12話 最強の殺し屋の初任務
最近は特に用事がないため、暇なのだ。だから俺は昼ごろまでゆっくりと寝ようとしていた。だが、そんな俺の願いも虚しく、部屋中にけたたましく鳴り響く着信音で俺は起こされた。
内心でうるさいと文句を言いつつ携帯を覗くと
『柊香純』
と書かれていた。おそらくこの間言っていた零とのデートを見張る代わりの仕事の話だろう。俺としてはもう少しのんびりしていたかったが、そういうわけにもいかない。だから俺は電話に出ることにした。
「もしもし。」
「デート楽しかった?」
俺は電話を切ってやろうかと思った。最初から冷やかしで話題を作ってくるとはこの女もやりてである。
「黙れ。要件はなんだ。」
寝起きだし冷やかされたこともあり少しイラついていた俺は端的に要件を聞き出した。
「少しくらいは乗ってくれても良いじゃん〜。まぁ教えるんだけどさ〜。」
そうして香純は要件を言った。
「この間の仕事の話だよ。」
「やっぱりか。」
俺の予想は完璧に当たっていた。まぁ、こいつが電話かけてくる理由なんて組織の仕事しかないからな。
「そんで、どういう仕事なんだ?」
「護衛だよ。」
「…………護衛?」
てっきり殺しの仕事だと思っていたので、少しだけ驚いてしまう。
「なんで護衛?殺しじゃなくて?」
すると香純は呆れたようにため息をついた。
「あのねぇ。私たちの組織は殺しだけじゃないから。一般的には何でも屋って感じだよ。殺しは裏組織の人間しか知らないよ。」
前いた組織とは大きく違う。前の組織は殺しの専門的な組織だった。ゆえに護衛なんて仕事俺はしたことがない。まぁ、俺に叶う人間なんてそうそういないため心配する必要なんて全くない。
「で、誰の護衛をするんだ?」
俺が聞くと香純が驚くような答えを返してきた。
「伊集院家の娘だよ。」
「マジかよ…」
絶句してしまう。伊集院。この国でトップレベルの財閥。この国で1番大きな会社を経営しており、会社の数や部下の数は数えることができないほどだ。そんなお偉いさんの娘の護衛なんて普通は俺たちにする機会などない。基本は警察の人間が護衛をするのだろう。だから俺は驚いた。
「でもなんで俺らが護衛するんだ?他にもっと信用できるところなんていくらでもあるだろ?」
すると目を細めてニヤリと笑う香純。
「あなただよ。」
「…………へ?」
「あなたがいるから私たちの組織に依頼が入ってきたんだよ。今、なぜかわからないけど伊集院の護衛全員が体調を崩してるんだよ。全員一斉にね?」
「なんだそれ。」
全員一斉に体調を崩すとか普通はありえない。そんなことが起こるのなら人為的にしか起こらない。
「だから護衛が欲しかったらしいよ。それであなたが殺し屋専門じゃなくなったから依頼したんだってさ。」
「……なるほど。」
確実に裏がある。伊集院ほど大きな家系会社ともなれば大量の人たちが敷地内を出歩いたりするだろう。そんな中でいきなり護衛全員が体調を崩す。どう考えても人為的な出来事だ。何が言いたいのかというと、伊集院グループの中に、必ず裏切り者がいるということだ。それ以外には考えられないのだ。そしてその裏切り者から伊集院の娘を護衛する。普通に難関な任務だ。並みの人間では遂行することすらできないだろう。だって、裏切り者が誰なのかわからないのだから。
「俺はその伊集院の娘とやらを護衛するだけで良いのか?」
すると、香純が首を横に振った気配がした。
「護衛は当たり前なんだよ。だから護衛と一緒に犯人を探して欲しい。」
「それ、どれだけ難しいのかわかってんのか?俺は別に頭は良くねえぞ。」
「知ってるよ。頭がよかったらこんな組織じゃなくて自分で組織立ち上げてるもん。」
反論ができないのが少し悔しかったが、まぁ良いだろう。だが、こう言った仕事を引き受ける上で大事なのは報酬だ。俺たちの仕事や任務は危険が伴う。だからこそ多額の報酬が渡されるのだ。報酬が少なかったら絶対に引き受けない。だから俺は香純に聞いた。
「報酬は?」
すると香純は口を開かずに指を5本立てた。それを見て俺は笑う。それだけあれば報酬としても多い方だ。流石はこの国トップの財閥と言ったところか。
「ま、引き受けるだけ引き受けるさ。裏切り者を見つけ出せるかどうかはわからんがな。」
「裏切り者を見つけ出すまでこの任務は続くよ?だから頑張ってね?」
その言葉を聞いて俺は絶望するのであった。任務の終わりが見えないのはこれが初めてだ。
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