35話 最凶への対策 作戦会議

「さて、とりあえず3人揃ったし初めよっか。」


 俺たちは今、一つのテーブルを俺、紫苑、香純で囲い、作戦会議を始めようとしていた。会議の内容は小百合への対策だ。だが、対策と言ってもどういうことをして来るのかわからない以上、気をつけろとしか言いようがないのだ。


「何をしてくるかわからないからな。作戦会議って言ったって対策のしようが無い。絶対に殺すからせいぜい足掻けとしか言われてないんだよな。」


 この一文から何を対策しろというのだろうか。護衛を増やせば解決するような問題ではないのだ。護衛というのは相手より強くて真価を発揮する。そして、小百合が絶対に俺を殺せると確信しているということは、相当な手練れが出てくるという可能性が高い。そこら辺の護衛。ましてやこの組織の人たちでも勝てるかはわからないだろう。それにそいつらに護衛されるよりも俺が警戒していた方が意味がある。辺な犠牲を生みたくないしな。


「小百合様がしそうな事………何も思いつきませんね。」


 紫苑は紫苑で思案をしている。ついこの間まで一緒にいたから何かしら思いつくとは思ったが、そういうわけではないらしい。まぁ小百合自身そう簡単に見抜かれるような手を使ってくるとは思えない。思いつくとしても、小百合自身が特攻してくるしか思いつかない。正直な話、それが一番可能性がありそうだが、こんな馬鹿げた発言をするほど俺は脳筋ではない。


「お姉様自身が特攻してくるんじゃない?」


「お前も脳筋だったか。」


「は?どういうこと?」


「いやなんでも。やっぱりそれしか考えられないよな。あいつが特攻してくるのが一番可能性がありそうだもんな。」


 その言葉に、この場にいる全員……と言っても3人だが……が納得する。だが、それだと矛盾が生じる。


「でもなんでこの間一縷がお姉様と接触した時にお姉様は一縷を殺さなかったんだろうね。お姉様なら一縷に気づかれずに殺すことも出来るかもしれないのに。」


 小百合が特攻することが作戦の場合に生じる矛盾点は、なぜこの間俺を殺さなかったのか。途中、互いに銃を突きつけ合う形になったが、そんなことをしなければ俺を殺せていた可能性は高い。そこまで思考が周り、俺はさっきの考えに否定的な意見を持ち始めた。


「つまり、あいつが特攻することは作戦ではない?」


 どんなに考えても予想しても、小百合の考えていることが一切合切見当がつかない。あいつは戦闘だけでなく頭も回る。何か予想もつかないようなことをしてくるに違いない。それも、護衛の時に俺を嵌めたように。


「あの……えぇっと…。」


 すると、紫苑が歯切れ悪く言葉を発し始めた。


「なんか思いついたのか?」


「いえ……その、お二人は私が小百合様の作戦だって疑わないのですか?」


 突然としてそんなことを言い出す小百合に、思わず俺は聞き返す。


「……というと?」


「私がこの組織に入って内部から色々としていくことが作戦ということです。そういう可能性は考えなかったんですか?」


 確かに、その可能性も無いわけではない。つい最近まで紫苑は小百合とあの組織にいた。小百合がまた紫苑を使って色々する可能性が無いわけではないが、それでも俺はその可能性は0%だと考えていた。


「それはないだろうな。だって俺と香純は小百合がお前にしてきた対応というものを知ってる。常に冷たくされて厳しくされて、挙句の果てには突き放された。逆に言えば俺たちだからこそ、お前を信じることができてるんだよ。」


「そうですか。なんかありがとうございます。信じてくれて。」


 さて、少しだけ話がずれてしまったので、軌道修正をしなくてはならない。話の論点は確か、小百合への対策だったか。あれだけ話し合っておきながらなんだが、全く思いついていない。思いつく気配すら感じ取れない。


「……はぁ。ダメだな。全くもって考えつかない。いつもより警戒するしか方法は無いのかな。」


「……なんかこんな場を設けておいてあれだけどそれしか無いと思うよ。うん。」


「私もそう思います。」


 満場一致。この場を設けた意味無し。そんな悲しすぎる結論に至ってしまったわけだが、実際にそれしか対策はない。まずそもそもとして小百合相手に対策するとか不可能だ。あいつの思考は普通の人間じゃないからな。


「さてと、この場を設けた意味がなくなったわけだが、これはもう帰っても良いのか?用がないなら零が心配だし帰るが。」


「あ〜そうだね。確かにこの状況下で零ちゃんを1人にするわけにはいかないしね。まぁでも一縷の家の周りには護衛が沢山いるから何かあったら連絡がくると思うよ。」


 そう言いながらスマホを取り出して何かを操作し始める香純。その表情はいつも通りの表情だったが、一変して驚愕した表情に変わり、そして今では苦虫を噛み潰したかのような表情になっている。


「おい……どうしたんだよ。」


 表情の変化についていけず、意味もわからず俺は尋ねる。そして、香純は告げた。その内容を。


「零ちゃんのGPSが反応しない……。」


「………は?」


 俺は香純の手にあるスマホを奪い取り、画面を覗き込む。タチの悪い冗談かと思ったが、画面に映し出されたのは反応無しという端的な一文字。背筋に嫌な汗が流れる。ただ壊れただけなのかもしれない。だが、嫌な予感がした。妙な胸騒ぎがした。そしてその胸騒ぎを引き起こす原因もすぐに判明した。


「なんだか静かすぎじゃありませんか?」


 そう。俺たちは個室で作戦会議をしていたわけではない。ロビーの真ん中の机を囲んで会議をしていた。いつもなら組織の人が通ったり雑談したりする声が聞こえる。だが、今では全く聞こえない。それどころか人1人すら見当たらない。


「……悪い。とりあえず家に様子を見に行く。」


 その言葉に全員が頷き、急いで外に出て香純が車を出してくれた。その車に3人で乗り込み、俺の家まで急いで向かった。その間、ずっと感じていた不穏な気配は消えなかった。


 家の近くまで来て、香純と俺は違和感に気がつく。いつもなら近くにいる護衛たちがいなかった。1人もだ。何が起こってるのかわからないまま家の前に車が到着し、俺と香純と紫苑は急いで車を降り、アパートの階段を駆け上がっていく。そして、家のドアにやってきて、その鍵穴に鍵を刺そうとして、あることに気がつく。


「鍵が……開いてる……。」


 俺はドアノブに手をかけ、急いで回し、勢いに任せて扉を開けた。そして、家の中を確認した。家の中に人の気配はなかった。そう。家の中はもぬけの殻だったのだ。

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