絶対支配宣言
土曜日、翡翠に慰められる。
日曜日、白雪から真実を知らされ、童貞を卒業し処女を捧げられた。
「……ふむ」
月曜の朝になり、俺はとてつもなく満たされた目覚めを経験した。
それは昨日の朝もそうだったけど、今日の目覚めは今までに経験したことがないほどに清々しい朝だった。
「……白雪」
つい彼女の名前を呟く。
昨日はあの後、特に何もすることはなかった……それこそ、ずっと俺と白雪は引っ付いたままだった。
『付き合うとか付き合わないとかそういう次元の話ではないんですよ。私と母はもうあなたが居ないとダメなんです――あなたが受け入れてくれなければ消えます、ただそれだけなんですよ』
それはある意味で脅迫に近い言葉だった。
俺が彼女たちを受け入れなければ意味がない、俺が彼女たちのことを見ようとしなければ消えると宣言した……あの時の目は本気だったし、俺が彼女たちとの関係性に異を唱えた瞬間、本当に彼女たちは居なくなるのだろう。
「……………」
そんなこと、あり得ないけどなと俺はその時に笑った。
今の俺にとって、白雪や翡翠の気持ちを知れた今となっては生まれ変われて良かったと心から思っている……それこそ俺は確かに嵐だけど、斗真としての道を白雪が示してくれた。
「付き合うとか付き合わないとかの次元じゃない……か」
心から受け入れられ、境遇を受け止められ……絶対の愛で包み込むと言われてしまってはもう俺は逃げられないんだろう。
白雪は消えるだけと言ってはいたが、そうならないために確実に心と魂さえも絡め取ると言っていた……俺はもう捕まってしまったんだ。
「……ふへ」
まただ、また気持ちの悪い笑みが零れた。
昨日の出来事は確かに俺にとって全てが変わる瞬間だったし、俺と白雪たちの間で新たな関係性が動き出した瞬間だった。
既に結末は決まったようなものかもしれないけど、だからこそ今はただこの夢のような時間に浸っていたい。
「……?」
布団から起き上がってボーっとしていた俺だが、そこでインターホンが鳴った。
こんな朝から誰だよと思いつつも、俺はまさかと思ってすぐに立ち上がって扉へと向かう。
覗き穴で確認する間もなく扉を開けると、そこに居たのはやっぱり彼女だった。
「あ……おはようございます斗真君」
「……おはよう白雪」
制服姿の白雪がそこには立っていた。
別に今日こうして彼女がここに来るなんて話はしていなかったのだが、突然のことであっても俺がすることは変わらない。
「白雪」
「斗真君♪♪」
彼女の部屋に引き入れ、扉を閉めてすぐにその体を抱き寄せた。
キスもそうだがエッチなことも散々に昨日してしまったので、この気持ちの良い朝の目覚めを更に彩るとするならば、こうしてただただ彼女を抱きしめるだけで満足できる。
「……ってあれ?」
「どうしました?」
俺はそこでいつもと装いが違う白雪に気付いた。
そして何事かと考えた時、そう言えばちょうど今週から衣替えの時期だったなと思い出した。
「衣替えかそういえば……夏服っていうか、何を着ても白雪はやっぱり良いな」
「ありがとうございます。動き始める物語は冬でしたから、やっと斗真君に夏服姿を見せることが出来ましたね♪」
「……………」
「斗真君? 涙が……」
「感動した」
「……ふふっ♪」
そうか……俺は今、絶対に見ることの出来なかった時間軸を生きているんだよな。
原作が開始していない今がそうではあるんだけど、改めて全てを知っている白雪からそう言われると感慨深いものがあって胸が熱くなってしまった。
ちょろっと零れてしまった涙を見た白雪、彼女はクスッと笑って俺の頭をその豊満な膨らみに抱いた。
「よしよし、可愛いですねぇ斗真君は」
「……白雪ぃ!!」
あ~この感覚は本当にヤバいって!
