翡翠とも!

「なあ翡翠」

「どうしたの?」


 夕飯を終え、白雪がトイレに行ったところで俺は翡翠に質問をした。


「今日白雪と一緒に風呂に入ったんだけどさ」

「あら、それを私に言うなんて嫌がらせ?」

「違うから」

「分かってるわ。それで?」


 いや、完全に除け者にするなんて酷いというニュアンスを感じたぞ俺は。

 別に大事な話でもないのだが、俺の呼びかけに応じるように彼女は手元の作業を一旦止めて隣に座った。

 白雪と同じようにその体を押し付けるようにするのは彼女たちの癖らしく、毎度のことながら彼女たちの暴力的なスタイルには常にムラムラさせられる。


「……まあなんだ。俺って痩せたら俺の顔になるのかな」

「……うん?」

「痩せたら俺の顔になるのかなって」

「ごめんなさい。私の理解力の乏しさを許してほしいわ」


 いや、よくよく考えたら俺の言い方がアホだったわ。

 早速反省した後、俺は白雪とした会話をそのまま噛み砕いて伝えると、翡翠はそういうことねと笑った。


「痩せたら斗真君に……あぁでも、実は私もふとした時に元々の斗真君の顔が見えることはあるわ」

「それは前にも聞いたっけ?」

「それはあれでしょ? もう私たちの認識があなたを嵐君ではなく斗真君と思っていることね。それじゃなくて、ハッとした時に斗真君に見えてしまって驚くのはそういうことじゃない?」

「……ふむ」


 白雪だけでなく翡翠もそういうことがあったのか。

 ということは本当に痩せていったら嵐ではなく、俺自身に近づいていく可能性も無きにしも非ずか……あり得ないとは思いつつも、確かに俺の現状が既にあり得ないようなものだからな。


「元々の体型が筋肉質とかそういうんじゃないし、仮にそんな奇跡が起きたとしてもこの運動して付いた筋肉とかは継続してほしいもんだな」

「ふふっ、確かにその通りね。でも仮にそんなことがあったとしても、運動をやめるつもりはないんでしょ?」

「ないな。もう運動が趣味みたいなものだし」


 このやり取り以前にもした気がするけど、俺はもう運動をやめるつもりはない。

 もう趣味の一環として身に付いてしまったし、運動をして体に悪いことなんて何もないだろうから。


「健康な体を維持すればそれだけ白雪や翡翠とずっと元気に過ごせる。二人が元気で居てくれることに俺が幸せを感じるように、その逆も然りと思ってるからな」

「……そうね。私にとって、あなたと白雪が元気で居てくれることが何よりの幸せだわ♪」


 その後、白雪が戻ってきたのだが抱き合う俺たちを見て即座に引っ付いてきた。

 既に夕飯も終えて適当にテレビでも見ながら過ごす中、俺は両サイドに美女を二人抱きかかえるという完全な王様スタイルだったのだが……こうしていると、いつこの夢から覚めるんだと怖くなる時がある。

 まあ覚めることのない夢なのは分かっているし、この日々が実は嘘でしたとかになったら俺は泣いてしまうぞ。


「今日は斗真君とお風呂でイチャイチャしましたし、夜はお母さんに譲ります」

「あら、良いのかしら」

「構いませんよ」


 俺を抜きにして勝手に話が進んでいくが、特に何も言うことはなかった。

 おやすみのキスをしてリビングを白雪が出ていき、俺は翡翠と共に彼女の寝室へと向かうのだった。

 そして翡翠と共に濃厚な時間を過ごした後、まだ電気を消さずに俺たちは抱き合いながら余韻に浸っていた。


「それにしても、斗真君は外に出ると話題に事欠かないわね?」

「あ~……嬉しくはないけどさ」

「確かにね。でも、私と一緒なら万が一にも誤解はされないかしら」

「なんで?」

「だって白雪に比べたら歳を取ってるから」

「……………」


 いやいやちょっと待ってくださいよと、俺は翡翠から離れて起き上がった。

 上体を起こした俺に続くように翡翠も首を傾げながら起き上がったので、ちょうど俺の角度から翡翠の全身がよく観察できる。


「……ふむ」

「斗真君……?」


 俺はじっくりと、舐めるように翡翠の体を観察する。

 彼女は白雪に比べて歳を取っていると言ったが確かにその通り、だがしかし彼女の見た目はどう見ても娘が一人居る母親に見えず、以前にも言った気がするがどう見ても大学生のお姉さんにしか見えない。

