23話 最強の殺し屋と神楽お嬢様の過去

 神楽と話したいと言うお願いを拷問官の男にしてからしばらく拷問が続いていたのだが、最初の方に比べて幾分か楽になっていた。最初の方は刺したりしていたが、今では軽く切るだけになっていた。流石のこいつも俺が何をしても吐かないということがわかってきたのか、だんだんと憂鬱そうにするようになっていた。


「………はぁ。正直な話俺がお前を拷問する意味がわからん。ぶっちゃけお前やってねぇだろ。」


 かったるそうにそう俺に話しかけてくる拷問官。今のところこいつが唯一話が通じる男だ。そんな男が俺の無罪を言い始めるとなると、状況は少しだけマシになる。


「だから言ってるだろ。俺はやってない。冤罪だ。紫苑とフェイドなんちゃらがでっちあげた嘘なんだよ。多分、裏切り者ってあの2人のことだと思うぞ。」


「それは知らんが、お前が理由なく人を殺すとは思えんな。人を殺す時って任務でしかないんだろ?殺し屋って。」


「……まぁ、任務にもよるが基本的にそうだ。逆に言えば任務さえ言い渡されれば殺すんだけどな。」


「………はぁぁぁ。もうやめだやめ。俺、お前のこと拷問すんの飽きたし疲れた。お前叫ばないしどうせ無実だし。」


 そんなことを突如として言い出した拷問官。俺としてもそっちの方が都合が良い。


 ………こんな呑気なことを考えていたが、状況はいまだに最悪だ。多分小百合が俺を殺すために今回の俺の冤罪がでっち上げられたのだろう。つまり、これから俺は殺されると言うわけだ。それに、零をめちゃくちゃ放置していることも懸念点の一つだ。絶対に暴走していると言っても過言ではない。家に帰ることができたら間違いなく命の危機に瀕する可能性が高い。


「………はぁ。さっさと俺から卒業させなきゃな。」


 俺は拷問が終わり、気だるげにそうボソリと呟くのだった。なんか運がいいこと起こらねぇかなぁ。


「とりあえず神楽お嬢様を呼んでくればいいんだろ?冤罪君。」


「そうだけど黙れよ。もうすぐ俺は死ぬ可能性があるんだぞ。助けろよ。」


「やなこった。俺は金が貰えればそれでいいんだよ。お前を拷問するだけで金が貰えるんだったらやるだけさ。ま、お前を拷問すんのは飽きちまったんだがな。」


 能天気にガハハと笑いながら去っていくそいつの背中を見て一言。


「バカって羨ましい。」


 それしか思いつかなかった。そして、すぐに俺は思考を切り替える。神楽がもし来てくれたとしたら、まず何を話そうか。とりあえずなんとか対話をできる形にしなければいけない。そして、あいつの闇を暴く。恐らく過去に誰が殺したのだろう。なぜ罪になっていないのかと言うと、金持ちの権力ってやつだろう。人1人殺した程度じゃすぐに揉み消すことが可能だろう。


「…………っと、来たな。」


 すぐに来てくれるとは思わなかったが、案外早くに足音が鳴り響き始めた。誰の足音かは言わなくてもわかるだろう。神楽お嬢様である。


「………何よ…人殺し。」


「悪かったな人殺しで。で、お前を呼んだ理由なんだが………言ってしまえば暇つぶしだ。」


「はぁ!?そんなことに私を呼んだって言うの!?何様のつもりよこの人殺し!!」


 本当は暇潰しなんかじゃないが、今からお前の闇を暴くなんて言ったら絶対にどこかに行くだろう。それに、そう言うことは会話の中でさりげなく聞くのが1番なのだ。俺は自分のコミュニケーション能力に自信を持ってるが故に、意外と簡単だと思っているのだが………うまく行くだろうか。


「まぁ、そう怒るなよ。禿げるぞ。」


「禿げないわよ!!」


 コントみたいな会話を繰り広げているが、これも作戦のうちの一つだ。とりあえずこいつの俺に対する嫌悪感をなんとかして払拭しなければ、まともに対話することすら難しいだろう。


「まぁ、暇潰しとか言ったが、本音では俺の無実を信じて欲しいって言うお願いをしたかっただけなんだけどな。」


 少しだけ切り後で俺がそう発言すると、突如として空気を切り裂くような鋭い目つきに変貌した目で俺を睨んでくる神楽。だが、そんなのに屈する俺じゃない。零の殺意に比べれば怖くなんてない。あいつの目線が1番怖い。


「………いやよ。仮に無実だったとしても、私はあんたに手を貸したくないわ。」


「……それはどうして?」


「…………知らないわよ。ただそんな気がするってだけよ。」


 そっぽを向いて神楽はそんなことを口走るが、恐らくそれが神楽の闇の部分なのだろう。ここまで来たら単刀直入に聞いた方がいい気がする。変に探っても勘繰られておしまいだからな。


