13話 最恐のヤンデレとの別れ

「零。少し良いか?」


 俺には初めての任務が与えられたので、俺はしばらくは家を空けてしまう。だから零に一言言っておこうと思ったのだ。許してもらえるとは思わないが、無理矢理にでも行くしかないのだ。


 しばらくすると部屋から零が出てきた。まだ俺は何も伝えていないというのに、なぜか重たい雰囲気を纏っていた。


「いなくなっちゃうの?」


 開口一番そんなことを言われ、俺は目を見開く。


「知ってたのか?」


 すると首を横にふる零。だったらなぜわかったのだろうか。一切合切検討がつかない。


「わかるもん。一縷がいなくなっちゃうかもしれないこと。なんとなくだけどわかっちゃうんだもん…」


 愛の力というやつだろうか。少なくとも俺にはわからないが、勘が鋭いだけかもしれない。だが、零は勘なんかじゃないかのように確信した表情を浮かばせていた。


「そうか……その通りだ。俺はしばらく家を開ける。任務を与えられたからな。」


 すると零の雰囲気が変わったような気がした。


「ねぇ…私を捨てるの?」


 またこれか…と内心思いつつも、俺は否定する。実際捨てようだなんて考えたことないし、これから捨てるつもりも毛頭ない。まぁ、俺から離れて暮らしていけるようになってくれればそれが1番だけど。


「俺からお前を捨てることは絶対にないから安心してくれ。俺ってそんなに信用ないのか?」


 少なくとも俺はこいつに大きな嘘をついたことは一度もない。だから少しは信用されているはずだ。だが、零は俺とは感性が違ったらしい。


「いっぱい嘘ついたじゃん。言い訳もたくさんしたじゃん。私を裏切るようなこと、たくさんしたじゃん。確かに信用してないわけじゃないけど、不安になっちゃうの。」


 俺が本当に消えてしまうと思ったのか、肩をワナワナ震わせる零。この小さな体を抱きしめてあげることができたら、安心してくれるのだろうか。


 俺は少しだけ手を伸ばして、もう少しで触れ合いそうな距離まで手が近づいた時、そのまま抱きしめるのではなく、俺は手を下ろした。


 無理だった。俺に零を抱きしめることはできなかった。俺には零を抱きしめる権利なんてないから。


「………ごめん。でもいかなきゃいけないから。でも信じろとは言わないけど、裏切るようなことは絶対しないってことだけ覚えてくれてると助かる。」


 そう言い俺はそのあと肩に手を置くだけした後、零の反応を待たずに自室に戻り、支度を始めた。


 今から行く場所は今の県から少し離れたところにあるので、泊まる場所とかを用意する必要がある。だから念入りに用意しなければいけないのだ。


 支払いができるカード、ホテルで泊まるための着替えや任務に使うであろう拳銃に護身用のナイフ。他にも日常生活に必要な物。それらをキャリーケースに詰め込み、支度が完了する。


 準備ができたことを香純に伝えるために、俺は携帯を取り出して電話をかけた。


「柊です。」


 思っていたよりも早くに電話に出たことに少々驚きつつも、準備が完了した旨を伝える。


「蘭だ。支度、終わったぞ。」


「そう。……目的地はわかる?忘れ物ないか確認した?」


 まるで修学旅行に行く息子に聞くような質問をしてくる香純に俺は苦笑しつつも


「確認したし行く場所もわかってる。お前は俺の親かなんかか?」


「実は一縷って私の隠し子なんだよね…」


「俺はお前より年上だロリッ子。」


「ロリっ子って何よ!ロリッ子って!」


 俺の少しのからかいに躍起になって反論する香純。正直こういう煽りにすぐに反応するところは、元の組織にいた最凶の殺し屋である柊小百合に似ている。あいつの欠点は情がなさすぎることと煽り耐性が低すぎることくらいだ。


「そんで、俺は何時につけば良いんだ?」


「そうだねぇ。9時には顔合わせしてほしいから8時くらいには到着しといてくれない?」


「夜か?」


「朝に決まってるでしょ!」


 あいも変わらず早すぎる時間だ。最近ぐうたらしている俺には起きるのが難しい時間だ。県が離れているため四時くらいには起きなければいけない。


「俺、起きれるかな。」


 すると電話越しでもわかるほどに呆れたような声を出した香純がこう言った。


「起きなきゃ任務できないでしょうが…」


 そんなことを言われ、割とブラック企業に勤めてしまったかもしれないと思った今日この頃だった。




 

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