44話 最強の勝利

「形成逆転だ。」


 短く俺はそう呟いた。


「ゴホッゴホッ……あんた……何を……したのよ……。」


 小百合は苦しそうに咳き込みながら、膝をついた状態で俺に何が起こったのか聞いてきた。だが、俺は驚いていた。未だに膝をついていられる事に。まぁ、時期にそれすらもできなくなるだろう。


「人間、一番隙が生まれるのはいつか知っているか?」


「……勝ちを……確信した時?」


 小百合は答えを的確に言った。


「そうだ。勝ちを確信した時、人間ってのは大きすぎる隙が生まれるんだ。」


「…だから……それとこれがなんの関係が……あるのよ…。」


 訳がわからないと言った顔で聞き返してくる小百合。そんな小百合に、俺は懇切丁寧に説明をするのだった。


「俺が最初に打った銃……あれが本当にただの銃だと、本気でそう思ってたのか?」


 俺がその言葉を繰り出した途端、小百合の顔色が変貌した。真っ青な顔色になっている。


「……なんですって?」


「俺たちが戦う時、銃は意味をなさない。だって、俺らは避けることができるから。でも、俺はあの時弾丸を当てるつもりでお前に銃を撃ってないんだよ。」


「………どういう……ことよ…。」


「あの弾丸は神経ガスが含まれている。お前は何も知らずにそれの場で呼吸をしまくった。そして、ガスを吸いこんだ。その結果が今だ。苦しいだろ?それ。でも安心しろよ。1週間くらいしたら勝手に抜けてくから。」


 すると、膝をつくことすら難しくなったのか、小百合は地面に倒れた。


「卑怯……よ。正々堂々と戦おうって……思わなかったの?」


 俺は、その言葉に笑ってしまった。


「ハっ。人質作って俺を殺そうとしてきたやつの言うセリフじゃねぇよな。」


 そうして俺はフラフラとした足取りで小百合の目の前まで行き、その首にナイフを突き付けた。そして、言い放った。


「俺の………勝ちだ。」


「………ゴホッゴホッ……殺しなさい。」


 そんなことを言う小百合に対して、俺はその首に手刀を打ち込み、小百合の意識を去った。殺す必要なんて無い。これからは多分狙われることもないだろうし、任務でここに来たわけではないからだ。


 これでようやく終わったのだ。波瀾万丈で、命を狙われ続ける数ヶ月がようやく終わった。そして、俺は意識を失っている小百合に向けて言った。


「生憎と、俺は依頼が来なければ殺しなんてしないんでな。まぁ、古着京は別だが、なんやかんやで死んでくれてせいせいしてる。しかも、俺の目的にお前を殺すことは含まれてないんでな。」


 俺は勝ちを確信した瞬間、気が抜けてしまって全身の力が抜けてしまった。そしてしばらく呆然としていると、聞き慣れた複数の足音が近づいてきた。


「ま、勝つとは思ったけどそんなボロボロになるなんてね。」


「大丈夫ですか!?蘭様!?」


 紫苑と香純が勢いよく近づいてきて、そして最後


「一縷!!」


 零が勢いよく抱きついてきた。なんか心配してくれてるようですごく嬉しいんだけど、腕が痛い痛い痛いやめて!


「いたたたた!!」


 口ではそう叫ぶが、のたうち回るだけの気力は残されていない。実質やられ放題なわけだが、そんなの知らずと言わんばかりに本気でありったけの力で抱きしめてくる零。


 それにしても、ようやく終わったと考えると感慨深いな。これからは零とのハッピーライフを築けるのか。そう考えると気分が高揚する。今後について考えてニヤニヤしていると


「何抜けた顔してんのよ……」


 香純が呆れてくるが、最終局面で勝てたんだ。少しくらい浮かれても良いだろう。零は心配したと言って泣きじゃくってる。頭を撫でてやる。可愛い付き合いたい結婚したい。


 そうして俺と小百合、最強と最凶の最後の戦いは幕を閉じたのだった。いやはや本当に疲れた。もう二度とこんな経験したく無い。だって身体中痛いし。


「蘭様って拷問耐えたんですよね?なら今ここで少しだけ傷口叩いたりしても耐えれるってことですか?」


 急激にサイコパス発言をする紫苑。やめて怖い。何急にどうしたの?


「耐えれる……とは思うけど……いややめてね?痛いもんは痛いから。うん。だから怖いからこっち来ないでいだぁ!?」


 思いっきり傷口に拳を放ってくる紫苑。香純はため息をつきたそうな顔でこちらを見ていた。なんかバカしてる息子を見守ってる母親のような表情だ。


「紫苑も紫苑なりに心配してたんだよ。でも、本当にあんたって不死身だよね。こんなボロボロになってるんだし普通は意識失うでしょ……って、思い出したかのように気失わないでよ!!」


 あ〜なんか視界が真っ暗だ。何も見えないし何も聞こえないし感覚も何も無い。なんかまずい気がしてきた〜。いしきを保て俺〜。もうすぐで幸せな生活が待ってるぞ〜〜。


――――――――――――――――――――――





 

 俺は見覚えのある天井を見上げていた。ここは元組織の医務室だ。何度かきたことがあるのですぐにわかった。それにしても、なんだか清々しい風が入ってきてるのもあってか、ここ数年間の中で一番気分が良い。できることなら永遠にこの気分に浸っていたい。


 すると、突如として部屋のドアが開いた。そこには零と香純と紫苑と、車椅子に乗った小百合がいた。


「目覚めんの早!?」


 香純が驚いていた。果たしてどれくらい寝ていたのだろうか。体の痛みはだいぶ抜けている気がするから、結構経っている気がするのだけど。


「俺どれくらい寝てたの?」


「一日よ。」


 答えたのは小百合だった。なんかニヤついていたため、俺は身構える。が、小百合はその行動を笑った。


「ふふ。負けたのは私なんだからもう殺すなんて言わないわよ。あんたの勝ちよ。一縷。あんたは勝手に幸せにのこのこと暮らしていなさい。」


 少しだけ嫌味ったらしくそう言ってくる小百合を零は始終睨みつけていた。


 それからしばらく他愛もない雑談をした。どうやら俺が元々いた組織と今所属している組織は統合されるようだ。まぁ、手下全員に裏切られていた香純は不服そうな顔をしていたが、これも成り行きというものだろう。統合することができれば色々とできることも増えるしな。まぁ、小百合も俺も組織には多分戻らないだろうが。


 そして時間が経ち、俺たちは解散ということになった。


「お大事にしてくださいね!」


 小百合と紫苑と香純が部屋から出て行き、俺と零だけが病室に残った。零を守るために戦い、勝ったとしても、とんでもない怪我を負ったりして心配かけたから何だか気まずい。多分怒ってる気がする。


「な、なぁ。その………なんだ………心配かけてごめんな。」


 すると、険しい表情を一変させ、零は微笑んで俺の隣に座った。


「気にして無いよ?てか、謝るのは私の方だよ。ごめんね?私なんかのためにこんな傷負わせちゃって。」


「ハハッ。良いんだよ。俺が好きでやったことだし。」


 そう言って医務室から見える窓を見上げると、雲ひとつない晴天で、俺たちの勝利を神様も祝っているかのように思えた。そんなことを思っているとなんだか嬉しくなってしまって、俺と零の頬は綻ぶのだった。


 それからは平和な生活が戻ってきた。誰かから追われるような生活ではなくなり、のんびりと有意義な日々を過ごしていたのだった。





 次回最終回です

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る