「……それってお前が前に言ってた同類ってやつと関係あんのか?」


「っ!!」


 こいつは絶対にポーカーフェイスができないなと、そう確信せざる終えないほど、わかりやすい反応をする神楽。目をこれでもかと言うほどに見開いていた。


「か、関係ないわよ!!それに、早く忘れなさいよ!!」


「生憎と俺は物覚えが良くてな。忘れられないんだ。……それで、同類って具体的にどう言うことなんだ?まさかお前も過去に人を殺したことがあるのか?」


 その言葉にとうとう動揺をし始める神楽。もう一押しで話してくれそうだ。


「………………。」


 俺の問いに無言を返してくる神楽。まぁ、これで確定したと言っても良いのではないだろうか。無言の肯定というやつである。これを知ったからって急に何かできるわけではないが、少しだけなら策を思いついている。と言っても最終手段であまり使いたくはないが。


「……まぁ、お前が黙秘をしてもなんとなくわかっちゃうんだよ、俺は。元とは言え俺は護衛なんだ。少しくらい話してみても良いんじゃねぇか?どうせ俺はもうすぐ処刑されんだろ。そんなやつにくらい悩みを打ち解けたらどうだ?」


 自分でも驚くほどにすらすると口から言葉が出てくる。多分だが俺にはナンパの才能とかがある気がする。そんなどうでも良いことを考えていると、神楽はかなり悩んだ末、ポツリポツリと語り出した。それは、俺に対して冷たく当たるようになった理由でもあった。


「…………私………昔にお母様を殺しちゃった………。」


「へぇ。……それで?」


「………だからかもしれないけど……時々夢に出てくるの。なんで私を殺したんだって。お母様が私に会いにくるの。私ね、お母様に虐待されてたの。だからむかついて……殺しちゃった……。」


 辻褄が合った。俺がこの屋敷に来た初日にコイツがうなされていたのは、その夢を見ていたのだろう。確かに、俺と神楽は同類だった。だったらなぜ俺のことを嫌い始めたのか、それは単純に同族嫌悪というやつだろう。


「ま、だから俺にキツく当たり始めたわけだ。人を何人も殺したことのある同類の俺に。」


 その俺の言葉に、無言を返してくる神楽。図星と見ても良いだろう。だが、話を聞いただけではなんの解決にも至らない。だったらどうするか。それはもう考えてある。後はそれを実行するだけだ。ここで神楽を味方につけられたらかなり大きい。無実を証明するのだって少しだけ簡単になるだろう。だって、こいつはこの屋敷の中で二番目に発言権があるのだから。


「……はぁ。あのな、そんな過去に囚われてどうすんだよ。」


 ため息をつきながら、俺はそんな言葉を口にした。当然神楽は機嫌を悪くした。まさか呆れられるなんて思わなかったのだろう。


「はぁ?慰めてくれるとでも思ったら呆れるの?本当になんなの?あんたは……。」


「別に俺は本音を言ってるまでだ。」


 不服そうな目でこちらをじっと見つめてくる神楽。そんな神楽の視線をうけまくった俺は、このままじゃ納得してもらうのは無理だと判断し、最終手段を使うことにするのだった。


「そんなに不服なら……少し、昔話をしてやる。」


「は、はぁ?昔話?なんなのよ一体……」


 意味がわからないと言った感じで困惑する神楽。突然昔話をするなんて言われたら誰だって困惑するか……


「昔、俺だって愛する人を手にかけた。お前と同じなんだよ。どんな理由があったにしろ、良くはないことだ。でも、そんな過去にいちいち囚われていたら今度こそストレスで禿げるぞ。」


 突然の俺の告白に、目を見開いて呆然とする神楽。俺としてもまさかそんなにも驚かれるなんて思ってはいなかった。へぇそうなんだ。で終わる可能性だってあったのだ。


「………あんたはてっきり知らない人しか殺してないのかと思ってた……」


「悪いがそういうこともあったから殺し屋になったんだ。当然俺だって後悔したさ。でも、もう二度とそういう経験をしないためにも、俺は力をつけた。強くなるしかなかったんだよ。だから神楽。過去を忘れろなんて言わない。ただ、その殺しちまった母親の分まで生きることが、お前へ課された責任ってやつなんじゃないのか?」


 俺がそう問うと、神楽はしばらく悩み、やがてこくりと頷くのだった。


「………あんたも色々と苦労してたのね。悪かったわね。」


 そう謝る神楽の目には、先ほどの嫌悪の気配は消えていて、単純に俺に対して謝るだけの謝罪の意を汲み取ることができた。作戦成功。俺独断の任務はうまくいきそうだ!


 さて、ここからが正念場だ。ここで神楽を仲間にすることができるか否か、それで俺の命が変わる。どうにかして神楽を仲間に引き入れるんだ。


「それで神楽。頼みなんだが………俺の無実を証明する手伝いをしてくれないか?」


 その問いに神楽は俺の瞳を見つめながらも


「………まぁ……少しなら。」


 と、なぜか少しだけ顔を赤くしつつもそう答えるのだった。

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