39話 最強の殺し屋が告白!?

 俺が連れてこられたのはある一室だった。てっきりあの屋敷のように地下牢とかに連れていかれるのかと思ったが、そういうわけでは無いらしい。小百合曰く零にストレスを与えさせないためらしい。小百合は零にどんな価値を見出しているのだろうか。もしかするとだが、零は俺のためならなんだってやる。それを利用しているのかもしれない。言う通りにしなければ俺を殺すと脅しているのかもしれない。だとしたら俺は零の目を覚まさせてやらなければならない。俺の命なんてどうでも良いから自由に生きてくれと。そして、小百合が去ったのを確認してから俺は連れてこられた部屋の扉を開け、中に入るのだった。


「一縷!!」


 中に入った途端、零が飛びついてきた。怖かっただろう。いきなり部屋に入られて拉致されて、挙句の果てにはこんなところまで連れてこられて。零にそんな思いをさせた小百合に、怒りが湧くがそんなことを考えても仕方がない。とりあえずは零を宥めないといけない。


「悪い……守れなかった。怖かっただろ?」


 こくりと俺に抱きつきながら首肯する零。ただまぁ、幸いとも言えるのが零が拉致されてからは時間が全く経ってないと言うことだ。何日間か経ってしまっていたら、小百合に何をされるかわからない。


「私……言う通りにしないと一縷を殺すって脅された…。」


 この部屋の道中、俺は真逆のことを言われた。麗の利用価値がなくなったら俺を殺すから、その時に抵抗したら零を殺すと。俺が大人しく死ねば零を解放すると。だが、そんなことを零に伝えるわけがない。俺のことが大好きな零のことだ。取り乱すし面倒なことになるのは間違いない。


「安心しろ。俺は死なねぇよ。だからあいつの言いなりになんてなるなよ。」


 よくもまぁそんな嘘をペラペラとつけるなと、自分自身に苦笑するが、俺は零にとんでもない嘘をついていることを思い出し、罪悪感が立ち込めていく。本当にタイミングがわからないのだ。いつ真実を話せば良いのか。だが、話すとしたらそろそろだろう。零は夢で何者かに両親が殺されたことを思い出した。そして、展開的に、今の現状は最終局面だろう。しかも今真実を言えば、零は俺のことを恨んで自由に生きてくれるのではないかと。そう思ってしまう。そして、そうなってくれてこそ、最後の俺の目的が果たされるのだ。


 そうして、俺と零は再び再会をすることができたが、よくわからない部屋に連れてこられて、そこでしばらく過ごすことになるのだった。


 それからは何にもしない日々が続いた。部屋を出るときには必ず使用人を呼んで監視されなきゃいけなく、トイレすら監視される始末だ。そして、そんな生活の中、零の悪夢は酷くなる一方だった。もしかすると、俺が伝えるよりも先に真実に気がついてしまうのではないかと、そう思ってしまう。


 今日の朝も、起きる直前まで零は悪夢にうなされていた。零を守るなんてことを言ってる割には何もできない自分が腹立たしい。


「……ねぇ……一縷は本当に居なくならないの?消えないで居てくれるの?」


 突如としてそんなことを聞かれる。こういうことは過去に何度も聞かれてきたが故に、どう返すのかは決まっていた。


(居なくならねえし消えねえよ。)


 そう。俺は必ず、決まってこう返していた。そう言うことでしか零の不安を拭えないと思ったから。でも、必ずその後に疑問が浮かんでしまう。本当に俺から卒業させたいのなら、ここで突き放すべきなのではないかと。そう考えてしまっていた。だからこそ、最後の時間が近づいてきていると勘づいた俺は、いつもとは違うことを言った。


「……さぁ…俺にはわからん。もしかしたら居なくなるかもしれねぇし消えるかもしれない。お前は俺が居なくなったらどうすんだよ。」


「………え?」


 いつもと違う返しをする俺に戸惑う零。多分、今日も居なくならないと言ってくれると思っていたのだろう。ただ、もう無責任なことは言えないかもしれない。この部屋に連れてこられた時は死なないなんて言ったが、正直死ぬのは確定しているようなもんだ。だって、小百合曰く、零の利用価値が消えたら俺を殺すらしいからだ。その時に俺が抵抗したら零が殺されてしまう。


