22話 最恐の殺し屋が罵られて…
「……この人殺し。」
この場所になぜかやってきた神楽こと、このお屋敷のお嬢様が、突如として、拘束されている俺に対してそんな言葉を吐いた。当然訳が分からなく、俺は混乱した。だが、そんな俺の混乱なんて知らないかの如く、神楽は言葉を続けた。
「護衛だと思ったら過去にたくさん人を殺してたなんてね。それで何?今度は違う護衛を殺そうとしたのかしら?」
そんな言葉を吐き続ける神楽に、俺は誤解だということを知ってもらうべく、否定をした。
「俺はやってない。誤解だ。」
だが、この屋敷での俺の今の立場は最低。俺の言葉なんて全くもって信じてもらえる訳がなかった。
「嘘よ。フェイドがそう言ってたもの。あなたが紫苑さんを殺そうとしてたって。しかも、殺そうとしていた時の音声も聞かせてもらった。もう信じることなんてできないわよ。」
そう言う神楽の声は、とても冷ややかで、とても冷徹だった。確かに俺が嵌められてしまったことで俺は無実を証明することが限りなく不可能になってしまったわけだが、ここの屋敷の人間は少しくらい容疑者の言葉を聞かないのだろうか。俺としても少しくらい話を聞いてもらいたいという気持ちがある。だが、今の俺の状況、少し前から謎に冷たくなった神楽。そんな二つの状況が揃って俺の話を聞いてもらうことなどできるわけがなかった。
「信じてもらえないかもしれないが、俺はやってないんだ。あんたの父さんが体調を崩した例の薬物だって元々置いてあったやつだ。それに俺は紫苑に一切手を出しちゃいない。しかも、俺をこんなところに閉じ込めておいたら依頼の裏切り者が好き勝手し放題だぞ?」
すると、神楽は嘲笑するかの如く笑みを顔に浮かびあげ、俺に向けて言った。正直、この言葉を聞いた時に自分の頭を疑った。俺ってこんなにもアホなのかと。
「護衛たちが1週間経って体調が回復しないわけないでしょ?馬鹿なの?ハッ…流石、人を殺すと頭まで狂うようね。」
このお嬢様は品とか考えないのだろうか。側から見たらこれはいじめだ。俺がいじめられっ子で神楽はいじめっ子。だって俺は反論することしかできない。手を上げたら上げたで終わりなのだが。
そこで、俺は神楽の表情を見てあることに気がつく。神楽の表情は、俺を嘲笑うかのような表情をしていた。のだが、その奥に微かに悲しみのようなそんな表情を見出せた。この表情を昔見たことある俺だからこそわかることだ。神楽は過去に何かやらかしている。
「ほんと、人殺して周りが見えなくなるとか………私と同類じゃない……」
俺はその神楽が放った言葉を聞き逃さなかった。いや、聞き逃すわけがなかった。同類。つまり、神楽は過去に人を殺したことがあるのだろうか。
「……同類って?」
俺がそう聞き返すと、神楽はハッとした表情になり口を急いでつぐんだ。頰や首筋には僅かに汗が流れ出ていた。何かまずいことを口走ったのだろう。まぁ、こいつの今の反応で過去に人を殺したことがなんとなく予想がついた。だが、それを知ったところで何になるのだろうか。
「………もう良い。あんたは適当に拷問でもされて野垂れ死なさい。」
しばらく黙り込んだ神楽は俺を見て、そう言葉を吐いてからこの場所から去っていった。本当に嵐のようなやつだった。ここにきて好きなだけ暴言を吐いて去っていく。何がやりたかったのだろう。その目的がいまだにわからない。お嬢様ともあるろう人物が、ただ暴言を吐くためだけにこんなところに来るわけが普通はない。でもあいつはきた。そこには明確な理由があるのか、それとも本当に気まぐれなのか。考えてもわからないことだった。でも、それ以上に気になっていることがあった。それは
「…………俺とあいつが同類……か……」
私と同類じゃない。という神楽の言葉。それが妙に頭に引っかかっていた。あの時の神楽の表情は、自己嫌悪と俺に対しての嫌悪の二つが混ざり合っていた。
そこで、俺は一つの名案とも呼べる案を思いついた。もしあいつの過去や同類という言葉が、あいつが抱える過去を表しているのだとしたら、その過去を払拭してやればこの状況を打破することができる可用性が、僅かに高まるのではないかと。
「ただ……どうやって取り除いてやれば良いんだ?」
ここまで嫌われてしまってるようなら、もう会いに来てはくれないだろう。だとしたらどうやって会いに行けば良いのか。う〜む。と首を傾けながら俺は思案を始める。
その時だった。コツコツとここ1週間近くで耳が腐るほど聞いてきた足音と気配がした。拷問官だ。
「…………こいつに頼めば来てくれるんじゃね?」
俺はそう考えつき、拷問官に頼むことにするのだった。拷問官が俺の牢の前に立ち、鍵を開けようとしているところに俺は一声かける。
「なぁ、拷問するだけじゃあれだし一つだけ頼み事をしても良いか?」
当然のように訝しむ表情を浮かべる拷問官の男。されるがままに拷問をされていた男が、いきなり頼みがあるなんて言ってきたら、普通だったら怪しむだろう。それはこいつとて例外ではなかった。眉を顰めて俺を見据えてくる拷問官。
「……頼み事?何考えてんの?お前。」
「いやいや、別に何も無いけど、ただ拷問されるだけじゃ退屈なんだよ。だから少しだけ話し相手が欲しいと思ってな。」
「………拷問が退屈とか言うの多分お前だけだぞ……」
呆れた様子でものを言ってくる拷問官に、俺はこう告げるのだった。
「だからさ、神楽お嬢様を呼んできてくれよ。俺あの子可愛いから好きなんだよな。」
「冗談も顔だけにしろよ。立場を弁えてんのか?お前。」
おいおい、これでも顔には少し自信があったんだけどな、と心の中で冗談を言いつつ、俺はその問いに返答をする。
「弁えてるさ。お前らが俺を殺そうとすれば俺はいつでも死ぬからな。拘束されてるんだったら尚更だ。……それで、俺のこの頼みは聞いてくれんのか?」
俺の問いにしばし悩む拷問官。だが、案外早く結論は決まったようだった。
「まぁ、それくらいだったら良いが……妙なことをするなよ?」
「妙なことなんてここにいる限りできっこねぇだろ。」
嘆息しながら思わずそう呟いてしまう俺だった。今度こそこの行動が善と出れば良いんだけどな。
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