白雪には内緒
「……くっそぉ」
俺は項垂れていた……いや、あの場から逃げたことに項垂れていた。
翡翠とストレッチをしていると、何がどうなってそうなったのか自分でも分からないうちにマッサージに移行し、更に俺は翡翠からのボディタッチを受けたのだ。
そして……完全にアレを御起立させてしまい、バレてはダメだと思ってトイレに速攻で避難した。
「……………」
友人の母親からの肉体的接触で興奮する……ぶっちゃけ、これって相当気持ち悪いよなとは思いつつも、あんな魅力的な体を惜しみなく押し付けられたら絶対にこうなるだろって言い訳はしたいところだ。
「……ふぅ」
息を吸って吐いて、大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。
翡翠はエロい、その場に居るだけで興奮を齎し、その豊満な体に釘付けにさせられることなんて最初から分かっていたことだ。
夢でもそうだったし前世でもそうだった……けど、流石にこの現実において感じ取ってしまう彼女の色気はダイレクトに脳を刺激してくる。
「助けてくれ白雪……っ」
この場に白雪が居たら……あれ? 白雪が逆に居たとしたら、今の俺を襲う興奮は今以上になっていた可能性があるのか? だとしたら今のままの方が幾分かマシなのかもしれない……むむむ。
俺はそれから三分くらい時間をかけてトイレから出た。
(これは帰ってから即抜きだな)
なんてことを考えながら翡翠の元に戻った。
「おかえりなさい嵐君」
「ただいまです」
既にストレッチもマッサージも終えたのでこれからまた機具を使っての運動だ。
帰ってすぐに翡翠からまたやるかと魅惑的なことを言われはしたものの、これに頷いてしまったら俺の偽賢者タイムの意味がなくなってしまうから断った。
「いち、に、さん……」
椅子に横になり、錘をいくつか付けたバーベルを上下に動かす。
単純に運動をして脂肪を落とすのも悪くないのだが、こうして脂肪を燃焼させるのと同時に筋肉を付けるのも良いらしい。
「もう少し重たく出来るかな?」
「無理は禁物よ。今日それに触ったのが初めてみたいだしね?」
「……うっす」
「どうしたの?」
実はこのジム、少し特殊な造りをしている。
俺たちが居るトレーニングルームは多くの人が利用できるのだが、VIPがいつでも使用できる場所として別室にまた部屋が用意されているのだ。
そこで俺は翡翠と二人なんだけど、彼女の今の装いはかなり際どい。
動きやすく涼しそうなシャツで胸の谷間は見えているし、汗の影響で下着の跡もくっきりと見えている。
(戻ってきても変わらねえじゃねえか!!)
俺は無心を心がけるように、必死にトレーニングに打ち込んだ。
そしてそれから数十分が経ち、俺は汗がダラダラで着ている服の感触がかなり気持ち悪かった。
「お疲れ様、はいスポーツドリンクよ」
「ありがとうございます」
翡翠からキンキンに冷えたドリンクをもらい、俺はそれを一気に飲んだ。
煮えたぎったというと言いすぎだけど火照った体に冷たい飲み物は最高で、俺は一気に半分くらいまで飲んでしまった。
「良い飲みっぷりね」
「はい……って近い!?」
気付けば限りなく近くに居た翡翠に驚いた。
別にさっきまで体が引っ付いていたのだから今更だけど、そのことを考えないようにしていたからこその不意打ちに驚いたのである。
「あら、近いと嫌かしら?」
「だって汗の臭いとかすると思いますし」
「私は気にしないわよ」
俺が気にするんですよねぇ……。
今の俺は太っているからなのか、汗の臭いがそこそこ強く日々の運動の後に帰ってから着替える時にそれは結構感じていたので、やはり運動後で仕方なくはあっても臭いは気にしてしまうのだ。
「私だって汗は掻いているわ。同じよ同じ♪」
俺と違ってとても良い香りがしますけどね!
人体という点では全く同じはずなのに、どうして白雪も翡翠もこんなに良い香りがするんだろうか……っとやめろやめろ、こういうことを考え始めるからまたさっきのことを思い出して興奮するんだろうが!
