9話 最強の殺し屋が添い寝された!?
「はぁ。」
俺はため息をつく。昼間、俺を待ってる最中に悪夢を見てしまって、零はおかしくなった。今までにも何回かおかしくなったことはあったが、少し強く言えば治った。だが、今回は度が過ぎていた。何が原因なのか、考えたらすぐにわかった。
「甘やかし過ぎてたかなぁ。」
そう。俺は甘やかし過ぎていた可能性がある。欲しいと言っていたものはなんでも買ってあげてたし、なるべくストレスを与えないように気を使ったりした。
俺はウキウキな様子で料理を作る零を見て、またため息をついた。俺が原因の発端とはいえ、もう少し安定して欲しいものである。
「そういえば。」
俺はあることを思い出し、ポケットを弄る。そしてそれを取り出す。そして、零の方に歩いていく。
「零。ほらこれ。」
俺は零がこっちを確認したのを見届けてからそれを投げ渡した。
「携帯?」
小首をかしげる零。なぜ渡されたのか、わからないのだろう。だから俺は説明することにした。
「連絡取れなきゃ不便だろ?だからだよ。俺の連絡先も入ってるし必要があったら連絡しろ。仕事で帰ってこれないかもしれないからな。」
組織の仕事で帰ってこれない日が続く可能性があるので、ヤンデレを促進させないためにもスマホを渡した。それともう一つの理由もあるのだ。
零の安全を保つためにも、そのスマホにはGPSが取り付けてある。束縛のようになってしまうかもしれないが、ほとぼりが冷めるまではそうした方が良いと、香純と俺が判断したからだ。
直後、俺の携帯の通知音がなった。誰からかを確認するために画面を開くと
『二階堂零』
と書かれていた。俺はため息をつきながら
「おい…これからは用もなく連絡するなよ?俺だってすぐに返信できるわけじゃないんだ。」
「返信してくれるよね?」
気がつけば眼前まで接近してきていた零に圧を孕んだ声で言われ、俺は頷くしかなかったのだった。
零の作った夜ご飯も食べ終え、夜も更けてきたころ、俺は寝よっと自室のベッドに潜り込んだのだが…
「なんでいるの?」
当たり前のようにベッドに潜り込んできた零に俺は質問する。すると零は小首を傾げながら
「一縷のことが好きだから。」
と、答えになってない答えを返した。正直言って意味不明である。
「俺のことが好きだからって布団に入ってくるな。ここは俺のプライベート領域だ。」
「一縷のプライベートも全て私のものだよ?忘れちゃったの?」
キョトンとした顔でありもしない事実を突きつけてくる零に、俺は嘆息しながら
「勝手に俺のプライベートを自分のものにするんじゃない。俺にだって人権があるはずだ。」
「その人権だって私のものだけど?」
マジかよ…と言う思いが心の中で反芻される。俺に人権はなく、プライベートもありゃしない。過酷な人生の出来上がりだ。
「………って腕に引っ付いてくるんじゃない!」
気がつけば腕を抱き始めている零をなんとかして引き剥がそうとする。俺だって男だ。ゆえにこんなことをされてしまっては意識してしまう。
「意識してよ。」
「ナチュラルに心を読んでくるなよ。」
とうとう心のプライベートまで侵害されたらしい。あぁ。どうやらこの家で俺の気が休まる場所はないらしい。そう考えると無性に無気力になってきた。
「………早く出てけよ。」
だが、これを許すわけにはいかない。いつも零にだけ甘い俺だが、こんな不埒な行為に発展しそうな場面を見過ごすわけにはいかない。恐らくこいつは俺が寝た隙を見計らって手錠をかけてきて襲う、なんてことも平気な顔をしてやるだろう。
俺は人の気配がすれば勝手に睡眠から目覚めるため、いつもなら寝れるのだが、こいつが元々いる状況で寝てしまえば、こいつが何をしてるのか確認する術がなくなってしまう。こいつは俺に心を許しているのだろうが、俺はそういうわけではないのだ。
「ほら早く。無理矢理にでも引っ剥がすぞ。」
「チッ」
「だから舌打ちをするなって舌打ちを。」
少しだけ怒りを含んだ視線を俺に数秒向けた後、名残惜しそうにベッドから降りる零。
「あ〜あ。本当だったら今日襲うつもりだったのに。なんでこんなにも心を許してくれないの?」
「…………そりゃ、俺がお前のことが好きじゃないからだ。」
零はそう言葉を漏らす俺を冷たい目で一瞥しながら
「ほんっと。固いやつだよね。」
とだけ呟いて、部屋を出て行った。毎回思うんだが、こういうことしても失敗するのわかってるはずなのになんで部屋にくるのだろうか。時間の無駄をしていることに気がつかないのだろうか。
「わからんな。」
結局零の真意が分からず、頭を悩ませることになりそうだったので、俺は考えることをやめ、眠りにつくことした。
組織に入り、零のヤンデレが少し進化してしまい、これから先は大変になりそうで、またもやため息をつきたくなるのだった。
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