捕食者と獲物
「……これは?」
俺はまた夢を見ていた。
あれ……どうしてこうなってるんだ? 確か俺は白雪と翡翠の二人と一緒に喫茶店で紅茶とケーキを御馳走になっていたはずだ。
それなのに……それなのに俺の目の前には裸の二人が微笑んでいる。
「白雪と……翡翠?」
「はい」
「えぇ」
二人とも更にニコッと微笑んで俺を見つめ返した。
目の前に居るとんでもない美しさと極上のスタイルを持った美人親子……俺はたまらず二人に飛びついた。
「ふふっ、待ちきれなかったですか?」
「でも、この状況で殿方に我慢しろというのも酷でしょう」
その通りだよと、俺は二人に包まれながら頷いた。
白雪と翡翠の一人ずつと出会った夢もそうだったけど、こうして今二人と一緒に過ごしている夢は本当に現実と錯覚しそうになる。
「なんつうかさ、もうそれぞれ夢で合ってるからか自分を抑えられないわ。体も動かしやすくてマジで最高の気分だ」
「では早速、愛を確かめ合いましょうか」
「そうねぇ。今日は私たち二人であなたを癒してあげるわね」
そうして早速、俺は夢であるのを良いことに二人と爛れた時間を過ごした。
二人と体を重ねる中でこれが現実になったらどれだけ幸せなんだろうかと思う反面で、現実であり得ないからこそ……俺のような人間が彼女たちと釣り合うわけがないのにと思いながらも、俺は彼女たちから与えられる愛をこの身に注いでもらった。
「やっぱり幸せです。あなたとこんなことが出来るなんて」
「そうね。でもこれだけでは満足できないわ。もっともっと、あなたと普通のことだってしたいもの」
「……………」
柔らかな羽毛の上で俺たちは寝転がっており、二人が俺を挟むようにしながら抱き着いてきている。
先ほどまでの時間が幸せなものだったのは当然だが、今のようにジッとしているだけの時間も素晴らしい。
「普通のことかぁ……出掛けたりとか?」
「そうね。お出掛けもそうだけどデートとか、後はジッと一つの部屋の中でお喋りをするのも良さそうよ?」
「それは……凄く良いですね。あなたとのデート、どれだけ待ち望んだことか」
「……なんか、二人ともすげえ俺のこと好きじゃない?」
なんて調子に乗った一言を俺は口にしてしまった。
すると二人は少し体を起こし、俺の顔を覗き込んでこう言葉を続けた。
「もちろんです。あなたのことを愛していますよ」
「もちろんだわ。あなたのことを愛しているもの」
「……ぐおおおおおおっ!!」
それはもはや歓喜の抱擁だった。
俺は二人のことを思いっきり抱きしめ、力を強くし過ぎないように気を付けながら抱きしめ続けた。
二人とも決して嫌そうな顔はせずに、もっともっとと言わんばかりに彼女たちもまた俺を抱きしめ続けてくれた。
「あなたはどうなのですか? 私たちと居て望むことはなんでしょうか?」
「……う~ん」
俺は少し考えた後、こんな感じかなと口を開く。
「ゲームをしていた時みたいに甘やかされるのも良いなぁ」
「してあげますよ」
「してあげるわ」
ある意味分かっていた言葉に俺は苦笑した。
だけどと、俺は更に言葉を続ける。
「それはきっと最高なんだろうけど、現実的な話をするなら俺も二人のことをとことん愛したいし助けたいとは思う。支えて支え合う……そんな関係が良いだろ?」
「それは……そうですね」
「……そんなこと、気にしなくても良いのに」
自分のこととして考えなければいくらでも気にしなくていいはずだ。
しかし実際に生きている以上は全部を頼り切るわけにはいかないし、やっぱり支え合うっていう関係性が一番最高なのではなかろうか。
「白雪と翡翠が魅力的な女性ってのはこれでもかと理解してる……恋人っていうか、そんな感覚で白雪にも甘えたいし」
「っ……」
「前の俺も嵐としての俺も家族からの情はなさそうだから……時々で良い、お母さんのように翡翠にも甘えたいからなぁ」
「……っ」
こんな恥ずかしいことも夢だからこそ言える辺り便利なモノだ。
俯きながら身を寄せてきた二人を抱きしめるという最高の気分を味わいながら、目の前の景色は唐突に終わりを迎えた。
▽▼
「……っ!?」
ふと、俺は目を覚ました。
俺の目の前にあるのは丸い膨らみで……俺はこれは一体なんだとそっと触れた。
「あん♪」
「……あん?」
ニットのふんわりとした手触りの向こう側にその柔らかさはあった。
ボーっとする頭で触れているその膨らみは俺の指の動きを受け入れ、力を込めれば沈んでいき、逆に力を緩めれば押し返してくる弾力が存在している。
(……まさか!?)
