裏事情
ついに夏休みに入った。
白雪と勉強したおかげもあって期末テストの結果も悪くなく……まあ、一応前世で大学まで進学していたので悪い点数を取る方が逆に難しい。
そんな風に学生としての大事な仕事を終え、長く甘ったるい彼女たちの日々を訪れたその初日のこと……俺は呆然としていた。
「……10キロ……だと?」
俺は体重計を見つめてそう呟く。
別に俺の体重が10キロになったというアホなことではなく、この体になってから合計で10キロが痩せたことを今記録した。
脱衣所に置かれている体重計の傍、そこにはちょうど鏡が置かれているの自分のプロポーションがバッチリと確認できる。
「ボン、ボン、ボン! ……ふぅ、まだまだ先は長いぜよ。日本の夜明けは何年後になるんだろうなぁ」
なんて良く分からないことを言いつつ、俺はぷにぷにと自分の贅肉を突く。
そうこうしていると白雪がノックをして中に入ってきた。
「どうでした?」
「あぁ。まずはこいつを見てくれ白雪隊員」
「なんですかそれ。ふふっ、分かりました斗真隊長」
鍵をかけてないので不意に扉が開いても文句は言えず、かといって別に文句を言うつもりはない……たとえ俺が真っ裸だとしてもだ。
相変わらず無駄な贅肉は付いているものの、最初に比べてたら明らかに絞られていることが分かる。
「段々と運動している成果が出ていますね?」
「だろぉ?」
「わっ、凄く良い笑顔です」
人差す指でツンツンと俺のお腹を白雪は突く。
彼女の指が押し当てられるとむにゅっと沈んでいく肉はまだまだだが……うん、彼女にも言われたように成果は間違いなく出ている。
「脂肪という面では何も変わらないのに、私のおっぱいの方が柔らかいですね」
「それと比べちゃいかんだろう白雪さん」
こんな贅肉と……まあ、巨乳に僻む人で胸のことを贅肉が云々言う人も居るけど比べちゃいけないって。
白雪がそう言ったので、俺はお返しをするように白雪の胸を突いた。
服の上からでもしっかりと指の先が沈む弾力は素晴らしく、なんどこの胸の感触を感じても飽きることはない。
「斗真君は私のバストサイズとか知ってるんですよね?」
「公式設定でな」
「なるほど、つまりその公式設定から成長した場合は斗真君にとって未知ということですよね?」
「っ!?」
「少し、大きくなりました」
「っ!?!?」
そ、そこから更に成長するというのか!?
デデンと、効果音があってもおかしくないほどに俺は驚いたが、そんな俺の興奮や感動を押し殺すような一言を彼女は呟く。
「この脂肪も贅肉だとするなら、私も痩せた方が良いのでしょうか」
「白雪、それ以上は戦争だぜ?」
それ以上はダメだと彼女の唇に手を当てた。
「その膨らみはとても尊いモノなんだそんなことは言っちゃいけない。女性の胸には無限の可能性と幸せが詰まっているんだ」
「本音はどうなんですか?」
「俺が大きな胸が好きなだけだよ文句ないだろ」
「ありません♪ 基本的にエッチをする時に必ずと言っていいほど揉んでくるんですから大好きなことくらい分かりますよ」
いや……それをしたり顔で指摘されるのもそれはそれで恥ずかしいぞ。
白雪や翡翠に俺の性癖や好みが完全に知られているとはいえ、やはりストレートに本人から言われるのは恥ずかしいものがある。
「でもあれですね。こうして今触ったり見たりしなくても、斗真君が順調に痩せていることは毎日確認できているようなものです」
「え?」
「裸で抱き合うんですからすぐに分かります」
「……あ~」
なるほど、確かにそれがあったかと苦笑した。
その後、白雪と共にリビングに向かって二人っきりの時間を過ごす……翡翠もある程度は時間を取れるようになったとはいえ、社会人であり経営者ともなると忙しいのは仕方ない。
「今よりも幼い頃、母の職場に良く行っていたことがありました」
「そうなのか?」
「はい。まあ単純に母の傍に居たかったからですね」
「可愛いじゃん」
「ありがとうございます」
クスッと笑って白雪は言葉を続けた。
