14話 最強と伊集院の顔合わせ

 俺は久しぶりの早起きに苦戦しつつもなんとか電車に乗り込み、予定の8時には向こうに到着していた。道中零からの連絡が絶えなかったが、絶えず送り返していたおかげで今は少し収まっていた。無視したら命が危ないからな。


「で、でけぇなぁ。」


 目の前の建物を見て、そんな感嘆を漏らす。流石この国1番の財閥の家だ。家というよりも館といった方が正しいかもしれない。目の前のインターホンに手を添えようとして、あることを思い出す。


「危ない危ない…インターホンは押しちゃダメなんだったっけ?」


 香純の話しによれば、今回の任務は護衛をしているとバレてはいけないらしい。本当の目的は裏切り者を探し出すことだからだ。ゆえに、俺の任務を知っているのはかなり少ないらしい。まぁ当主と娘は知っているだろうが。


 そして、俺は事前に教えてもらっていた番号に電話をかけた。その人物はすぐに出て、俺が待機している正門にすぐに来るとのことだった。


 その人物は電話通りすぐにきた。その対応の速さに思わず感心した。


「どうも。伊集院貞明様(伊集院家の当主兼父親)の護衛のリーダーを務めております。フェイドと申します。本日はありがとうございます。」


 深々と頭を下げるフェイドと名乗る人物に、軽く会釈しつつも、俺はずっと思っていた疑問を聞いた。


「なぁ、あんた護衛って言ったか?護衛の人間は全員体調不良なんじゃないのか?」


 するとフェイドという男はゆっくりと首を横に振りながら、俺の言葉を否定した。


「体調不良なのは神楽お嬢様の護衛の方達のみです。蘭一縷様もお気づきかもしれませんが、恐らくは裏切り者がいます。そいつが毒かなんかを食べ物に入れたのでしょう。」


 その予想は俺と全く同じ物だった。だが、予想をするだけでは意味はない。なぜこのような行為をしたのか、何が目的なのか、怪しい人間はいるのか、いくらでも考えることはある。


「蘭様には護衛は当たり前のこと、裏切り者を見つけ出していただきたいのです。」


「依頼されたからにはやるけどよ、あんたも裏切り者を探したりしたのか?」


「私は他の者と違い忙しいのです。ゆえに探す時間などあまりありません。ですから依頼したのですよ。まぁ、依頼したのは私ではなく当主様ですがね。」


 確かに依頼する理由なんてそれくらいしかない。まぁ、依頼を引き受けたからには文句を言うわけにはいかない。全力を尽くすしかない。だが、リーダーであるフェイドという男がわからないという以上、今回の任務は長引きそうだなと、そう思ってしまった。




 あれからしばらくしてから、俺はフェイドに屋敷を案内してもらっていた。しばらく歩き続け、階段を登った先には、大きすぎる扉があった。


「……ここは…」


 するとフェイドはこちらを振り返り、少しの笑みを浮かべて俺に説明をしだした。


「ここが、当主様、貞明様の御部屋となります。今から中に入りますので、くれぐれも失礼のないようにしてください。」


 そうしてノックをするフェイド。護衛として完璧な礼儀に、思わず感心してしまった。


 しばらくするとある中年の男が出てきた。


「入れ。」


 その中年の男が言った途端、フェイドは部屋に入っていった。俺もその後を慌てて追った。


 部屋に入った途端、見たこともないような景色に目を奪われた。デカすぎるベッドにふかふかそうなソファ。何着入るかわからないクローゼット。真ん中に置いてある机は全てガラスで作られていて、高級そうなイメージを見たものに抱かせた。


