そりゃそうなるよ
「……はっ、朝が来ている!?」
……なんて、馬鹿な現実逃避はやめることにしようか。
俺が目を覚ましたのは今より少し前で、この場所は翡翠の寝室でそのベッドの上だった。
「……………」
現実逃避はやめる、そう言った傍から俺は昨日のことを思い出す。
昨日は翡翠の誕生日ということで白雪と一緒に祝い、翡翠も俺たちより大人であるにも関わらず嬉し涙を流したほどだった。
久しぶりに誕生日というものを実感したのだと、祝いをされることの喜びを感じたと彼女は微笑んでいた。
「……はぁ」
ここまでなら普通の尊い誕生日の光景だ。
だが問題はその後……まあ、白雪も言っていたが俺もある意味で予想出来た内容だったのは言うまでもない。
『なんでも良いんでしょう? なら、今日はアレを無しでお願いね?』
それはさすがに無理だろと、そう言ったが手作りチケットをヒラヒラと見せつけられてはどうしようもなかった。
結局、翡翠の要望通りに俺は彼女との甘い一夜を過ごした。
あるのとないのとで何が違うんだと思っていたが、あの直接触れて擦れる感覚というのはあまりにも凄まじかった。
『あぁ……温かいわ♪』
俺の脳裏には自身のお腹を押さえて恍惚の笑みを浮かべる翡翠が刻まれている。
結局、翡翠は朝早くに仕事へ行ってしまったため目覚めのキスをするだけに留まってしまったが……う~む。
「おはようございます斗真君」
「っ……白雪か。おはよう」
「随分と考え込んでいましたね? やっと反応を返してくれましたし」
どうやら白雪が来ているのにボーッとしていたようだ。
すまないと口にすると、白雪は大丈夫ですと微笑んで俺の傍へ――そのままベッドに腰かけた。
「まさか言ったことがそのままになるなんて思いもしませんでした」
「……あの提案をされること分かってただろ?」
「逆に分からなかったんですか?」
あ、白雪のSモードにスイッチが……。
「私と母に対してあんなものを渡すとそう提案するのは必然ですよ。というか斗真君は別にそれを予期していなかったわけではないですよね? だって母が提案をした時に斗真君は驚きながらも嬉しそうにしていましたから。それに気付けないほど私は鈍くはないですし、あなたの変化を見破れない女ではないんですよ」
「……………」
腰かけていただけの彼女はベッドに上がった。
そのまま四つん這いで俺に近づく彼女はまさに獲物を見つけた豹のようで、間近で見つめ合える距離まで近づいた白雪はこう言葉を続けた。
「斗真君の深層心理には隠せない望みがあるんですよ。私たちの体に証を刻み付けることに喜びを感じ、私たちを孕ませることに興奮を覚え、そうして私たちを支配することにあなたは幸せを感じるんです」
「っ……白雪?」
違いますかと、彼女は首を傾げて問いかけた。
俺は……どう思っているんだろうか。
確かに今彼女が言った全てのことに対して、頷けるかどうかと言われたら悩みながらも頷ける内容ではある。
「……確かに合ってるかもしれない」
「ですよね?」
「でも、やっぱり俺がいつも思うのは二人のことを大切だと、大好きだって思う気持ちだぞ? まあその上にあるかも分からないけどさ」
そう、俺の気持ちとしてはこれがもっとも合っていると言えるだろう。
そりゃまあ確かにゲームをやっていた身としては彼女たちと触れ合い、それこそ好き放題に世界の法則に背く行為をしていたのは興奮したし……お腹が膨らんだ彼女たちに言いようのない何かを感じていたのも嘘じゃない。
(でも今言ったことは嘘じゃない。俺の中の主な言葉はこれなんだ)
自信を持って、そしてそれが当然だと言わんばかりに口にした俺を見て白雪はポカンとしたが、徐々に頬を赤くして俯いた。
そのままゆっくりと更に俺に近づき、ギュッと抱き着いてくるのだった。
「分かってますよ……少しだけ揶揄ってしまいました」
「だと思ったよ。でもあのマジな目の白雪はちょっとクセになるかも」
「いくら私がSでもMでもどっちにもなれるとはいえ、あんな風に攻めるのはちょっと好きじゃないです。私は斗真君に滅茶苦茶にされたいんですから」
「……………」
だからそういうことを可愛い照れ顔で言うから燃え上がっちゃうんだよ!
その後、しばらく白雪と抱き合った後にベッドから出てリビングに向かい、彼女が用意してくれていた朝食に手を付けた。
毎日、温かくて美味しい朝食を作ってくれる彼女たちには頭が上がらない。
美味しいな、美味しいなと感謝を忘れずに味わいながら食べていた時だった。
「まあ、あまり気にしなくてもいいと思いますよ? 基本的に危険日でなかったら当たった試しがありませんから」
「……え?」
その言葉は一体……どういうことなの?
さあっと顔から血の気が引いた気がするが……そんな俺を見て、白雪が目をパチパチとさせた後、慌てるように違いますと声を張り上げた。
「ち、違います! そういう意味ではなくてですね!? ほら、ゲームで何度も見ていたじゃないですか! あれ、結局危険日以外は全て外れていたんです!」
「……あ、そういうこと?」
「そうなんです! あぁでも思い出すだけで鳥肌と吐き気が……こほん! そういうことで基本的に大丈夫なんです。彼のが薄くて斗真君のが濃いとかだとまた話は変わってくるかもしれないですが……あれ、でも斗真君のはとても濃厚ですね」
この話、すればするほど長くなりそうだったので俺も白雪も口を閉じることに。
でもそうだったのか……そんな裏話というか、ゲームの設定のように思えるが彼女たちが経験した出来事でそのような答えが出るとはな。
朝食を済ませた後、一緒に食器を洗う中で俺は口を開く。
「まあ、決して嫌とかじゃないのは確かだぞ? これから先、二人と過ごす日常が終わるとは思っていない。だからある意味、改めて二人のことを強く思うことに繋がるのは確かだな」
「……ふふっ、そうですか」
ちなみに、白雪と翡翠は今日は確実にデキるという日は何かを感じるらしい。
それがないということはつまりそういうことなので、本当に気にしなくても良いとのことだ。
「それが分かるのも凄いけど……なんか、夢の内容を覚えていたりとか色々と白雪と翡翠って凄いよな?」
「簡単なことです。全てあなたのことを思うからこそ、斗真君との幸せな日々を全力で私たちの心が求める結果ですよ」
なるほど、それだけ強く思ってくれるから同じ夢を見ることも出来るし、俺が翌日にどんなことをするかも察することが出来るし、そもそも俺の心の内を明確に理解することが出来るのか……へぇ、愛の力って凄い。
「ところで斗真君、私の誕生日は何をくれるんでしょうか?」
「その時はまた頭をたくさん悩ませて決めるよ」
「楽しみにしていますね? 母のようなお願いはしませんから大丈夫です。大学に行くかどうかは後々に決めるとして、高校を卒業するまではお願いしません♪」
それは安心していいのか、それとも猶予が延びただけなのか……心のどこかで少し残念に思ったの気のせいだと思いたい。
その後、夜になって帰ってきた翡翠に聞いたのだが、今日の彼女はいつにもまして元気なだけでなく、周りに無意識に振り撒く色香が凄まじかったらしい。
本人は全く気付いていなかったみたいで、それを秘書の女性にそれとなく指摘されてようやく気付いたらしい。
「白雪、温かさを感じるのはそれだけ幸せなものよ?」
「……前言撤回したくなってきました」
やめい! ついツッコミをした俺だった。
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