3話 最強の殺し屋の悩み事

 俺は悩んでいた。何について悩んでいるのかというと、今後の生活である。


 俺は一ヶ月ほど前に、組織に反いた。ゆえに、俺はあの組織の奴らに今頃追われている頃合いだろう。


 このまま姿を眩ませながら過ごしていくのも良いが、それでは暇になるし、なによりも安全ではなくなってしまう。あの組織が本気で俺を探せば、すぐに見つかってしまうだろう。だからこそ、俺はこう考えた。


「やっぱりどっかの組織に入るべきなのかな。」


 すると、後ろからコツコツと足音が聞こえた。


「何に悩んでるの?」


「これからどうするかについて悩んでたんだ。」


 悩みについて打ち明けると、零は笑いながら


「私は一縷のお嫁さんになれたらそれで構わないよ。」


 全くもって悩みの解決にならない答えにため息をつきたくなった。


「冗談でもそういうことを言うなよ。俺はお前と結婚する気なんてない。」


「つれないなぁ。」


 不服そうな顔をしてどこかに行く零。俺はそれを見ながら


「あいつもどうにかしないとな。」


 と静かに呟くのだった。


 零はヤンデレゆえに扱いやすかったりずらかったりする。何かをやってくれと頼めばなんでもやってくれるため、家事とかは助かってるのだが、外出すると伝えたら、どこに行くのか、何時に帰ってくるのか、誰に会うのかをしつこく聞いてくる。


 今俺たちはどこかの組織に入るなりなんなりして安全を確保するのが1番なのだが、


「あいつ…許してくれるかな…」


 懸念点は、零が組織に入ることを許してくれるのかだ。なんて言われるかも想像がつくし、断られることも想像がつく。だからこそ俺は悩んでいるのだ。


「聞いてみなきゃわからんし聞くだけ聞いてみるか。」


 俺は短くそう呟き、零のいる自室に向かうのだった。




「え?一縷って殺し屋だったの?」


 零の一言で俺は背筋が凍りついた。忘れていたのだ。こいつが記憶喪失だったことを。


「あー、いやなんでも」


 なんでもないと言おうとした。だが、零の手が肩に置かれた。


「それが本当なら大変なことになるよ?」


 ニコニコしながらそう告げてくる零に、俺は引き攣った笑いを返すのだった。


 絶対にそれを使って脅迫したり追及されたりすると思ったのだが、両親を殺したことを伏せて全てを話すと案外すんなりと受け入れてくれた。


「私は一縷が殺し屋だろうがなんだろうが構わないけどね!私を愛してくれるのならなんでも良いよ!」


 超絶反応しづらかったが、なんとかなったので良しとしよう。一時はどうなるかと思ったが。


 結果的に一つの懸念点を解決することができた。だから俺は組織に入ろうという本題を切り出したのだが…


「ダメ。」


「だと思ったよ。」


 結果は予想通り爆散。無理でした。


「逆に許すと思ってるわけ?」


「いや、奇跡が起これば…」


「そんなの漫画とアニメでしか起こらないから。それに、組織に入って一縷が他の女のものになったらどうするの?」


「どうするって…別に俺は誰のものでもねぇよ。」


 すると、零は俺の頰に指先を這わせながら


「違う。一縷は私のものだよ。」


 その言葉と共に顔が近づいてきて、あと少しで唇と唇がふれあいそうになった時


「おい、ダメだっていってるだろ。」


 俺は腕と指を振り払い、拒絶した。


「チッ…」


「おい舌打ちをするな舌打ちを。」


「してないし。」


 俺は聞き逃さなかったぞ。間違いなく舌打ちをしたぞこのヤンデレ。


「で、結局ダメなのか?」


 その問いに、零は表情を変えずに


「ダメって何回言ったらわかるの?私はね、不安なんだよ。」


「………不安?何に?」


 当たり前、と言ったふうな様子で言葉を続ける零。


「さっき言ったように一縷が他の女のものになることがだよ。」


 その零の言葉に俺はため息をつく。


「別に誰のものになるつもりもねぇし仮に誰かのものになったとしてもお前には関係ねぇだろ。」


 今度は零がため息をつく。


「はぁ。関係大有りだよ。一縷は私のものなんだよ?にも関わらず一縷が他の人のものになるなんて、許せないと思わない?」


 またため息をつきたくなった。だが、堪えた。これ以上ついてしまうとこいつは切れる。それだけはダメだ。


 それにしてもこいつはあれだ。話が通じないというやつだ。本当にこいつはこの国の人間か?そう思わざるおえなかった。


 結局零からお許しの言葉は貰えず、俺たちは個人で暮らしていかなければならなくなったわけだが、


「危険すぎないか?」


 思わず呟いてしまう。あの組織の危険性を零は理解してないと思うんだ。だからこそ他の組織に入って身を隠したいのに。


 と、俺がそう考え事に唸っている時だった。スマホが鳴った。正直いつもある女から連絡が来ているので、無視しようかと思ったのだが、意外な人物からの連絡だった。


 俺は内容を確認して、その連絡に返事をしようとするのだった。

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