6話 最強の殺し屋が囲まれた!?

 組織の建物に入り、最初に抱いた感想は、意外とでかい。その一言だった。少し大きな外見の建物で、中に入れば高い天井に奥行きのある部屋。


「なぁ、これ全部お前一人でここまで創り上げてきたのか?」


 その問いに、香純は自慢げに答えると思ったのだが、表情は険しかった。


「当たり前じゃん。お姉さまに勝つためには自分でなんでもしなきゃいけないから。誰かに頼るわけにはいかないんだよ。」


 相当険しい道を進んできたのだろう。香純の顔には、今までの苦労が浮かんでいた。正直、一人でここまでの組織を作れるのなら、それはかなりすごいと思う。俺にはそういった才能は無いから。だが、それでは満足しないのが香純である。


 こいつの姉、俺の元いた組織のトップである小百合は、何をしても完璧だった。一人で組織を作り、一人で機関とまで呼べるほどの規模に作り上げ、一人で俺と渡り合えるほどの…いや、下手をすると俺以上の実力を磨き上げた。才能の塊とも呼べる人間だった。


 一方香純はというと、天才ではあるが、姉の小百合が異次元であるがゆえ、いつも比べられていた。それにより姉妹仲は異常なまでに悪く、小百合がいつも香純を叱りつけ、怒鳴るという光景が日常だった。


 そして、我慢の限界が来た香純は組織を飛び出して、今に至るというわけだ。


 香純は姉である小百合を越えることを目標としてる。そのせいで、この現状では満足していないのだ。だが、香純は凡人や普通の人間からしてみればかなりの天才なのだ。だからこそ姉の小百合への劣等感に苛まれていたわけだが。


 しばらく歩き続け、ある部屋にまでやってきた。そして香純は俺の対の位置にある椅子に座った。


「本題に入ろうと思うんだけど、良いかな?」


 こいつの性格上少し雑談でもするのかと思ったが、案外話はすんなりいきそうだ。スムーズな話し合いは好きなので、俺は首肯する。


「構わないぞ。まぁ、おおよそは予想がついているが。」


 香純は一回頷き、俺に問う。


「そう。じゃあ単刀直入に聞くけど、うちの組織に入らない?」


 やはり予想通りと呼べる質問が来た。今この時期に俺を組織に呼び出す目的なんて勧誘以外あり得ないから。


「それはまたどうして?」


 すると香純は目を忌々しげに細めた。


「お姉様に勝ちたいからに決まってるじゃん。」


「だが、自分の力で勝ちたいって言ってた割に意外と人の力を頼るんだな。」


 すると、目を細めながらもニヤリと香純は笑った。


「いいや。ここであなたを勧誘して戦力に迎え入れたとしても、それは私の実力だよ。お姉さまだってそうだったように。」


 確かに香純の言う通りである。ここで俺を勧誘して組織に入り、俺が実績を上げたとする。すると、それは俺の手柄でもあり、直接勧誘をした香純の手柄でもあるのだ。それは前の組織でもそうだった。俺を勧誘した小百合も、結局は自分の実力だったのだ。


「まぁ、そうだな。それについてはその通りだと思う。が、俺を勧誘してどうするつもりなんだ?」


 何か目的があるのだろうと踏んだのだが、そんな予想をはるかに超え、香純は表情を変えずにとんでもないことを口走った。


「お姉様の組織を潰す。それだけだよ。」


 その目的に俺は瞠目する。


「本気で言ってるのか?それがどれだけ難しいか理解してるのか?」


「理解してるからこそあなたを勧誘してるんだよ。あなたの実力は私とお姉様が1番理解してるから。」


 確かに、俺がいれば百人力。それ以上かもしれない。だが、香純の言っていることは戦争だ。まず第一に、本気で組織を潰しに行くのなら、法律が邪魔をするだろう。そして第二に、小百合がいるというのがきつくなる要因だ。


 小百合と数多くの仕事をこなしてきた俺だからこそわかるが、あいつが本気で暴れたら、この国が一時的に機能を失う。そんなレベルであいつはやばく、異次元な存在なのだ。だからこそ俺は香純のそんな目的を聞き、目を細めた。


「お前は小百合のヤバさと言うのを理解していない。」


「理解してるよ。だって私たち姉妹だよ?」


「都合の良い言い訳だな。」


 そう言いつつも、俺は考える。今のところは、デメリットしかない。確かに元いた組織を潰すことができれば、俺は逃げなくても済む。だが、戦力の差が圧倒的だ。それにメリットも無い。


「お前の組織に入ることによって受けることのできるメリットはなんだ?」


 すると、香純は何かを企んでいるかのような笑みを浮かべた。


「二階堂零の安全…とか?」


 その言葉に、俺は反応する。


「なぜ、お前があいつを知ってるんだ?」


「私とお姉様は離れたと言っても結局姉妹なんだよ?嫌でも情報は入ってくる。」


 俺は少し思案する。そして


「それがメリットにならないと言ったら?」


 すると、香純は薄ら笑いを浮かべて


「それは無いよ。だってあなた、二階堂零を死なせちゃいけない理由があるでしょ?」


 柊香純という女を侮っていたかもしれない。そう思ってしまった。俺には零を死なせなくないという意志が存在する。


 俺としても、その条件を出された以上引き下がるわけには行かず、


「わかったよ。まぁ、結局はどっかの組織に入ることになってたんだ。入るよお前の組織に。」


「そう言ってくれると信じてたよ。」


 そうして香純は手を差し出してきた。手を差し出す、つまりこれは握手だろうか。この手を握れと言ってるのだろうか。


 俺たちは今、一応仲間になったわけだから、普通ならこの手を握るのだろう。だが、俺は握らなかった。そのせいか、香純が不思議そうな顔をする。


「およ?握手してくれないの?」


 その問いに、俺は周囲を見渡し、笑いながら


「その前に、周りから感じる敵意と殺意を無くしてから握手をした方が良いだろ?」


 ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる香純


「ありゃ、気づいてたんだ。」


 その瞬間、四方八方にある扉から、黒スーツを着たガタイの良い男たちが10人少し、俺を囲うように出てきた。


「そりゃ、こちとら世界最強の殺し屋と呼ばれた男だぞ。舐めてもらっちゃ困るな。」


 香純は笑いながら


「ふふ。確かに舐めてたかもね。じゃあとりあえず、実力を確かめさせてもらうよ?本当に劣ってないかどうかね?」


 そして、香純は一言


「その男を倒しなさい。」


 と命令した。その言葉が合図となり、戦いの火蓋が切られるのだった。


 

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