プレゼント
「白雪、買い物に行こうぜ!」
「もちろんです。考えることは同じですね♪」
夏休みも中盤に差し掛かった頃、俺は白雪と共に買い物に向かうことにした。
その理由は単純なもので、翌日に翡翠の誕生日が控えているためである。
「良く知って……あぁ、憶えていたのですか?」
「設定で見たからさ」
「なるほど……ふふっ、とても喜ぶと思いますよ?」
そうだと良いなと思いつつ、白雪と一緒に家を出た。
ちょうどいいというか、翡翠は仕事で家を空けているのでサプライズの準備をするにはこれ以上ない偶然だ。
俺もそうだが彼女たちにも当然誕生日というのは決まっている。
翡翠が八月、そして俺……ではなく嵐は9月で、斗真としての俺と白雪は同じ10月に誕生日がやってくる。
「つっても……女性には何をプレゼントすれば良いんだろうか」
そう、そこが何よりも問題だ。
何度も言っているが俺にはこうした経験がないせいで、女性のプレゼントに何を選べば良いのかが分からない。
白雪のような同年代ならまだしも、俺たちの母親世代でもある翡翠には果たして何が良いのか……むむむっ、これは相当悩みそうだぞ。
「う~ん、無難に子種とか最高のプレゼントになりそうですけど」
「やめなさい」
「え? 割と真剣ですよ?」
「……………」
「まあ、冗談ですけど」
……ごめん、俺はちょっと冗談だとは思えなかったよ。
ゲームでは確かに色々と守るモノなしでぶちまけまくっていたが、流石に現実となるとそこはしっかりとまだ線引きはする必要がある。
仮に出来てしまったとしても経済上育てられないということにはならないが、ここは一つ俺の気持ちを考えてもらってだな。
「ふふっ、それについて悩むのも大切なことです。ちなみに、斗真君が見た私たちことについても全部覚えています」
「それが?」
「子供が出来ることで実現するプレイなんてものもありますよね? 少しでも憧れたりしませんか?」
「っ……」
だからそういうことを朝から言うんじゃないよ!
白雪のせいで色々と想像したし思い出してしまったが、確かにああいった非現実的なことも憧れはする……だがしかし、それはまた今度ということにしてくれ!
「それでは行きましょうか」
「おう」
色々あったけど俺と白雪は一緒に家を出るのだった。
実を言うと翡翠とは誕生日がどうという話はしていないので、彼女ももしかしたら誕生日というものはあまり深く考えていないかもしれない。
それは元々誕生日に関するイベントが一切なかったのもあるのだが、こうして俺が居る以上はそんな味気の無い誕生日を過ごさせはしない。
「ちなみにお母さんは明日も仕事があるそうです。帰ってくるのは夕方の6時か、もしかしたら前後するかもと言っていました」
「それこそ絶好のタイミングじゃないか」
これはもう完全に神様から祝ってやれというお告げだ。
流石に飾り付けなどをするような大袈裟なものではないが、何か翡翠の為にプレゼントを買って美味しい料理でも作ってあげられればなと思っている。
「……誕生日、よくよく考えたら全然気にしていませんでした」
「そうなのか?」
「はい。何度もやり直す記憶があるからこそ、何度も何度も訪れる誕生日にあまり意味を見出しませんでしたから」
「……そっか、そんな感覚だったのか」
「はい。ですが……ふふっ、こんな風に斗真君が加わることで意味がないと思っていた誕生日を楽しめるのならとても幸せなことです」
「そのためにもまずは改めて、翡翠をお祝いしようぜ」
「はい」
とはいえ……ガチでプレゼントは何にしようか。
白雪はインスピレーションの赴くままで良いと言ってくれたが、女性ってやっぱり宝石とかアクセサリーとかそういうものなのかな。
でも翡翠もそうだが白雪もそういったものに興味はなさそうだ。
お金には一切困っていないほどの金持ちではあるが、高そうな物を身に着けている姿はあまり見ないからな。
「取り敢えず色々と見て周って決めるとしましょうか」
「だな」
そんな感じで、俺たちは取り敢えず見て周ることにした。
明日の料理に関しては何を作るかの意見は出しても、基本的に俺よりも圧倒的に料理の上手な白雪を手伝う形になるだろうが。
「料理は白雪のサポートに回るかな」
「任せてください……そうは言っても、基本的に斗真君が大好きな物で埋め尽くされそうですけど。基本的に料理ってそうなりがちなんですよね」
「……ふむ」
実はどこか店に行くのも考えではあったが、最近仕事が遅くなって翡翠が外食で済ませることが多かったため、家の中で済ませられるものにしようとなったためだ。
「……いえ、何ならお鍋をみんなで囲むのも良さそうですね。賑やかに楽しめる食事が母は好きですし」
「鍋か……なるほど、良いかもしれん」
ということで買う食材は決まった。
こうなってくるとやっぱり先にプレゼントになるんだよな……良し、頑張って翡翠の為に決めるぞ!
