7話 最強の殺し屋の実力

「その男を倒しなさい。」


 香純のその一言で、戦いの火蓋が切られた。男たちは懐からナイフを取り出したり、拳銃を取り出したりして構えてくる。


「おいおい、情のかけらもねぇじゃねぇか。」


 そう呟くと、一人の男がナイフを持って突進してきていた。俺はそのナイフが刺突される瞬間、横に回り込み、手の甲を叩く。そいつはナイフを落とす。隙を逃さずに勢いに任せた回し蹴りを打ち込む。


 男は3人を巻き込みながら吹っ飛ばされた。他の男たちは一人では勝てないことを理解したのか、何人かで束になりかかってきた。だが、結果は同じ。全員返り討ち。


 俺は奥の方でこちらに銃を構えている3人に視線を飛ばす。そして、嘲るように言う。


「お前らは馬鹿なのか?」


 俺は思ったことを率直に告げる。


「こんな人数が部屋にいるのに銃を撃てるわけがない。仲間に当たってしまう可能性があるからな。だからこそ、銃を持ってるお前らは何も出ずに佇むしかなかったわけだ。」


 少しの煽り言葉を放つと、男の一人が発砲する。俺の後ろに男の仲間はもういない。つまり、3人の男は銃が打ち放題なのだ。だが、俺は音速を超えるスピードで飛来してくる弾丸を最も容易く避ける。そして、まるで飛んでくる軌道が最初からわかってるかのように避けながら、懐に潜り込み、3人の男の首に順番に手刀を打ち込む。


「……反則じゃん…」


 拳銃を発砲した男の後ろ側から見ていた香純が声を漏らした。


「悪いが反則じゃ無い。俺は俺の実力でこいつらを捻じ伏せただけに過ぎない。」


 すると、男10人ほどをあっさり倒されたのが悔しかったのか香純は拳銃を懐から取り出す。そして、それを俺に向かって構える。一応俺たちは仲間になったはずなんだけどな。


「俺たちは仲間なんじゃ無いのか?」


「…………うるさい。」


 そして、その銃が躊躇なく発砲された。が、そんなものが当たるわけが無く、俺は香純の懐に潜り込み、手を振り上げて


「っ!!」


 何かを覚悟したような顔をする香純の頭にチョップをした。


「………はへ?」


 素っ頓狂な声を漏らす香純。恐らく本気で殴られると思ったのだろう。


「悪いが女に手をかける趣味はないんだ。」


 香純は呆然としながらも反論した。


「今まで何人もの女を殺してきたくせに…」


「そいつらは全員罪人だ。」


 少しだけ軽い雑談を交わし、香純は周りを見渡した。


「ハハ。この人数差で負けちゃったか〜。ほんと、反則級じゃん…」


 俺も辺りを見回す。男たちは見事全員ノックアウトしていた。その光景に俺も苦笑を禁じ得なかった。


「これだけで気絶するなんて躾が足りてないんじゃないか?」


「これでも実力者を集めた方なんだけどね。あなたが強すぎるだけだよ。」


 そうしていきなり火蓋の切られた戦いは幕を閉じた。急すぎて我ながら少しだけ驚いた。


「そんで、俺の実力は試すことができたのか?」


 そういうと香純は清々しい笑みを浮かべた。


「十分すぎるほどわかったよ。流石世界最強。」


 俺はその言葉を否定する。


「俺は世界最強じゃない。元はそうだったが、今では小百合の方が強いからな。」


 あくまで俺は元世界最強なのだ。現に最強なのは柊小百合である。そんな最強に今からこいつは戦争を仕掛けようとしているのだが。


「流石にやめとけ。勝ち目がない。」


 いきなり否定の言葉を吐く俺に驚く香純。


「どしたのいきなり。」


 俺は懇切丁寧に説明をする。


「流石に俺がいたところであの組織には勝てない。あの組織は小百合だけじゃなくて普通の殺し屋も最強レベルだぞ。少なくともここにいるやつよりかは強い。」


「やっぱりそう思っちゃう?」


 そう聞いてくる香純に俺は首肯をする。流石にお世辞だったとしても勝てるなんて言えるわけがない。それほどの戦力差だ。正直、俺にとっては人数なんてどうでも良い。小百合がいるという事実がきついのだ。


「だが、やめろというつもりはない。そのかわり、零の安全を保証してくれ。」


 すると香純は自信満々と言った様子で告げた。


「それならお安い御用だよ!」

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