前世で全く女の子とこういうことをしていないのもあるし、相手が白雪ということでもう我慢する必要はない。
それこそ、こんな風にこの膨らみに思いっきり顔を擦り付けても良いんだ。
「……って学校! すまん白雪、すぐに支度するよ」
とはいえ、俺たちは学生なので学校に行かないといけない。
体を離すと白雪はあっと切なそうな声を上げたのだが、俺は名残惜しさを感じながらもすぐに支度を始めるのだった。
その後、準備を終えて白雪と一緒にアパートを出た。
「斗真君、金曜の夜からどうですか?」
「……………」
俺はごくっと唾を呑んだ。
金曜の夜からどうですか、それは俺が白雪の家にお泊まりに行く予定を既に立てているためだ――とらわれの館と呼ばれた場所にである。
「……行きたい」
「決まりですね。母も待ち望んでいますよ? うふふ、私たち二人でたくさんのおもてなしをしますから。もちろんベッドの上でもたくさんね?」
「……エッチすぎるんだってば」
「それが鳳凰院白雪、鳳凰院翡翠の本質というものですよ。もちろん、体の関係だけでなく心の満足度だって約束します。されてばかりではダメだと、自分も何か返さないとなんて思わないでくださいね? 斗真君はただ与えられればいいんですから」
そう言って白雪は俺の腕を取った。
周りに人が居ないからこそ、デブの俺に超絶美少女の彼女は身を寄せている。
別に俺は気にしないし白雪も気にはしないだろうが、やはりまだ学校での俺の立場を考えて人目が付く場所ではこんなことはしない。
「ちなみになんですけど」
「なに?」
意味深に笑みを深めて白雪はこういった。
「私のことがあってか母も手加減はしないでしょう。斗真君が前世でも、そして今のこの世界でも両親からあまり愛を与えられていないことは分かっているので、そこを母は怒涛の勢いで突いてきますよ?」
「……なんでそんなに怖い言い方するんだよ」
「そのままですからね。そこまではいかないと思いますけど、本当の母のように考えるまで愛し尽くすと思います。本当の母のようでありながら、実際は親子でも何でもない曖昧な境界……きっとクセになるんじゃないでしょうか」
おかしい……言葉の言い方だけでなんでこんなにも怖くなるんだろう。
白雪もそうだけど、翡翠も決して俺に危害を加えるつもりではない……それなのに完膚なきまでに染め上げられそうな得体のしれない怖さがある。
「斗真君、気付いていますか?」
「え?」
白雪にそう言われ俺は目を丸くした。
ジッと俺の顔を見上げる彼女はこう言葉を続けた。
「怖い言い方と言っても、あなたは今嬉しそうにしているんですよ?」
「……え?」
俺は自然と頬を触っていた。
頬がゆるゆるになっているとかそういうのは自分では分からない、それでも何となくだけど自分が笑っていることに気付かされた。
「たとえあなたに会えなくても、私たちはずっとあなたのことを見ていたんです。だからこそ何が好きで何が嫌いなのか分かっています。その上で敢えて言うのなら、私たちは相性が抜群だということです」
「白雪……?」
彼女も俺の頬に手を添えた。
「私と母は斗真君のことを心から、ドロドロに溶かし尽くすほどに愛したい……そして斗真君もそれを望んでいる。この時点で私たち、相性が最高じゃないですか。磁石で言うS極とN極なんですよ。一度引っ付いてしまったら、外からの力が加わらない限り離れることはないんです」
それはとても素敵なことではないですか、そう囁かれて心が跳ねた。
怖い……怖い? もう分からない……俺は望んでいるんだ心から。
「……俺は愛されたい。白雪と翡翠に……永遠に」
「分かっていますよ。愛してあげます……いいえ、愛させてくださいね?」
ニコッと微笑まれたその時、何かが足に絡みつく気配を感じた。
それは形の無い何かだけど、まるで俺には鎖のようにも感じることが出来たのだ。
「……っ」
パシンと、そこで俺は両頬を自分で叩いた。
ポカンと目を丸くする白雪の表情が面白かったが、彼女たちに愛される日々というのは俺に活力を与えるのも確からしい。
「二人が傍に居るとなったら、運動とか諸々もっと頑張らないとって気になるな!」
「あら……そういう雰囲気になりますか。なるほどなるほど」
まあこの空気を流したかった意図もあるけどね。
「運動ならたくさん出来るじゃないですか? 以前に言ったこと覚えてます?」
「……………」
とはいえ、やはり彼女に翻弄されるというのは変わらないらしい。
これから俺はどうなってしまうのか……不安もあったけど、それ以上の高揚感が俺を包んでいた。
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