 しばらく呆然としていると、中年の男が俺に話しかけてきた。


「蘭一縷…だったか。お前が護衛兼裏切り者探しを引き受けてくれた張本人だな?」


「えぇ。俺がその依頼を引き受けました。」


 するとその男は俺のことをジロジロと見回し、少し離れて名乗り始めた。


「私は伊集院貞明(いじゅういんさだあき)。この屋敷と家系の当主だ。」


「俺の自己紹介は必要なさそうですね。」


「お前のことは調べ尽くしてある。前いた組織を抜けたことも、今いる組織も、そして過去も。」


「……過去…ですか。」


 少なくとも、今回の任務では触れることのない話題だと思っていた。俺としても触れてほしくなかったし、人に知られてほしくなかった。だからこそ、少しだけ動揺した。


「恐らくだが、私の娘が時期に襲撃にあうだろう。護衛全員が体調を一斉に崩したのが何よりの証拠だ。だから私はお前に解決してもらおうと考えている。」


 話を一度区切った伊集院貞明。だが、その目は俺の瞳を捉え続けており、まだ何か言いたそうな顔をしていた。


「何か言いたげですね。嫌な予感しかしませんが。」


 するとニヤリと笑う伊集院貞明。この笑みは良くない笑みだ。昔によく見た何かを企んでいる顔だ。


「お前が解決できなかったら、この過去とお前の存在を世に公表する。」


 瞬間、俺は懐から拳銃を取り出し、伊集院貞明の額に押し当てた。こういう男はやると言ったらやるだろう。絶対にそんなことをしてほしくない俺は、今だけは依頼人と請負人という立場無しに、立場を逆転させて脅そうとした。


「不敬罪ですよ!蘭様!」


 そう叫びこちらに駆け寄ろうとしてくるフェイド。だが、俺がそれを止めようとする前に伊集院貞明がフェイドに静止の声をかけた。


「よせ。私とてこれくらい生意気の方が面白い。それに、私はただの金持ちの家系だ。故に不敬罪など成り立たない。」


 フェイドは正論を叩かれ、悔しそうに俯いていた。


「なぁ、伊集院さん。俺の過去をバラしたらどうなるかわかるな?」


 その俺の問いにニヤけ顔を変えない伊集院貞明。その度胸は素直にすごいと思った。だって、今こいつは銃を突きつけられているから。


「わかるな。私は命が惜しくないわけじゃない。命の危険があるのなら、バラすのはよそう。まだ生きたいしな。」


「ハッ。結局は命惜しさに脅すのを止めるのか。さっきまでその度胸に感心していたが、イメージを改める必要がありそうだな。」


「敬語を使ってください!」


「良いと言ってるだろう。お前は少し黙れ。」


 伊集院に叱りを受け、まるでお預けを食らったような犬のような表情をするフェイドに、思わず嘲笑した。こりゃ傑作な表情だ。


 少したち、やがて俺は拳銃をしまった。それを確認した伊集院は俺を見つめながら話し始めた。


「最後にお前に聞きたいことがあるが、構わないか?」


 その問いに首肯しながら


「答えられる範囲で良いなら構わない。」


 すっかり敬語が外れてしまっていた俺自身に多少苦笑しつつ、俺は質問を待った。


「お前の実力っていうのは本物なのか?実際に見たことがないから半信半疑でな。」


 確かに、こいつは俺の本当の実力をしらない。なんならこの世界に俺の本当の実力を知ってる人間なんて一人しかいない。それは柊小百合なわけだが。


 まぁ、実際に俺を疑うことも無理はない。ただ、そんなことに疑いを持たれてしまったらどうやって信じて貰えば良いのだろうか。


「ま、並の人間よりは強いと思ってくれ。」


 完璧に信用されても、失敗した時に困るため、曖昧な答えしかできない。俺としても期待されない方が動きやすいしな。


「そうか。まぁ良い。じゃあ聞きたいことはあるか?ないなら娘に会わせたいのだが。」


「じゃあ一つだけ。」


 そうして俺はその質問を繰り出した。


「期限はあるのか?無いならこちらとしてもやりやすいんだが。」


「設けても良いが、急かされても実量を発揮できないだろう?期限は問わない。だが、必ず任務を遂行するんだ。できなかったら…まぁわかってると思うが、そういうことだ。」


 随分と性格の悪いおっさんの請負人になっちまったと少しだけ残念に思いながらも、質疑応答の時間が終わった俺たちは、伊集院貞明の娘、伊集院神楽に会いに行くために、部屋を出るのだった。


 この先どうなるのやら。

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