4話 最恐のヤンデレ
俺は送られてきたメールを見た。差出人の名前のところには
『柊香純(ひいらぎかすみ)』
と書かれてあった。
「あいつか…」
俺はすぐにこいつのことを思い出した。こいつは俺が前いた組織の時に、よく一緒に仕事をしていた女の妹である。今ではあの組織を抜けて自分で組織を立ち上げているようだった。思い返せば、姉妹仲はかなり悪かったように感じる。
こいつはあまり連絡してこないので珍しく感じていた。だから俺は内容を確認しようとしてスマホをつつき出したのだが
「誰からの連絡?」
気がつけば近くにいた零にそう聞かれてしまった。素直に言っても絶対に返信するなだのなんだの言われそうなので
「あぁ、宅配からだよ。」
「嘘の匂いがする。」
なんでバレたし。ヤンデレって嗅覚が鋭かったりするのかな?
「う、嘘だなんて人聞きの悪い…」
俺は咄嗟にシラを切った。が、それが余計に零の怒りを増幅させたようだ。
「ねぇ。一縷は好きな人から嘘をつかれた時の気持ちを知ってるの?」
「………はい。」
すると麗は目を見開きながら
「嘘だね。知らないよね?知るはずがないもんね。だって一縷は好かれたことなんてなかったもんね?」
ザクザクと俺の心を削ってくる零。やめろよ。そんなに言われると泣きそうになっちまう。
「だって一縷はたくさんの人を殺してきたからね。好かれることなんてあり得ないんだよ。」
そして、近寄ってくる零。
「でもね、私は違うよ?私なら一縷を心の底から愛せるから。全てを許容できるから。だからさっきの嘘も許せるんだよ?」
許せる、とか言っておきながら顔に影ができているかの如く悪魔のような表情を浮かべる零。
「でもね、嘘をつかれると不安になっちゃうの。だから一縷には罰を受けてもらうからね?」
「………罰?聞いてないのだが」
「教えちゃったら罰じゃなくなるからね。」
冷や汗が流れてきた。全身が冷えてしまい、凄まじい寒気が襲ってくる。これほどまでに焦ったのは久しぶりだ。
かちゃりと音がした。俺はその方を見る。零の手にペンチが握られていた。
「……それで何をするんだ?」
零はその質問に答えず、無言の笑顔でコチラに歩み寄ってくる。俺は一歩後ずさる。それに合わせ零も一歩進めてくる。
「なぁ。」
俺は話し合いで解決できないか試みる。
「なに?一縷。」
「俺はお前のためを思ってメールに返信しようとしたんだ。だから許して欲しいんだ。いや、許して欲しいとは言わない。少しだけ許して欲しいんだ。」
「私のため…か…」
ボソリと呟く零。そして顎に手をやりしばし思案し始める。そうだ。そのままで良い。
「確かに、私のためなら少しくらい許してあげても良いかもね。」
そうしてペンチを下ろす麗。なんとか助かりそうだ。
「それじゃあ返信しても良いか?」
俺がそう聞くと、仕方ないと言ったふうに零は頷いた。
「でも、私のためにならなかったら罰を受けてもらうからねぇ?」
「わ、わかった…」
ごくりと唾を飲み込み、俺は携帯を開き、メールを確認する。
『明後日にこの場所で待ってるから来て。』
端的に内容が書かれており、下には地図が貼ってあった。何の用かはわからなかったが、断る理由もないし、香純の組織に入れるかもしれないから、俺は行くことにした。まぁ、零のお許しがでればの話なのだが。
「零。明後日この場所に行ってきても良いか?」
「なんで?」
俺が聞くとYES NOよりも先に理由を聞いてくる零。
「ある奴に少し用事があるって言われてな。俺もちょうどそいつにようがあったし行きたいんだ。」
すると零は少し考えるそぶりを見せてから、
「良いよ。」
と呟いた。俺はその返事に少し驚く。まさかこんなにもすんなりと……いや、すんなりはいかなかったが、許可をもらえるなんて思っていなかった。
「そ、そうか。ありがとう。」
てっきり何をしに行くかとか聞かれるのかと思ったが、零は珍しくそれ以上は聞いてこなかった。
まぁ、考えなければならないことは他にもたくさんあるが、とりあえずは1番の問題が解決しそうなので、良しとすることにした。
そうして俺はその日になるまで適当に過ごすのだった。
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