10話 最強の殺し屋がデートに誘われた

「デートしよ!」


 朝起き、リビングに行くと、開口一番にそんなセリフを言われる。寝起きで頭が寝ぼけている俺にはその言葉の意味を一瞬で理解することができず、俺は


「は?」


 と聞き返したのだった。そんな反応を見て、当然ながら零は機嫌を悪くするわけであって


「デートに誘っただけなんだけどなんでそんな反応されなくちゃいけないの?一縷ばっか外出してずるい。私も外に出たい。」


 と駄々をこね出す零。


 デート。男女や恋人が二人で出かけたり遊びに行ったりする行為。人々はそれを基本的にデートと呼ぶのだろう。零は俺のことが好きすぎるがゆえにデートに誘っているのだろうが、生憎と俺はこいつと二人で遊びに行く気などない。だから俺はいつも突き放しているのと同じ感覚でその誘いを断る。


「悪いが、仕事が忙しくなる可能性があってだな。」


「その仕事を一縷に任せてる人って誰?殺してくる。」


「おいちょっと待てナチュラルに人を殺そうとするな。」


 仕事を言い訳に出した途端物騒なことを言い出す零。こいつはいつもこうだ。俺の時間を取る人物が現れたらすぐに殺そうとする。


「なんで殺すって選択肢が出てくるんだよ…」


「一縷にだけは言われたくなかったけどね。」


 ぐうの音も出ない正論だった。俺はたくさん人を殺してきたが、こいつはまだ一人も殺していない……はず。だから俺が人を殺すなと言ったところで説得力のかけらもないのだ。まぁ、こいつにだけ甘い俺だからこそ、こいつにはそう言った殺しなどの悪事に手を染めてほしくないという願いがあるのだが。


「俺はお前にそういうことに手を染めてほしくないんだ。頼むから殺さないでくれよ?」


 すると俺の目を見ながらニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべ始める零。思わず固唾を飲む。首筋に嫌な汗が流れ始める。まぁ、なんで言われるかは想像がつく。


「大丈夫だよ。一縷が私から離れなきゃ誰も殺さないから。」


「そう言われると思ったよ…全く…」


 こいつの言葉を予測できるようになった自分が1番怖い。そう思ってしまう俺であったのだった。




 あれから少しだけ時が経ち、今は正午でお昼ご飯の時間である。組織に入ったは良いものの、しょっちゅう仕事があるわけではないらしく、暇な時間が多いのだ。だから俺は今日一日中暇なわけであって


「だからデートしようよ〜。」


 暇だからか、駄々をこねる零。またこのくだりかよと思ってしまったのは内緒である。バレたら殺されるからな。


 正直に言ってしまえばデートをすること自体はもう良い。もう行ってあげるから静かにしてくれって感じだ。だが、俺が頑なになってデートを断るのには理由がある。それは


「だから、追ってとか元の組織の奴らにバレたらまずいことになるんだよ…」


 何回説明したかもわからないことをまた説明する。はて、一体いつになったらこいつはわかってくれるのだろうか。


「それでもだよ。一縷なら守ってくれるでしょ?」


「…………まぁ、守るけどよぅ。」


 守るよ。守るけどさ、柊小百合とかいうやつに遭遇したらこの世の終わりなんだわ。それにこいつが狙われる可能性も生まれてしまうかもしれないのだ。


「…………ハッ!」


 そこで俺は名案を思いついた。どうせこいつからのデートの誘いを断るのは無理だ。だったらなんとかして安全を確保しながらデートをするしかないのだ。そして思いついた名案をすぐに実行するために俺は携帯を取り出してメールを打ち込み始めた。


「誰とメールしてるの?私以外の女?殺してもいいの?」


 零がまたもや物騒なことを言っていたがとりあえずは放置だ。そして、すぐに折り返し電話がかかってきた。俺はその電話に出た。が、瞬間鼓膜が破れるのではないかというほどの大音量が耳元で響いた。


「どういうこと!?私暇人じゃないんだけど!?」


 叫び声を発したのは香純だった。なぜこいつが叫んでいるのか、俺が送ったメールの内容はこういうものだった。


『零とデートしなきゃならなくなりそうだから俺たちの周りを見張っててくれ。』


 俺は香純が暇人だと確信してこのようなメールを送ったのだ。まぁ、見張りをするのは香純じゃなくても組織の人間なら誰でも良いのだ。だからこの提案を飲んでくれると思ったのだが


「引き受けるわけないでしょバカなの?ちょうど仕事が入ってきて忙しくなりそうなんだけど…」


 タイミングが悪い。どうにかしてその仕事を明日に引き伸ばせないだろうか。そう考えていると、香純が俺にこんな提案を出してきた。


「この仕事をあなたが引き受けてくれるのなら今日見張ってあげても良いよ?」


「そ、それだけで良いのか?」


 元より仕事はやるつもりだったので、それだけでこの条件を飲んでくれるのなら好機だ。だったら引き受けないわけにはいかないだろう。


「いいよ。大変な仕事だから。あなたに引き受けてもらえるのなら楽できるし。」


 絶対に姉の組織を潰そうと企んでる奴の考えじゃないよな。と思ったがそれを口に出すも不利になりそうなので口を慎んでおいた。


 そんなこんなで零とのデートを仕方なくやる羽目になったが、安全は保証されそうである。あの電話の後、女と話しているとは何事だと、零が怒り狂ったのは言うまでもない。

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