27話 最強の殺し屋が抱きしめられて!?

 俺は困惑していた。だから、俺は今の状況を整理するために、思考し始めた。



 俺はくたくたになった体に鞭を打ちつつ、家に帰った。そして、玄関を開けると、突如として何かが俺に向かって覆いかぶさった。そのまま玄関の床に押し倒されて今になると言うわけだが、一体何が起きてると言うのだろうか。


「………そういうことか。」


 少し当たりを見回して、俺は状況を理解した。俺は今、零に抱きしめられているのだ。


「……遅い………心配した。」


 いつものようにヤンデレを全開にして罵ってきたりするわけでもなく、ただ単に心配だったと言うことのみを伝えてくる零。零をそうさせてしまうほどに、俺は零を心配させてしまったらしい。ここで抱き返してあげたら、安心させることができるのだろう。男としてここは行動するべきなのだと、本当はそう思う。だが、俺は罪悪感を感じながらも、零を抱き返すことはしなかった。俺はゆっくりと零を引き剥がして、言った。


「悪い………ただいま。」


 引き剥がされたことが不服だったのか、若干頬を膨らませながらも、零は返答をしてくれた。


「……おかえり。」


 そうして俺たちの日常はまた戻ってくるのだった。俺は任務で失敗をしたことがない。強いて言うなら零に目撃され、連れて帰ってきたことが失敗だ。記憶喪失になってくれて助かったが、それでもいつかは話さなければならないのだろう。その日がくるのが少しだけ憂鬱だ。俺と言う人間は零には甘い。それは、両親を殺してしまった故の罪悪感。そして、過去のと零を重ねてしまっているから。俺は零を卒業させたいとか言っているが、もしかすると俺が依存してしまっているのかもしれない。それだけはあってはならない。


 話がずれたが、任務に失敗をしたことがないがゆえに、俺は今回の任務も簡単にこなせると思っていた。だが、裏では小百合に手を引かれ、危うく殺されるところだった。これからは任務に行く時は気を引き締めなければならないと、俺はそう思うのだった。そこで俺は今回誰のおかげで逆転できたのかを思い出した。


「………と、そう言えば零が香純に報告してくれたおかげで色々と助かったよ。ありがとう。」


「………死ぬかと思った。」


 それ、こっちのセリフなんだけどな。と思ったが、本気で心配してくれた人に対して今言うべきではないだろうと考え、俺は口をつぐんでおいた。今回、零が俺の異変に気づいて香純に連絡を取ってくれなかったら本当にどうなっていたかわからない。あの拷問官を仲間に引き入れられたかどうかもわからない。まぁ、たらればの話だ。今更そんなことを考えたところであまり意味はないのだ。この世界には終わり良ければすべて良しという言葉が存在する。今がまさにその状態なのだ。過程がひどくても、終わりがGOOD。拷問されたのは気に食わないが、フェイドも紫苑も解雇されるだろうからそれで良いだろう。


「………本当に疲れたなぁ。」


 全てを思い返しながら、ポツリとそう呟く。正直一ヶ月くらいだらけても良い気がするのだが、香純は許してくれないだろうし、小百合がいつ俺にアクションを仕掛けてくるのかわからない。常日頃から警戒をしておかなくてはならない。かったるい。


「………何が起こってたの?」


 あれから玄関から移動して俺がソファでだらけていると、零が口を開いた。


「一言で言えば捕らえられて拷問されてた。」


「はぁ!?それ本当なの!?」

 

 一気に取り乱す零。まぁ、自分で言うのもアレだが、好きな人がそんなことをされてしまっていれば取り乱すのも必然だ。俺だって仮に好きな人がいたのならそうなるだろう。人間誰だってそうだ。


 ふと窓から空を見上げれば既に真っ暗で、時計の針は11時を指している。良い子は寝る時間だ。だから俺は寝室に足を向け、寝ることにするのだった。


 身体中の倦怠感を早く消したい一心で、ふらふらとした足取りでベッドに潜り込み、久しぶりのふかふかとした感覚に身を委ねていたのだが、一つ問題点があった。


「……あのさ、なんで当たり前のように潜り込んできてるんだ?」


 今俺は仰向けの姿勢なのだが、ふと右を見ると俺の腕を抱き抱えている零がいた。別に俺は添い寝とか頼んでない。だったらなぜいるのか。


「………ダメ……なの?」


 上目遣い+涙目でそう尋ねられては、男としては断りづらい。だが、零はまだ未成年だ。不埒な現場になってしまった時に俺の倫理観が警報を鳴らす。それだけは避けなくてはならない。


「………ダメだ。これは覆さん。」


 すると、零はポツリポツリと自分の心境を吐露し始めた。その姿はまるで小動物を連想させ、不覚にもかわいいと思ってしまった自分がいた。


「一縷がいなくなりそうで……私……不安なの。ねぇ、今日だけで良いから……ダメ?」


 そんなことを言われて断れる男というのはこの世に存在しているのだろうか。仙人とかなら根性で断れたりするのだろうか。だが、生憎と俺はそんな根性の持ち主ではない。だから俺は許可してしまったのだ。


「…………今回だけだぞ。」


 小さくガッツポーズを布団の中でする零。好きた人と一緒に寝れて喜ぶと彼女みたいだ。これじゃあまるで普通の女の子だ。そこまで思いかけ、俺はその思考を放棄する。いかん、零は一応普通の女の子だ。好きな人と寝れて嬉しくないわけがない。


 俺という男は、本当に零だけにはとことん甘いらしい。いつもだったら寝る時も何かしないか警戒するのだが、今回はしなくても良いだろう。信頼していると言えばしているし、何より警戒する気分じゃ無かった。今日くらい。あの波瀾万丈な任務を終えた今日くらい、だらけても良いだろう。


 そう考えていると、零に抱きつかれている温もりもあったゆえか、疲労も相まって睡魔が急激に押し寄せてきた。瞼が重くて開いているのも一苦労なので、俺はその睡魔に身を委ねることにした。


 そうして俺の意識は闇の中に落ちていったのだった。


 

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