 まぁ、そもそもとして俺は小百合に殺されるつもりなんてない。じゃあどうするのか。そのどうするかこそが、俺の三つ目の目的だった。俺が死ぬのは確定事項だ。そして、それは眼前まで迫ってきている。


「………なぁ、なんでお前は俺のことが好きなんだ?俺は何もしてやれてない。それに、言ってるだろ。俺はお前を愛すことができないと。それなのになんでそんなに俺のことを好きになれるんだよ。」


「……だって……お父さんとお母さんが殺されて……優しくしてくれたのは一縷だけだったから……一縷が私の孤独を祓ってくれたから……だから私は好きになったんだよ。」


 俺がしたのは、本当にそれだけなのだ。しかも、その行動をした理由はただの罪悪感と、過去の大切な人と零を重ね合わせたことによる自己満足だ。本当に俺はクズだ。だから、だからこそ俺は零を愛すことは、愛す権利かど持ち合わせていないのだ。


「だったら……」


 そうして俺は言った。今なら、最後の時間が近づいている今なら、もう言っても良いだろう。だって、ここで俺が死ねば零が死ぬことはないのだから。


「だったら、お前の親を殺したのが俺だと言ったらどうするんだよ。」


「………何……言ってるの?」


 意味がわからないといった困惑した表情と声色をする零。そりゃそうだ。突然、こんなことを言われて困惑しない人間なんていない。俺だって困惑してしまうだろう。俺は自嘲的な笑みを浮かべて、真実を告げた。


「だから、俺がお前の親を殺したんだよ。そんで、お前がいたから罪悪感でお前と暮らしてただけだ。結局のところ、お前にとって俺は親を殺した殺人犯となんら変わりはないんだ。」


「……なんで……殺したの?」


 震える声で聞いてくる零。


「依頼が来たから。それだけだよ。俺は殺し屋だってことは知ってるだろ?だから依頼がきたんだよ。お前の両親を殺す依頼がな。だから殺した。」


 零の頬を涙が伝い、その勢いは増していく。そして、俺の中の罪悪感は最大にまで膨れ上がった。だから俺は懐から拳銃を取り出して、零の方へ投げ捨てた。


「………何……これ……。」


 呆然とそう聞いてくる零に、俺は言った。


「ほら、殺れよ。親の仇だ。殺せよ。今お前にとって俺は死ぬほど憎い相手だろ?殺したいだろ?だったら殺せよ。ここで殺せば罪にはならない。だってここはそう言う場所だから。」


 そう、これこそが、零が真実を知った時、俺が零に殺されること。それこそが三つ目の目的だったのだ。だから俺はゆっくりと後ろを向いた。後ろから拳銃を拾う音が聞こえる。死ぬことに関してはあまり抵抗はなかった。俺は数えきれないほど人を殺してきた。だからこそ、いつ死んでも文句は言えないと思っていた。ただ、欲を言うとすれば、即死したいなと。


「……なんで……真実を言ったの?」


「なんでって、耐えきれなくなったからだよ。もう嫌だったんだよ。罪悪感に押しつぶされそうになって、それでもお前は俺を好きだって言って、その度に死にたくなったさ。だって俺にはお前を愛す権利がないから。好きになれないから。」


 零は側からみればモテる顔をしている。そんな美少女が俺のことを好きになってアプローチをしてくる。その度に惚れないように自身に厳しくして罪悪感を感じて……もうそんなの耐えられなかった。


「……早く殺せよ。お前が真実を知った今、俺は生きたくない。だって、生きたところでお前に対しての罪悪感で押しつぶされそうになるから。」


 そして、近づいてくる気配がして、俺は覚悟を決め目を閉じた。そして、そして、そして。


 気がつけば俺は後ろから零に抱きしめられていた。


「……え?……ぁ……。」


 意味がわからず、俺は変な声を出してしまった。てっきり殺されると思っていた。その引き金を引かれ、俺は死に零は助かると思っていた。でも、なんで?零にとって俺は殺したいほど憎いはずじゃないのか?


