42話 最強VS最凶 ラストバトル
俺がその銃を発砲した事により、俺と小百合の、最強の殺し屋と最凶の殺し屋の戦いの火蓋が切られた。俺はその銃弾が当たるなんてかけらも思っちゃいなかった。だから俺は当たると良いな程度の気持ちで小百合の足元を狙って発砲した。結果、さゆりはステップを踏むが如く軽々とその銃弾を避け、弾丸は地面に衝突した事で薄い色の煙を放つ事になった。
「流石にあたらねぇよなぁ。」
少しだけ残念に思い、弾切れになった拳銃を俺投げ捨て、ナイフを構えた。刹那、小百合があり得ないほどのスピードで俺に向かって来て、ナイフを刺突させてきた。俺はそれを間一髪で回避して、距離を取る。そして、小百合はまたそのスピードで俺には攻撃をしてきて、俺は避けてナイフで受け止めたりいなしたりして、防戦一方な状況が続いた。
小百合のナイフから放たれる剣劇を俺はナイフでいなしていると、瞬間的に俺の腹に向かって蹴りが飛んできた。不意を突かれた俺はそれを見事にくらい、かなり吹き飛ばされる。とても女から放たれる蹴りだとは思えない威力で、俺は数回バウンドしてからようやく止まり、立ち上がった。
「ふふ。普通の人間だったら今ので気を失ってるんだけどね。流石は元最強ね。」
「……実は今気を失ってるんだ。」
「そんな冗談が言えるくらいにはなんて事なさそうね。」
そんな軽口を交わした後、すぐに戦闘は再開される。今度は俺はナイフだけでなく蹴りや殴りにも気をつけながら攻撃を避け続けた。
ここは地下室。ゆえに、ナイフとナイフが衝突した時の金属音が辺りに反響し、パッと火花が散れば周囲が明るくなる。
「面白いわよね。」
少しだけ距離が生まれた瞬間、突如として小百合がそんなことを言い出す。
「なんだよ…いきなり。」
「私たちは殺し屋なのに銃を使って戦わないじゃない。普通だったら銃を使うのに私たちはナイフ。それが面白くてね。」
「そりゃ、銃弾なんて簡単に避けれちまうからな。俺はナイフが一番強い武器だと思ってる。軽いし間合いにさえ入ってしまえば適当に振り回しても攻撃が当たる。最強はナイフなんだよ。」
「それには私も同意見ね。ただ、あなたみたいなのと戦うと鍔迫り合いになることがあるせいで刃こぼれしちゃうけどね。」
そう言われて俺はナイフを見る。ぱっと見わからないが、よく見ると少しだけ曲がっていたり刃が欠けていたりするところを見つけた。その事実に笑ってしまう。
「普通はこんなこと起こんねえのにな。」
「ふふ。そうね。……私はね、嬉しいのよ。あなたの実力が私と同じくらいで、本当だったらもう終わらせる気だったのよ?」
「何を言ってるんだか……終わらせる気なんてねぇくせに。」
瞬間、小百合は視界から消えた。本当に人間の出せるスピードを逸脱している。俺は後ろからくる攻撃の気配を察知しつつも、その殺意を持って降り注ぐ攻撃をナイフで受け止めて呟いた。
「なんつうスピードしてるんだよ………っ!!」
「あら?あなたもこれくらいできるでしょう?」
それからは最初のような剣劇が続いた。そして俺は、今の今までずっと防戦状態だったのだ。これが俺を超えた最凶の殺し屋の実力だと思うと、素直にすごいと思ってしまう。こいつは俺とは違いあまり過酷な過去を過ごしていない。ゆえに、才能だけでここまで上り詰めてきた。普通に考えて才能だけではここまでくることはできない。でも、こいつはこの、普通の人間では辿り着くことのできない領域に足を踏み入れた。
「本当にお前……人間辞めてるよ……っ!!」
凄まじい勢いの回し蹴りが放たれたので、俺はそれを回避して距離を取る。そして、小百合の顔を見る。小百合は訝しむような表情をしていた。そして、少しの間静寂が訪れ、小百合は口を開いた。
「ねぇ。なぜあなたは本気を出さないのかしら?」
「………と言うと?」
「あなたはさっきから防戦一方の状況に見せかけて全然本気を出していない。」
「そんなことない。もう疲れて防戦することしか出来ないんだよ。」
すると小百合はゆっくりと首を振った。
「嘘ね。だってあなた、少しも汗をかいてないじゃない。」
小百合が名探偵の如くそんなことを言ってくるので、俺は笑ってしまった。
「ハハッ。本気を出してない…ねぇ。だってさ、お前も本気を出してないじゃねぇか。本気出してない女に本気出すとか男としてダサいだろ?」
「………気づいてたのね?」
小百合がそう言った瞬間だった。明らかに周囲の気配が変わった。小百合がついに本気を出し始めたと言うことだ。あまりにも一変した雰囲気に笑みが溢れるが、俺はこれ程度で怖気付くような男ではない。
小百合が本気を出すのだったら、俺も本気を出さなければいけないだろう。本気を出さなきゃ殺されるのだから。俺は全身の力を一度ぬき脱力し、再度力を込める。
「始めよう。本気の殺し合いを。」
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