(素数を数えろ……素数を……)
再び、俺は自分の気持ちを落ち着かせる時間に突入だ。
そんな中、翡翠は立ち上がって扉の方に向かい……うん? かちゃりと音を立てて鍵を閉めたようだ。
首を傾げる俺の元に翡翠は戻ってきて……そこでマットに足を引っ掛けて躓きそうになってしまう。
「危ない!」
俺は咄嗟に倒れようとした彼女の前に動いたがそのまま押し倒される形にはなったものの、俺の弾力が彼女のクッションになったようで安心だ。
俺の方も背中はマットの上だったので特に痛みはない。
「大丈夫っすか翡翠さん?」
「えぇ大丈夫よ。ありがとう嵐君」
しかし、俺はそこでマズいことに気付いてしまった。
俺は翡翠を抱き留める形になっており、左手は彼女の背中に添えられ、右手は何故か彼女の胸元に置かれていた。
これは何だろうと咄嗟に力を入れてしまった結果、翡翠の三桁越えの大ボリュームバストを鷲掴みにしているのである。
「ご、ごめんなさい!!」
咄嗟に謝ったが、更に大問題が発生だ。
翡翠は気にしないでと言ったすぐ、思いっきり我慢できずに大きくなったそれに気付かれてしまった……当然だ。
何故なら何の因果か、彼女の手の先がちょうど置かれていたから。
「これ、私が原因でこうさせてしまったのかしら?」
「あ、あの……あのあのえっと……」
終わった……全てが終わったと俺は絶望していた。
あの夢が実際にあるならば……あの夢こそが現実であるなら……いくら現実逃避をしたところでもはや逃げられない。
言葉を失った俺だったが、そこで翡翠はニッコリと笑った。
「大丈夫よ。私が慰めてあげるから」
「……え?」
何か聞き間違いをしたのではないかと、俺は耳を疑った。
翡翠は優しい眼差しで俺を見つめながら、下半身に手を這わせて撫でてくる……それはまるで夢の焼き直しのようだった。
「全部任せてちょうだい。体の力を抜いて、今だけは私の声に従って……そうそう、それで良いのよ」
俺は一体何をされているんだ?
そう思いたくても頭は上手く動いてくれず、翡翠の言葉をただただ大人しく聞くだけだった……しかも、彼女の声に止めようと逆らうことがどうしても出来ない。
「嵐君は母親からの温もりを知らない、そう言ったわね?」
「は、はい……」
「簡単なことよ。疑似的にでも良い……私を母だと思って、極端だけどそれくらい甘えるつもりで良いの。ほら良い子良い子」
そこから俺は何も考えられなかった。
ただただ翡翠にされるがままで……そして、数十分が経過した後、俺はボーっとする頭で椅子に座っていた。
少し前にトレーニングルームを出て行った翡翠だったが、すぐに彼女は戻ってきて俺を見つめ……そしてうっとりとしたように頬を赤らめた。
「どうだった?」
「っ……」
その言葉が全てを呼び起こす。
俺はこの確かな現実の世界で翡翠に要求した……慰めてほしいと、そう言って彼女は夢と同じようにしてくれた。
「やっぱり嵐君のは凄いわね。もしも本番をしたら一発で出来てしまいそう」
「あ、あの……俺」
気が動転していた、そもそもパニックだったなんて通用しない。
だからこそ言うべき言葉が見つからないまでも何かを口にしようとして、それを翡翠に止められた。
「気にしないで……というと無理かもしれないけど、あれは私の些細な心遣いと思ってほしいわ。もちろん白雪には内緒よ?」
「……はい」
「すぐにバレるとは思うけど……」
「え?」
クスクスと翡翠は笑ったが……俺は本当にしてしまったんだなと夢見心地だ。
隣に彼女は座り、真横だからこそ見えてしまうその膨らみ……声を発する場所と共に癒してくれたその場所に視線が吸い寄せられる。
「あんなこと、嵐君以外にはしないわよ――いつでも言ってね? また同じことをしてあげるから♪」
その言葉に俺の心臓は大きく鼓動した。
それからジムを出て翡翠と別れたのだが……俺は自分の心に、植え付けられた興奮と僅かな独占欲が宿ったのを感じた。
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