43話 最凶の本気
小百合が本気を出し始め、俺も本気を出し始めた殺し合いからしばらく時が経っていた。そして俺は目を見開いて驚愕していた。正直侮っていた。本気を出したところで俺より少し強い程度だろうと。気合いでなんとかなると楽観視していた。でも、現実は違った。この女、柊小百合は強すぎた。繰り出してくる一撃はモロに喰らえば骨が折れ、意識を失ってしまうほどのもので、俺は小百合のペースに乗せられていた。
「……チッ……やりずれぇ!!」
舌打ちをしてそう叫び、俺は殺すつもりでナイフの一撃を放つ。が、それの攻撃は見事に空を切り、気がつけば眼前に接近している小百合。視認が難しいほどの速度で飛来してくる拳や斬撃をナイフで受け止め避けるので精一杯で、俺は反撃のタイミングを完璧に失い、今度こそ正真正銘の防戦一方の状況になってしまっていた。
瞬間、意識外から拳が飛んできて、反応が遅れた俺は避けることは不可能だと考え、咄嗟に左腕でガードをする。この拳が左腕に届いた瞬間、人間の体から鳴ったとは思えないような音が鳴り響き、激痛が全身を巡る。
「グッ……!!」
わずかに俺は呻き、追撃から逃れるために小百合から距離を取る。小百合は薄ら笑いを浮かべ、距離を取る俺を見つめて追撃をしてこなかった。
「どう?わかったんじゃないのかしら。あなたと私の実力差というものを。あなたには勝ち目が無いのよ。そんな左腕を抱えながら私と戦っても勝てると止まってるわけ?」
俺は小百合が指を刺している左腕を見る。そこにら服の上からでもわかるほどに腫れている肩付近が目に映る。既に上に上げることは出来なくなってしまい、完璧にお荷物状態になってしまっていた。その事実に思わず俺は苦笑を漏らした。
「痛すぎるんだよ。本当に。お前は腕にゴリラでも飼ってんのか?」
「あら?美しいレディーにそんなことを言うのは失礼なんじゃ無いかしら?」
「生憎と俺はお前を女だと思ったことは無い。悪かったな。俺は今初めてお前が女だと言うことを知った。」
軽口を叩くが、もちろん警戒は怠らない。全身の神経を研ぎ澄ませ、不意打ちをもらわないようにする。着々と俺の体力を削ってくる小百合の一撃一撃は、全ての攻撃を避けることができなくなってしまうほど、俺の体力を削っていった。正直、もう動きたく無い。だが、弱音を吐いてしまっては負けてしまう。ここで弱みを見せたら完全に相手のペースに飲まれてしまう。………もう飲まれてるけど。
「それで、雑談をすることであなたの体力は回復したかしら?」
「生憎と全くだ。」
そして俺は地を蹴り、弾丸の如くスピードで小百合の方へ飛来していく。このスピードを見切れる人を、俺は小百合しか知らない。まぁ、当たり前のように俺が刺突させたナイフを避けられた後に反撃をされる。鋭い蹴りが俺の頰を掠め、切り傷が生まれる。蹴りで切り傷が生まれるとか初めて見た。そして、追撃をしてくる小百合を見据え、俺の方へ向かってくる小百合のナイフに向けて斬撃を放つ。見事に鍔迫り合いの方にまで持っていく事に成功するが、俺が蹴りを放つ前に小百合はナイフをわずかに傾け、俺の攻撃を受け流す。当然勢い余った俺は大勢を崩してしまう。
「しまっ……!!」
「終わりよ。」
小百合がそう小さく呟いた瞬間、小百合の全力の蹴りが俺の腹に突き刺さるのだった。広い地下室なのに、壁まで吹き飛ばされた俺は意識が朦朧としていた。
「はぁ……はぁ……グフっ……」
息を切らして必死に酸素を吸おうとして呼吸をしていると、吐血してしまう。体全体にダメージが残ってしまい、気を張らなければ意識がなくなってしまう。そんな俺にお構いなしに近づいてくる小百合。こつりこつりと足音を鳴らし、その一歩一歩が響くたびに俺に死という感覚を思い出させてくれる。
「ほんっと……なんでそんな強いんだよ……。」
俺は死にそうになりながらもその重たい体を持ち上げる。俺が起き上がったのを見て小百合はゾッとした表情を浮かべていた。
「なんで……起き上がれるの?そんな満身創痍な体で……まだ立ち上がり続けるって言うの?」
その問いに俺は笑みを浮かべて答えた。
「当たり前だろ。なんせ俺はお前と違って守らなければいけない存在がいるんだよ。負けて殺されるわけにはいかねぇんだよ。」
正直、骨はボロボロだし体の内側もボロボロ。切り傷で出血が酷いし打撲も痛い。でも、俺は立ち上がる。ただ、俺は理解していた。このままでは勝ち目は絶対にないということを。俺は馬鹿じゃ無い。普通に戦って小百合に勝てるとは思っていなかった。だからこそ、俺には秘策があった。そして、その秘策は既に貼ってある。だから俺は時間を稼ぐ。そのタイミングが来るまで。
いつだ。いつ来るんだ。そう思いながらも、俺は小百合の攻撃を避けることができなくなるくらいにボロボロになりながら、待ち続けて待ち続けた。そして、そのタイミングは突拍子もなくやってきた。
俺がついに立ち上がれなくなり、小百合が俺に向かってナイフを振り下ろそうとしてきている瞬間、それはやってきた。
「さよなら。」
そう言いナイフを振り下ろす小百合。俺は目を瞑った。だが、ナイフが振り下ろされることはなかった。
「………は……え?」
そんな、状況を理解していないかのような素っ頓狂な声が聞こえた。そして、いきなりがくりと膝をつく小百合。小百合は傷ひとつすら負っちゃいない。それどころか俺はこの戦いで小百合に触れてすらいない。なのになぜ小百合が膝をついているのか。
俺は満身創痍な体に鞭打って立ち上がって、ナイフを突きつけながら、言った。
「形成逆転だ。」
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