「母は多くの人と仕事の話をしていました。単純に経営に関することであったり契約に関するものであったりと……仕事とはそういうものですが、中には全く別のこともあったんです」
「別のこと?」
「はい。仕事のことは口実で、いかにして鳳凰院の力を手に入れるかです」
そう言って白雪が語ったのは今までの翡翠にあったことだ。
「繋がりを持てば鳳凰院の力を手に入れることが出来る。それもあって、父を亡くした母に多くの男が近づきました。とはいえ鳳凰院をここまで大きくした手腕の持ち主である母は全く怖気づいたりすることはなく、むしろ相手を圧倒していました」
だろうなと俺は頷いた。
でもそうか……こんな裏事情は予想できたことだけど、流石に原作では一切語られることはなかった裏事情だ。
こうして白雪の口から聞くと感慨深いものがあるし、その苦労を知ると彼女たちを大切だと思う気持ちが更に強くなる。
「ただ鳳凰院の名を求めるだけではなく、母はとても美人ですから純粋な好意を抱かれることも多いんです。そして私という娘が居るからといって婚約者の打診も何度かあったそうです。一番最初は母は私に自由な恋愛をしてほしいということですぐに断っていましたし、あなたのことがあってからは全く相手にしていません」
「……なんか、嬉しい以外の言葉が見つからないのが申し訳ないな」
「そんなことありませんよ。私は母のことであなたが心を割いてくれる、それだけで良いんですから」
やっぱり、こういうことを彼女たちは真っ直ぐに伝えてくれるから心が捕らわれてしまうんだろうか。
しかしながらこういう話を聞くと気になる部分があった。
「どんな人たちが言い寄って来たんだ?」
そう聞くと白雪は顎に手を当てるようにして考え始め、そして思い出せたのかゆっくりと話しだした。
「有名な企業の子息さんを是非、という声は多かったですね。正直会社の発展のために婚約というのは些か古い気もしますけど、それでも決して少なくないですね」
「その辺りのことはマジで分からないけどさ……そうなのか」
「はい。ですがまあ、そんな相手に対して母は考える様子すら見せずに断ります。そもそも他の会社との繋がりがなくとも鳳凰院はやっていける、鳳凰院からすればどこの企業も似たようなものだとそう言って」
「……ほ~」
そう言って凛とした態度を貫く翡翠が容易に想像出来る。
どんな風に彼女が仕事をしているのか、それを少し見てみたい気持ちにはなりつつも、ガキの俺があちらに行ったとしても邪魔になるだけだ。
「気になります?」
「少しな」
「斗真君からすればそうですよね。きっと新鮮な光景でしょうし」
さて、そこで何やら白雪がう~んと考え始めた。
考えていたことが纏まったのか少し待っていてくださいとリビングから出ていき、それから十五分ほどが経って彼女は戻ってきた。
「お待たせしました」
「おかえ……りぃいいいいい!?」
そこまで驚くものでもなかったが、俺はつい大きな声を上げた。
リビングに戻ってきた白雪はさっきまでの私服ではなく、大人の女性が着るスーツ姿だった。
全体的に黒なのは良くあるスーツの配色で、長い髪を一纏めにするだけでなく伊達眼鏡を装備……そしてスーツだからこそくびれが強調されており、胸元はとても窮屈そうだった。
「……………」
「どうですか?」
くいっと眼鏡を上げながら彼女は言う。
おそらく翡翠のスーツだろうが、とても白雪に似合っており一風変わって大人の女を思わせる。
漫画に出てくるエッチな家庭教師を思わせる装いに見えなくもないが……親指を立ててしまうくらいに似合っていた。
「最高!」
「ふふっ♪」
別にこれ……プレーでもなんでもないんだけどさ。
白雪が頬を染めてゆっくりと、ジリジリと近づいてきているのは何か意図があるんだろうか……その、俺としてもちょっと色々大変なんだけど。
「今の私、キッチリしているではないですか」
「うん」
「乱したいと思いませんか?」
えっと~。
この子、本当に色々と俺の性癖を破壊し尽くそうとしてくるので困ります。
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