「確かに許せないよ……ショックだよ……でも……でも!」

 

 そして、零は涙を流しながら叫んだ。


「嫌いになれるわけが無いじゃん!!」


「………は?」


 素っ頓狂な声が口から漏れる。なんで俺のことを嫌いになれないのかが、わからない。検討すらつかない。


「一縷前言ってたよね?罪のある人しか殺さないって……。つまり、私のお父さんお母さんは罪を犯してたんじゃ無いの?」


「………覚えてたのかよ………あぁ、そうだよ。お前の両親は子供を誘拐して身代金を要求して生計を立ててるような親だった。だから依頼がきて殺したんだよ……。」


「……やっぱり…ね。」


 零は納得する様子を見せた。でも、俺は納得できなかった。例え零の両親が罪人だったとしても、殺したのは俺だ。それに、殺した時の零は少なからずショックを受けていた。だったらなぜ嫌いになれないのか?


「なんで嫌いにならないんだよ……なんで殺さないんだよ……。」


「好きになっちゃったから……理由なんてそれしか無いんだよ……?……逆に聞くけど……一縷は私のことどう思ってるの?本当にただの罪悪感でしか私と過さなかったの?そんなの無理に決まってる。だって一縷言ってたじゃん。罪悪感で押しつぶされそうだったって。でも過ごしてたじゃん。それはなんでなの?」


 そう問われ、俺は考え込む。確かに罪悪感に押しつぶされそうだった。でも、零には言っていないが、零と過去の大切な人を重ね合わせていたからと言う理由もある。でも、本当にそれだけなのだろうか。俺も零と過ごしてて、少しくらい楽しいと感じていた節があったんじゃないか?


「一縷は私のこと好き?」


「………好きだよ……好きに決まってるじゃないか!!好きじゃなかったら一緒に過さねえよ……。」


 俺はついに言ってしまった。心の奥底に封じ込めておかなければならない本心を、今解放してしまった。


「一縷……こっち向いて?」


 そう言われて、体を無理やり反転させられ、目の前には零がいた。目が合い、気まずくなり俺はすぐに逸らしてしまった。なんでこっちを向かせたのかわからず、少しだけ混乱してしまっていた。何が起こるのだろうと俺が訝しんでいた、その循環だった。俺の視界が黒に染まった。


「………え?」


 何が起こったのかわからなかったが、俺は瞬時に理解した。今俺は零に抱きしめられていると言うことを。


「私、あの女の人に聞いたの。一縷の過去。生きるためには仕方なかったんだよね。殺し屋になったのも無理やりで、本当は嫌だったんだよね?」


「…………ぁ…。」


 瞬間、俺の目尻からここ数年流していなかった涙が溢れ出てきた。


「私は一縷を許すよ。大変だったね。辛かったでしょ?苦しかったでしょ?1人で抱え込んじゃって……だからね、もう甘えても良いんだよ?」


 零に抱きしめられてしまって、俺は我慢できなくなってしまって、零の背中に手を回して子供のように泣きじゃくってしまった。許してくれたのが嬉しかった。が、それと同じくらい、俺が過去苦しい思いをしたのを、辛くて感情を押し殺して殺し屋になったのを、認めてくれたのが嬉しかった。俺が零を卒業させようとしていた理由は、俺が零を愛す権利が無いから。零が真実を知ってしまったら俺を恨むに違いないと決めつけていたから。でも、現実は違った。零は許してくれた。だったら、俺は零を愛しても良いのだろうか?


「それでね、もう一度聞くけど……一縷は私のこと好きなの?」


 その問いに俺は少しだけ黙り込んでしまったが、今なら言っても良いだろうと思い、本心を告げるのただ。


「好きだよ。愛してるんだよ。お前のことを。」


「私も大好きだよ!だからさ、また聞くことになるんだけど……私の前から居なくならないでくれるよね?」


 俺は殺されること前提で動いていた。だって、それが目的だったから。でも、殺されなかったどころか、許された。だったら殺される必要なんてないだろう。命をかけてでも零を守って、小百合を倒してハッピーエンドで終えてやる。そう決意すると、力が湧いてきた。だから、俺は零のその問いに自信を持って答えた。


「居なくなるなんてことしねぇよ。だって、居なくなる必要が無くなったんだからな。」


 そうして俺には新たな目的ができた。その目的は、小百合を倒して零と幸せに暮らすことだった。

 




 

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