深夜の語らい
「……む?」
むむ……っと、俺は目を覚ました。
部屋の中の明かりが消えているため視界がハッキリしないのだが、それでもジッとしていれば段々とこの暗闇に瞳が慣れてきた。
「……あ、そうか」
俺はこうして眠る前のことを全て思い出した。
……それはあまりにも甘美で、夢のような時間だったというのは言うまでもなく、俺がこうして嵐として転生したことを心から良かったと実感した瞬間だった。
「すぅ……すぅ……」
「……ん……斗真……君」
この場所は翡翠の寝室で、こういう時が来た時の為に用意していたらしいキングサイズのベッドの上だ。
寝る前に二人から多大なる愛の奉仕を受け、改めてこの家がとらわれの館と言われている所以を知り、そして何よりもう二人から離れることが出来ないんだと魂にまで刻み込まれたような気がする。
「……やべ、また興奮してきた」
二人は既に服を着ているのだが……それは服というより、スケスケのネグリジェなので……いや、それでも一応は服という扱いにはなるのか?
左を見ても右を見ても、そこに眠っているのはあまりにもエッチすぎる二人。
もちろん二人がそういう属性の持ち主というのは知っていたが、それを改めて間近で見るとどれだけ収められても元気なってしまう……これは俺がというより、嵐の体がそういう造りとしか思えない。
「前も思ったけど、やっぱり嵐ってそういうポテンシャルを秘めた体なのかな」
間男として、主人公からヒロインを奪い取ることの出来るポテンシャルを秘めている体……それは決して嬉しいとは思えないのだが、さっきも実感したけど二人を相手する部分においては中々に強力な個性とも言える。
「……トイレ行くか」
俺は二人を起こさないように気を付けながらベッドから出てトイレに向かう。
実際にこうしてこの家に来たのは初めてだけど、既に構造に関してはある程度把握しており、トイレや風呂の場所なんかもバッチリだ。
「……ふぃ~」
女性だけしか住んでいないからこそ、ありとあらゆる場所で綺麗に掃除されていてトイレなんかもその例に漏れない。
家はかなり大きく内装に関しても豪華の一言、これが鳳凰院という家の持つ財力の力かと思うと……確かに、白雪が言っていたように俺をこの屋敷に閉じこめて一生養えると言っていたのもあながち間違いではなさそうだ。
『ずっとここに居て良いのよ? あなたが居てくれればそれだけで良い、生きていくことに何も不安を感じなくても良いの。いずれ、今の斗真君との家族とは話を付けるつもりだわ――あ、別に痛い目を見せるとかそういうことじゃないわよ? 悔しがらせる意味ではそうかもしれないけれどね♪』
その時の翡翠の表情は楽しそうで、同時にいつ獲物を狩ってやろうかという狩人の顔をしていた。
まあ俺としても今の家族に未練なんて当然あるわけもなく、いつこの縁が切れたとしても全く持って問題はない……むしろ、今の家族から解放されて彼女たちの傍に行きたいと心が叫び続けているかのよう。
「……よし、出た出た」
思いの外結構出たなと、俺は満足してトイレを出た。
それから翡翠の部屋に戻ろうとしたところで、俺以外の足音が廊下に響く――俺はまさかお化けかと怖くなったが、そんなものは当然居るはずもなく歩いてきたのは白雪だった。
「あ、斗真君♪」
流石にネグリジェ姿で歩き回ることはせず、上着を羽織る形で彼女は俺に駆け寄ってそのまま抱き着いてきた。
しかし、いくら上着を羽織っているからといっても防御力は低めだ。
ただ羽織るだけで体の前側は解放されているし、腰から下は下着一枚だけで太ももなどといった部分の肌色は何も隠せていない。
「起こしちゃったか?」
「そうですね。斗真君が部屋を出て行った辺りで起きてましたよ」
「そっか……すまん」
「謝らないでください」
白雪にそう言われたので謝ることはそこで止めた。
もしかしたら翡翠もかと思ったけれど、翡翠はしっかりと熟睡しているとのことで安心して良いらしい。
「母はもう若くないんです。だからあんなに寝る前にたくさん運動すれば疲れ果てるのも仕方ないですよ」
「白雪さんハッキリ言っとりますがな」
「うふふ♪」
