ようやくktkr
学校での白雪を一言で表すなら高嶺の花という言葉がピッタリだろうか。
高校二年生になった今でも彼女が誰かと付き合ったという事実はなく、洋介という昔馴染みが時々傍に居るという認識だけだ。
だからこそ、彼女は良く告白される。
「……え?」
それを知ったのはある三人の会話だった。
昼休みに学食で飯を済ませた後、教室に帰ろうとしていた時に俺はその話を聞いたのである。
「なあ洋介、さっきの良いのかよ」
「え? 何が?」
「何って鳳凰院さんのことだよ」
「……あ~」
そこに居たのは洋介と二人の男子生徒……おそらくは以前にトイレで俺が聞き耳を立てていた時の面子だろうか。
廊下の柱に背中を預けるようにして話をしている彼らの近く、それこそ他に生徒も居るので俺はそこに混じるようにまた聞き耳を立てた。
「さっき先輩に連れられてただろ? あれ完全に告白じゃんか、今までに何度もされてるみたいだけど実際に見て何も思わないのか?」
今日の昼休みに関しては白雪の動向は知らなかったけど、どうやら今この瞬間に告白を受けているようだ。
流石白雪、最高にモテる女は違うんだなと思いつつも……やっぱり俺としては少しばかり面白くないというのが正直な気持ちだ。
(どの立場で言ってんだって感じだけど)
とはいえ、やはり気になってしまうのも仕方ないところだ。
友人から白雪が告白されていることに関してどう思うのか、果たして洋介はどんなことを口にするのか俺は気になったのだが、彼は少しも考える素振りを見せずにこう答えるのだった。
「白雪なら大丈夫だよ。誰ともどうせ付き合わないから」
「……それで良いのか? 俺が割って入る! とかさ」
「そんなことしなくても大丈夫だよ。だって白雪は――」
俺はそこまで聞いてその場から離れるのだった。
何だろうな……俺はプレイヤーとして洋介のことは可能な限り知っているつもりだったけど、やっぱり他人の視点から見ると自分が今まで感じていたものとは違ってくるようだ。
(……まだ白雪とそういう関係じゃないからそこまで必死にならないのか? それとも白雪は自分の元から離れて行かないっていう確信があるからああなのか?)
そこまで考えた時、俺はボソッと呟いてしまった。
「……あんな奴のどこが良いんだよ白雪は」
そう言って俺は主人公の在り方を否定する言葉を口にしてしまった。
これから洋介にも何かしらの変化があって、体を張って白雪を守ろうとすることは増えるのかもしれない……それにしては今の彼は何も動こうとしていない。
『白雪に相手もされないくせに』
以前にそう言っていた洋介のことを思い出した。
白雪は誰も相手しない、誰の告白も受けない……それは正しく、洋介が白雪に抱く絶対の信頼から来る言葉なんだろう。
しかし、果たしてそれは信頼と言えるのだろうか。
「……様子、見に行くか」
俺は教室に戻らず屋上に向かったのだが、ちょうど先輩が声を荒げて白雪の腕を掴んでいる瞬間だった。
「黙って頷けば良いんだよお前は!!」
「離してください」
激昂する先輩に反して白雪は冷静だった。
その表情に一切の怯えは見えなかったものの、俺としては反射的に体を動かすには十分すぎる場面だった。
「白雪……っ!」
大きな音をワザと立てるようにして俺は屋上に飛び出た。
しかし、器用なまでに足を引っ掛けてその場に俺は転んでしまい、白雪と先輩の前で無様な姿を晒すことになった。
「いってぇ……」
体が重いからこそ転んだ時の衝撃はそれなりに強く、膝の辺りに凄まじいほどの痛みを感じたが俺はそれを気にすることなく立ち上がる。
「なんだお前は」
「嵐君……」
とはいえ、俺が派手に転んだおかげで先輩は白雪の腕を離していた。
白雪はすぐに先輩の傍から抜け出すよう俺の傍に駆けてきたので、一先ずは安心といったところか。
(……たぶんだけど状況的に白雪は告白を断った、それが許せなくて無理やりに迫ったってところか。そんなことをしても良い感情なんて持たれないのに……でも現実でそれを見ることになるなんて思わなかったな)
俺はすぐに立ち上がって先輩を見つめ返した。
「告白は別に良いとは思うんですけど、女の子の腕掴んですることじゃないっすよ」
「はあ? お前みたいなデブには関係ねえだろうが」
「確かに告白に関しては関係ないっすね。でも、彼女の友人としてならあんな場面を見ちゃったら無関係なんて言えない……それこそ、見て見ぬフリをするなんて俺には出来ねえよ」
そう言うと先輩は近づいてきた。
白雪を背中に隠すようにすると、先輩は舌打ちをして俺の腹を殴った……けど、確かに痛みはあったが俺は逆に腹に力を入れてふんっと押し返す。
「先輩、三年生なんだから身の振り方とか考えた方が良いと思いますけどね。暴力って結構内申点に響くと思いますけど?」
「うるせえんだよクソデブが――」
別に間違ったことは言っていない、それでも言い返してくる先輩に対してイライラしたのは確かだ。
元の俺が先輩よりも年上ということも作用したのか、逆に今度はこっちが彼に言い返してしまった。
「いい加減にしろよクソガキが」
「っ……」
思った以上に低い声が出たようで、まさか先輩も俺がこんな風に言い返すとは思っていなかったみたいだ。
まあ今の俺もクソガキなんて説得力は一切ないけど、それでも先輩の勢いを削ぐだけのインパクトはあったらしく、先輩はまた舌打ちをして屋上から去って行った。
「……ふぅ」
慣れないことはするもんじゃないなとため息が吐く。
まだまだ時間には余裕があるので少しゆっくりするかと思ってその場に腰を下ろすと、白雪も俺の隣に腰を下ろした。
「ごめんなさい嵐君。変なことに巻き込んでしまって」
「別に良いよ。むしろ、こうやってここに来て良かったなって思ったくらいだ」
「……どうして分かったんですか?」
……あれ、確かにこのままだと俺がストーカーをしたみたいでは?