ずっと触れていたいと思わせる素晴らしい感触ではあったが、俺の脳はそこで一気に覚醒し焦りを露にした。
頭を滑らせるようにして位置をズラし、すぐに上体を起こしたのだが……よくもまあ今の動きが出来たなと俺は自分の体を見て冷静に……って、そんなことは今はどうでも良いんだよ!!
「おはよう嵐君」
「お、おはよう……ごぜえます」
ニコニコと俺を見つめているのは翡翠だ。
結論、さっきの柔らかい物はどうやら彼女の豊満なバストだったらしく……俺はすぐに頭を下げようとしたのだが、それと止めたのは翡翠だ。
「良いのよ。寝ぼけていればあれくらいのことは普通でしょう」
「……え?」
「だから気にしなくて良いの。むしろ……うふふ♪」
その意味深で妖艶な微笑みは何なんだよマジで!!
急激に熱くなった頬を誤魔化すように、俺は周りを見渡してようやくここがどこかを思い出した。
(そうか。俺ってば急に眠くなって寝ちまったのか……)
それで……どうやら翡翠が膝枕をしてくれたようだ。
「膝枕してくれたんすね。重くなかったですか?」
「頭を支えるだけだから大丈夫よ。それにしても嵐君は少し、自分の体のことを気にし過ぎじゃない?」
「そう……ですかね? っていやいや、気にしないといけない体型ですから!」
確かに体全体を支えてもらうようなものでもないので、特に重かったりしたわけではなさそうで安心した。
取り敢えず翡翠の傍に座り直したところ、今更だが白雪が居ないことに気付く。
「白雪はどこに……」
「そろそろ目を覚ますかもって飲み物を取りに行ったのよ。店員さんを呼んで起こしてしまうのは気が引けるからって」
「……そんなことまで気にしなくて良いのに」
いや……でも確かに、あんな幸せな夢が途中で終わってしまうのは嫌だわ。
そう思っていると静かに扉が開き、飲み物を手に白雪が戻ってきた。
「あ、起きてたんですね。ぐっすり眠られていたようで」
「……おっす」
彼女が持ってきてくれたのはアイスティーのようだ。
どうぞと差し出されたそれを受け取り、俺は改めて落ち着く意味も込めてゆっくりと飲み始めた。
(冷たいなぁ……火照った脳みそに沁みるぜぇ)
ごくごくと飲み干す中、白雪と翡翠からジッと視線を感じる気がしたが俺はとにかく飲むのに必死だった。
「ぷはぁ! 美味い! ありがとう白雪」
「いえいえ、お気に召したようで良かったです♪」
微笑む白雪に癒されつつ、俺が目を向けたのは時計だ。
どうやら三十分と少しほど寝ていたらしく、その間に彼女たちに退屈を刺せてしまったと思うと申し訳ないが……あまり謝ってばかりでも彼女たちに悪いと思い、一旦そのことは考えないことにした。
「……そろそろ、帰りますか」
その俺の一言が合図となり解散となった。
ただ……その時に俺は白雪と翡翠からこんなことを言われた。
「郡道君はご家族と一緒ではないのですか?」
「え?」
「寝言で家族のことを言っていたのよ。それで気になったのよね」
「……………」
嵐の家族構成に関して彼女たちが知ったところで何もないけど……別に良いかと俺は他人事のように思いながら話した。
こんな見た目と陰鬱な性格のせいで家族から見放されたこと、兄と妹にも嫌われていることを俺は伝えた。
「でもまあ、何だかんだ一人暮らしも悪くないから楽しんでるよ。しかも今はダイエットが俺の恋人みたいなもんだし……とっとと痩せてやるって頑張れるものが見つかったから」
「……そうですか」
「……なるほどね」
おどけた様子の俺に二人は笑ってくれた。
それからもう会計を済ませて店から出るだけになったのだが、俺が部屋を出ようとしたところで白雪が屈んだ。
「あ、待ってください」
「……どうした?」
屈んだ彼女は俺の股間に手を伸ばし……でええええええええっ!?!?
「ちょ、ちょっと何を!?」
「チャックが開いています」
「……え?」
「チャックが開いています」
彼女の言葉を聞いて手を伸ばすと、確かにチャックが開いていた。
俺は何も言えず黙って静かにチャックを上げ、先ほどよりも顔を真っ赤にするのだった。
「見苦しいモノを申し訳ない!!」
……一体、いつから開いてたんだろうか。
もしかしたらずっと俺は恥を晒していたのかもしれないと死にたくなった。
「もう少し、分かりにくく伝えるべきでしたでしょうか……」
「そうね。でも悪いのは私たちだし、けれど……美味しかったわね凄く」
「……はい♪ とても濃くて……私、ずっと憧れていましたから」
「私もよ。やっと偽りでない彼の味を知れたわ」
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