そんな風にして街中を歩いていた時だった。
「あれ? 鳳凰院さん?」
「なにしてんだ?」
かけられた声は聞き覚えがあった。
そちらに視線を向けるとそこにはクラスの陽キャ連中が集まっており、斎藤の姿があったのでどうやら遊び歩いている途中のようだ。
「なんで鳳凰院さんの隣にデブが居るんだよ」
「おかしくね?」
「夏休み前から仲良く見えたけど……ま、あり得ねえよなぁ」
随分と好き勝手言ってくれるなと思いつつ、ここで知らんぷりをして通り過ぎるのもありだとは思った。
でも……自信を持って、胸を張っても良いんじゃないかと俺は考え、隣に立つ白雪の肩を抱いた。
「白雪は俺の大切な子なんだよ。だから一緒に居てもおかしくなんかないだろ」
そう伝えると彼らは目を丸くし、小馬鹿にするような目を向けてきたが……すぐにその視線は唖然としたものに変わった。
それは隣の白雪が起こした行動にあった。
言葉では回りくどいと思ったのかもしれない、白雪は言葉で反応せずに分かりやすい行動の一つとして、背伸びをするように俺の頬にキスをした。
ふわっと鼻に届いた甘い香りを感じつつ、白雪に目を向けると彼女は見惚れんばかりの笑みで頷いた。
「言ってませんでしたけど……いえ、プライベートなことなので伝える必要のないことですが、今彼が言ったことは間違っていません。私たちはそういう関係なのでこうして一緒に居るのは当たり前なのですよ」
その言葉が全てだった。
唖然とするだけではなく、動きすら止めて彼らは俺と白雪を見つめ、あり得ないと誰かがまた言った。
別に信じてもらえなくても問題はないので、俺と白雪はそのまま素通りするように歩いていく……しかし、まだ何か言いたいことがあったようだ。
「いやいやおかしいって。鳳凰院さん何を言われたんだ? 俺たち、何か力に――」
いい加減しつこいと思った矢先のこと、彼を止めたのは斎藤だった。
リーダー格である斎藤がポンと肩に手を置けば、彼も止まらずにはいられなかったんだろう。
一歩前に出て斎藤はこう言葉を続けた。
「別に気にすることじゃねえだろ。誰が誰と付き合おうが俺たちがそれを気にしてどうにかなるもんでもねえ」
「でもよ……」
「俺は地道に運動をしながら鳳凰院さんと楽しそうに過ごすデブ……郡道を見たからな。疑う余地はなんもねえ……つうか、さっきのキスまで見せられて認められないからって文句を言う方がだせえぞ?」
「っ……」
斎藤……というか初めて、デブじゃなくて郡道って呼ばれたか?
その後、俺と白雪は彼らと別れたが……何だろうな、斎藤に関してはあの反応は少し意外だった。
「きっと、嵐君のままならああはならなかったと思います。もしかしたら、斗真君になったからこその変化かもしれないですね」
「そうなのかな」
「でしょう。そもそも、斗真君自体は社交的だと思いますし……こう言ってはなんですが、嵐君と比べると雲泥の差ですよ」
そこまでかよと俺は笑った。
でも……確かにこのままを続ければ友達が増えるかもしれない、それは一つの楽しみでもある。
「さあ、プレゼントを選ぶとしましょう」
「分かった」
取り敢えず、この一大ミッションは頑張って完遂せねば!
【あとがき】
前回のウーマナほにゃららってのは大人のあれですね。
誇張表現でもなんでもなくて、人によっては10秒も耐えられないという話を聞きました(笑)
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