41話 最凶からの呼び出し

 それからも同じような日々が続き、とうとうその日がやってきた。いつものように部屋の扉がノックされ、零が連れてかれて仕事をやらされるのかと思ったが、その日呼ばれたのは俺だった。呼ばれた瞬間、俺は理解した。今から俺は処刑されるのだと。だが、殺される気なんて毛頭ない。むしろ俺は勝つ気でいる。


「蘭さん。小百合様がお呼びです。早くきてください。」


「……わかりました。」


 零の方をチラリと見ると、かなり心配そうな顔をしていた。俺は小百合に脅されていることを伝えていないので、俺がなんのために呼び出されているのかわからないのだろう。だから俺は顔に笑みを浮かべて言った。


「心配すんな。絶対に戻ってくるから。」


「……わかった。」


 そうして俺は迎えにきた使用人の前に向かった。使用人はドアを閉めた後、俺に向かって手錠を差し出してきた。恐らく簡単に俺を殺すために、抵抗させないために手錠をするのだろう。だが、俺は今から殺されに行くのではない。小百合は零のためなら俺は死ぬと考えてるのだろう。前まではそうだったが、俺はそんな気は全く失せてしまった。つまり、俺はこの手錠に手を通す気なんて全くないってことだ。


「あの……早く手錠に手を通してください……。」


 呆れた様子でそう言う使用人。この使用人も俺が死ぬと確信しているのだろう。だったら、俺が取るべき行動は。


 俺は瞬間的に使用人の腕を掴み、捻り上げて手錠を床に落とさせた。


「痛っ……!!」


 痛くて当たり前だ。だって俺は割と本気で腕を捻ったのだから。何かしら怪我をしているだろう。だが、これはこの女が悪い。俺を殺す手助けをするのだから。そして俺は拳銃を懐から取り出して使用人のこめかみに突きつけて、言った。


「今から柊小百合がいるところまで案内しろ。しないのなら殺す。」


「は、はい………!」


 恐れを抱いている様子の使用人は、すぐにそう返事をして案内を始めた。俺を殺すためのの手伝いをしているくせに気の小さいやつだ。こんな程度の脅しで屈服しているなんて、従者の質も下がったな。


 道中で俺を見つけ次第拘束しようとしてくる奴らは、全く強くなく、数秒で俺に捩じ伏せられていた。正直こんな雑魚たちが群がって俺を拘束しようとしてきたところで、蚊が飛んでいるのとなんら変わりはない。どれだけ数で押そうと、強大な一には敵わないのがこの世の理なのだから。そして、別のやつに軽く拷問みたいたことをして紫苑と香純の無事も聞き出し、まず先に俺はそこに向かった。案外近い場所に2人は居た。


「久しぶりだな。」


 2人は驚いていた。俺が死んだとでも思っていたのだろうか。まぁ、本当だったら今から死ぬつもりだったんだが。そして、俺が最初にここに来たのには理由があった。今部屋には零1人しかいない。ここで人質にでもされてしまったら勝ち目がなくなってしまう。だから、この2人に部屋の護衛をしてもらおうと考えたのだ。


「久しぶりの再会で悪いが……俺の部屋の護衛をして欲しいんだ。零が今1人でな。少しだけ不安なんだよ。」


 すると、香純と紫苑が前に出てきて自信満々に頷いた。


「任せて!お姉様が来ない限り私たちには多分誰も勝てないし、お姉様は今から一縷が倒しに行くんでしょ?」


「あぁ。まぁ、そういうわけだから、助かる。」


「お安い御用だし助けてくれたお礼だよ!」


 そうして恐らくだが零の安全は保証された。この組織で紫苑と香純以上に強いやつなんて小百合しか思いつかない。内心でかなりホッとしつつも、俺は再び使用人に案内を開始させ、長い長い、永遠にも思われる時間を歩き、小百合の元に向かうのだった。


 そして、階段を降り続けて地下室に出るたどり着き、視界の良い広場まできたところで、俺はそいつを見つけた。何かを警戒する様子もなく、堂々とした振る舞いで立っている柊小百合という女を。小百合は俺の姿を視認した途端、薄ら笑いを浮かべた。


「あら?てっきり大人しく殺されると思ったのだけど……そう言うわけにはいかなかったらしいわね。どう言う心境の変化かしら?」


「……さぁ、それをお前に言うつもりはないな。ただ、少し前なら死ぬつもりだったぞ。」


「警告した時はあんなにも堂々と宣言したくせにね。」


 あの時は小百合に勝ってから真実を零に告げるつもりだったのだ。だからこそ俺はあの時は勝つつもりで宣言した。だが、予想よりも早い段階で真実を俺は告げた。結果、不安は解消され、俺は小百合との戦いに集中できるようになったわけだ。


「ま、色々あったってだけだよ。それで聞くんだが……お前は俺を殺すのか?」


 その問いに小百合は何を考えているのかわからない目をして微笑を浮かべた。


「殺すわよ。ただ、本気のあなたとも戦ってみたかったからこそ、今私は少し喜んでるわよ。私と張り合えるのはあなたしかいないもの。と言ってもあなたは結局私に負けて死ぬんだけどね。」


「おいおい…やってみなきゃわからねぇだろ?」


 俺はそう言い、懐から銃を取り出して構えた。


「あら?銃弾が私に当たると思ってるのかしら?」


「そんなの……」


 そうして俺は、その銃を発砲しながら叫んだ。


「やってみなきゃわからねぇだろ!!」

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