それはマズいと思い、俺はここに来ることになった経緯を話すのだった。
「小泉を含めた三人が話してたのを聞いたんだよ」
「……それでなんですね」
「あぁ。つうか白雪、呼び出しに応じるのは悪いこととは言わないけどああいったことがあるかもしれないんだ。今後は控えたらどうだ?」
「そうですね……どうとでも出来る自信はありましたけど、嵐君に心配をかけては元も子もありません。此度のことは私の浅はかさが招いたことです。本当に申し訳ありませんでした」
深く頭を下げた彼女に逆に俺の方が慌ててしまった。
「そこまでしなくて良いって! まああれだ、さっきも言ったけど友人として心配しちまうからさ! だから出来るだけ……な?」
「分かっています。たとえ身の危険がないとしても、自分の手でどうにか出来ることだとしても呼び出しには応じません。もう心配は掛けませんよ」
「……………」
……あれなんだよな。
別に洋介の肩を持つ気はないんだけど、白雪が今言ったように本当に何があっても自分一人で解決できるほどの度胸の持ち主でもあるので、彼女がどうにか出来ると言えばどうにか出来てしまうのが実情だ。
なので俺が手助けしなくても彼女はあっけらかんとした様子であの先輩を撃退したであろうことは想像に難くない……それでもやっぱり、俺はあの腕を掴まれていた瞬間を見て黙っていられなかった。
「お腹痛くないですか?」
「あぁさっきの? 全然平気だよ……まあほんの少し痛いくらいだけど」
どっちかっていうと膝の方が痛いんだけどな。
白雪はジッと俺のお腹を見つめ、殴られた部分に手を当てて……そして優しく撫でてきたので少しくすぐったい。
「自分でどうにか出来る、そうは思っていてもそれで他人が傷ついたら意味がないんですよ」
「……出しゃばった俺が悪いってこれは」
「いいえ、一つの変化から起きうる全てのことを考えていなかった私が悪いんです」
そんなことは……って言うと白雪も続きそうだったのでこれ以上は無しにしよう。
それからしばらく白雪と一緒に過ごしたが口数は少なかったものの、やはり彼女と二人の空間というのはドキドキもして居心地が良いのは確かだった。
「嵐君、ありがとうございました」
「どういたしまして。今度からは気を付けてくれよ?」
「分かりました――もうこのようなことは絶対にありません」
そうか、なら俺はもう何も言うことはないよ。
「布団がふっとんだ」
「え?」
「アルミ缶の上にあるみかん」
「あの……?」
「……いきなりごめん」
「どうしたんです!?」
空気が重かったんでギャグを口にしたら滑っただけなんだマジでごめん。
かあっと顔を赤くした俺を見て意図に気付いたらしい白雪はクスッと笑い、何を思ったのかえいっと声を上げて俺のお腹に頬を当てた。
「白雪さん!?」
「少しだけこのままで良いですか? ねえ嵐君、別に痩せなくても良いんじゃないかってちょっとこうしてると思うんですけど」
「やめて? 俺の頑張りを否定しないで?」
「否定するつもりはないんですけどクッションみたいで気持ち良いんですよ」
なんだこの空間……俺ってばもしかしてラブコメしてる?
そんなことを考えながらも、俺は心のどこかでこう思い始めていた。
絶対に洋介に白雪を渡したくない……白雪のことが意地でも欲しいのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます