32話 最強の殺し屋の新たな仲間

 俺は、小百合にあったことを報告するために、所属している組織の本部にいた。目の前には香純がいて、スムーズに報告会が進行すると思っていたのだが、思わぬ客人がいた。


「……なぁ、なんでここにいるんだ?」


 俺が質問を投げかけたのは、あの屋敷での一件以来会っていなかった柊紫苑だった。またあの時のように堂々と宣戦布告をしてきたのか、小百合のように警告をしにきたのか、無いとは思うが俺にリベンジを果たしに来たのか。そのうちのどれかだろう。それしかここに来る理由がないのだ。


「……蘭様。あの時は本当に申し訳ありませんでした。」


「………はい?」


 久しぶりに会ったと思ったら突然頭を下げられ、当然俺は困惑した。逆に困惑しない方がおかしい。それに、あの時とは俺を殺そうとした時のことを言ってるのだろうが、依頼なのだから謝る必要は無いはずだ。だったらなぜ?と俺が訝しんでいると、謝ったわけを紫苑は語りだした。


「あの時殺そうとしておきながら厚かましいとは思いますが……その……この組織に入れさせて貰えませんか?」


 こいつがこの組織に入り、内部から崩壊させていく。それが小百合の言っていた作戦というものだろうか。だったら安直的すぎるし、何よりこいつは前に俺に負けた。俺という存在がいる以上、内部から荒らすなんてできっこ無い。だったらこれは小百合の作戦ではなく……独断か本音かのどちらかなのか?


「一縷。この子本気らしいよ。敵対するつもりとかも一切ないんだって。あなたと私に協力したいらしいよ。」


「………それはまたどうして?」


 紫苑はついこの間まであの組織の人間だったはずだ。にも関わらずなぜここに来る必要があるのか。裏切り者だとみなされたら俺のように殺される危険性があるのに。


「……子供のような理由かもしれませんが……小百合様に突き放されてしまって。………私だって……私だって頑張ったんですぅ!!一縷様なら知ってるし覚えてるでしょう!?私が小百合様に認めてもらおうと頑張ってたことをぉ!!」


 先ほどの真面目そうな雰囲気は消え、いきなり泣き出す紫苑。情緒が不安定である。


「ま、まあ知ってるが……あいつお前の頑張りをまだ認めてないのか……。」


 紫苑は小百合に拾われた故に、認めてもらおうと、そして恩返しをしようと小百合のためだけに頑張ってきていた。だが、小百合はというと、そんな紫苑の頑張りを認めることはなく、挙句の果てには今回のように突き放した。そして、堪忍袋の緒が切れた紫苑は香純の組織に来たということだろう。子供らしいといえば子供らしい。なんせ紫苑はなんやかんやいってまだ未成年だ。精神が伴ってる方がおかしいだろう。


「……本当らしいな。」


「一縷もそう思う?」


 今の話を聞いて演技だとは思えなかったし、過去の小百合の紫苑に対する接し方を見たことがあるせいで、妙に真実味を帯びている話だった。


「………はぁ…ま、良いんじゃねえの?別に戦力は多い方が良いだろ?」


「う〜ん。私は良いけどさ。一縷こそ平気なの?イラついたりしないの?」


「俺だって任務で色んなことをしてきてるんだ。任務のターゲットが俺になったとしてもしょうがない事だ。それに、いくらこいつらから狙われようとも俺は死なねえしな。」


「もう少しで殺せそうでしたけど。」


 ボソリと紫苑が隣でつぶやいたが、気にしない。俺が死なないといったら死なないのだ。実際死ななかったし。話しがずれまくっていたが、俺は組織に来た理由を思い出した。


「話がずれたが、話したいことがあってな。」


 2人が耳を傾けるのを確認してから、俺は話し出した。


「昨日の夜、小百合と会った。」


「えぇ!?」


「本当ですか!?」


 香純と紫苑の両方とも目を見開いて驚いていた。紫苑は知ってると思っていたのだが、小百合は紫苑の裏切りを予知していたのか、何も伝えていないようだ。少しでも情報が欲しかったが、仕方がないだろう。


「本当だ。そこで警告されたよ。私たち組織は絶対に俺を殺すってな。抗ってくれって言われたよ。ほんと、上から目線だよな。元々は俺の方が強かったってのにな。」


「でも今はお姉様の方が強いでしょ。多分。正直言い訳にしか聞こえないよ。」


「正論を言う女って嫌われるんだぜ?」


「知ってるけど?」


 開き直るって怖いなと思いました。はい。………て、そんなことはどうでも良い。問題はどうやって対策するかだ。俺の家はバレていると言っても良いだろう。だったらどうするか。


「なぁ、俺の家多分バレてるんだけど……どうすれば良い?」


「引っ越しなよ。それくらい自分で考えなよ……。」


「別に良いじゃねえか。雑談だよ雑談。……そうだなぁ、引っ越すか。」


 問題はどこに引っ越すかだ。遠い場所に行ってしまってはここに来づらくなるし、かえって近すぎるとまたすぐに見つかってしまう。だったら隣町くらいが丁度良いか。すぐには見つからないだろうし。


「んじゃ、隣町にしとくよ。俺の家の周りにいる護衛たちにも連絡しといてくれ。引越し場所を。」


「は〜い。」


 そうして紫苑が新たな仲間として加わり、俺と零の引っ越しが決まった。正直、引っ越してから一ヶ月くらいはのんびりしたいものである。引っ越した途端に小百合にすぐに狙われるとか忙しすぎていやだ。


 

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