 服の上からでも分かるグラドル泣かせのスタイルは凄まじく、エロゲに出てくる母親には定番となった長乳なんかもエロ過ぎて、この人を前にしたら普通の男で我慢出来ない奴が居るわけない。


「流石に同年代に見るのは無理だ。でも翡翠って大学生くらいに見えるし、何ならそれより少し上くらいにしか見えないよ。だから年上のお姉さんと歩いてて羨ましいって思われるんじゃないかな?」

「そ、そうかしら……」

「スーツとかなら流石にあれだけど、普通に私服なら少し歳の離れたカップルくらいには見られるんじゃないか?」

「へ、へぇ……」


 むしろ、そうなると俺の方が鋭い視線を向けられることが増えるだろう。

 白雪とは基本的に一緒に居ることが多いのでもう慣れたし、俺も彼女の隣に立つことに申し訳なさを感じることはもうない。

 それは翡翠にも同じことが言えるんだが……やはり、白雪以上に色気を放つ大人の女性となると、それだけ集める視線も多いだろうしな。


「思えば翡翠と出掛ける時ってご飯の時とかジムとか、それ以外だったら白雪が傍に居るからな……だからさ。翡翠とも普通に対等な男と女としてデートをするのも悪くなさそうだ」

「……しましょう」

「え?」

「しましょう! デート! 私もデートしたいもん!」

「もんって……」


 胸をぷるんと揺らしながら握り拳を作った翡翠は可愛かった。

 年齢を考えろよきっつなんてことは全くなく、ただただ単純に彼女の仕草が可愛くてたまらなかったのだ。


「よし! するかデート!」

「しましょうよデート!」


 ということで、翡翠とデートをすることになりました。

 とはいえ彼女には仕事があるので簡単にはいかないだろうが、それでも彼女が忙しいのももう少しで終わるとのことで、俺はそんな翡翠を応援することしか出来ない。

 手伝いたい気持ちはもちろんあるが、だからといって大人の領分に踏み込むことは出来ないし、何も知らない俺が手伝っても逆に迷惑になる。


「最近、仕事先でよく若返りましたかって言われるんだけど……やっぱり、恋愛を楽しんでいるといつまでも若く在れるみたいね。まあ、普通の恋愛よりも遥かに充実はしているんだけど」

「そんなもん……なのかな。俺も充実しているし毎日が楽しいことは理解しているけどさ」


 気の持ちようで体に変化を大きく齎すこともあるみたいだし、やはり日々の余裕だけでなくその中で如何に自分にとって充実しているかが重要なんだろう。

 そもそも、白雪と翡翠の二人と一緒に過ごす日々に充実を感じない日はないし何かに心配して怯えることもない。


「そういえば凄く今更なんだけど」

「なに?」

「あの人は……どうなんだ?」

「あ~」


 あの人というのは嵐の父親のことだ。

 結局、あれから何も翡翠から聞いてはなかったし、そもそも会社間の契約なので父に関しては絡むことはないだろうけど、それでも少し気になった。


「お察しの通り、彼に関しては入ってくる情報は何もないわ。というより、契約をした相手ではあるけど心底どうでも良くて気にしてなかったわね」

「そっか」

「所詮その程度なのよ。もちろん会社としての体裁はあるからキッチリしないといけない部分はしているつもりよ? でも言い方が悪いかもしれないけれど、どう転ぼうが対処できる程度なのも確かだから」

「なるほど」


 こういうドライな部分はやはり白雪に似て……いや、この翡翠の部分を白雪がバッチリ引き継いでいるってところかな。

 まあなんにせよ、翡翠に迷惑がかかっていないのなら安心だ。

 彼女とのデートの約束をこうして取り付けたわけだけど、果たしていつのことになるやら今から楽しみだ。


「すっかり目が冴えてしまったわね」

「だな……翡翠」

「えぇ、望むところよ♪」


 俺はともかく、翡翠の体力は完全に二十代のそれな気がするんだけど……。

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