確かに俺たちに比べたら翡翠は若くはない……でも、あの大学生くらいにしか見えない美貌はハッキリ言って反則レベルだ。
それこそ彼女のことを知らない人に対して年齢を告げても、絶対に信じてももらえないくらいには翡翠はあまりにも若々しすぎる。
「どうします? まだ深夜の二時ですけど、目が覚めてしまいましたね?」
「そうだなぁ……でもすぐに眠くはなりそうだが」
「でしたら少しお話しませんか? 眠くなったところで戻りましょうよ」
俺は彼女の提案に頷き、白雪に連れられる形でリビングに向かう。
リビング一つにしてもやっぱり大きいなと思いつつ、特に何をするでもなく俺と白雪は大きな窓の前に立ち星空を眺める。
満点の星空に浮かぶのは綺麗な満月……まるで、本当の意味で繋がった俺たちを祝福してくれているかのような気分になる。
「……白雪」
「♪♪」
俺は隣に立つ彼女の肩に手を置いて抱き寄せた。
こういう時、こんな風にすると良いのかなと思っての行動だったが、白雪の嬉しそうな表情を見るに合っていたらしい。
「斗真君、色々と言いたいことは山ほどあるんです。この胸に溢れる幸せはどれだけ言葉にしても足りないほどです」
「幸せなのは俺もだよ」
「嬉しいです……ですが」
そこで白雪は言葉を切って俺を見上げた。
その瞳はやはり昏く、彼女の綺麗な瞳は暗黒に塗り潰されているようにも見えたのだが、惚れた弱みというのはあるらしく、彼女のこの瞳が俺は好きだ。
「まだ足りないんですよ。もう十分だろうと、これ以上何を望むんだと言われてももっと欲しいから仕方ないんです。ずっと焦がれ待ち続けた斗真君との時間、それを際限なくもっと欲しいと願うのは我儘でしょうか?」
「そんなことはないんじゃないか? むしろ、そんな風に強く思われるのは俺だって嬉しいしな」
そう言うと白雪は笑った。
「重たい愛は大好物でしたね斗真君は……ふふっ、私たちは本当に相性が抜群なようで嬉しい限りです」
「……そもそも、俺だって白雪たちとこうして会えるなんて思わなかったんだ。ならこんな風に白雪たちしか見えなくなるのも仕方ないだろ?」
ヤンデレ美少女最高だぜと俺は親指を立てた。
それからしばらく白雪と話をした後、そろそろ翡翠のところへ戻ろうかとなったのだが、そこでふと白雪がこんなことを言い出した。
「斗真君、実は私……考えていたことがあったんです」
「なんだ?」
「彼に……小泉君に対し、私は復讐をしたかったんですよ。今まで何度も、私の体を好きにしてくれたなと、この身に秘める怒りをぶつけたかったんです」
「……それは」
こうまでハッキリとは言わなかったけど、白雪と翡翠が洋介に対して怒りを溜め込んでいることは知っている……俺としても彼女たちの境遇を考えれば仕方ないとは思いつつも、それはどうなんだと思うのもあった。
白雪はクスッと笑ってこう言葉を続けた。
「ですが、彼が故意で全てを操作していたわけではないので……ならばそこに怒りをぶつけるのは違うんだと思っていますよ今は。むしろ、そんなことに労力を割くよりもあなたに私の時間を捧げた方が圧倒的に有意義です」
さっきと同じように彼女は俺の腕を取った。
「しかし、あなたとのやり取りを不意に見られたりするのは仕方ありません。聴かれたりするのも仕方ありません……それこそ、以前のように彼が電話を掛けてきた時にこの体を斗真君が好きに触っていても仕方ないんですよ」
「……白雪、すげえ悪い顔してるぞ?」
「そうでしょうか? 私と小泉君はただの昔馴染みというだけで特別な関係ではないのです。なので彼がどこかの女の子に勝手に恋慕していて、勝手に現実を知って絶望しても私には関係のないことですから」
その時の白雪の瞳は冷たく、そっと視線を逸らすくらいには怖かった。
まあ、たとえそんな冷たい視線を彼女が浮かべていたとしても、腕に感じるとてつもない柔らかさに意識が向いて興奮してしまうこの体は空気を読めていなかったが。
とはいえ、これでこの世界に生じる変化は俺たちだけに留まらないんだなと俺は予感するのだった。
【あとがき】
一旦一区切りまで来ました。
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