第15話 ゴブリンの村に向かう途中

 ゴブリンの村は控えめにいって寂れているようだった。雑草が生い茂り、木々の間に布キレがかけられている程度の家。

 正直、サバイバル番組で無人島に住むという企画があれば建てられるような見窄らしい家屋だった。


 魔王城の豪華な石造りとはレベルが違う。同じ国でもこんなにも生活レベルが違うのか。まぁ、首都とスラムって感じの違いがあった。


「その、随分寂れているようだな」


「ロードロード。これはおかしい。まだこの辺りはゴブリンの村じゃないはずだ」


「え?」


「あたしはお前を担いでいるから木々にぶつからないように本来のルートを外れて歩いている」


「す、すまない」


「いや、それは良いんだ。問題は普通なら張られていない場所にテントが張られているってことだ。つまり……」


 スレイブが険しい顔で辺りを見回す。レギンは上を見上げる。


「多分だけど、ゴブリンはもう裏切っているな。私達は待ち伏せをされていたんだ」


 レギンがそう言った瞬間、周りから咆哮が起こった。


「「「「「「ぐおおおお!!」」」」」」


 レギンの体に茶色い光が迸り、スレイブは緑色の光が迸る。


「ゴブリン達だ! 十匹ほどは数がいるようだ!」


「レギン、道さんの護衛は任せますわ」


「おう!」 


 レギンの茶色い魔力によって俺は覆われる。何コレ、俺の防御力が上がるの?


 スレイブは胸の前で両腕を交差させて詠唱を始めた。


「風の精霊たるシルフよ、力をお貸し下さい」


 スレイブは交差させた腕を一気に開ききる。


「「「ぐああああああ」」」」


 悲鳴が聞こえる。スレイブの扇いだ風が鎌鼬となり、木々の間に潜むゴブリン達に命中したようだ。


 俺とレギンの背後から複数のゴブリンが飛びかかってくる。完璧なタイミングだった、これはくらってしまう――そう思ったのだが。


「ふん!」


 レギンのパンチでゴブリン達は、その殆どが一瞬で肉塊になった。


「え……」


 俺はドン引きした。ゴブリンって紙耐久なのか? 一瞬で死んだぞ。レギンはゴブリンの生き残りに詰め寄り、胸ぐらを掴む。スレイブも険しい顔でゴブリンを睨む。


「おい、お前。どういうことだ、これは。ゴブリン達は……中立するどころか魔王軍と敵対するのか?」


「……我々は魔王軍に屈しない!」


 ゴブリンの男は吐き捨てた。魔王軍と人間の国の両方に良いところをする風見鶏ならまだ分かる。だが、明確に魔王軍と戦おうとするとはどういうことだろうか?


 魔物なら魔王軍に協力するのが普通では無いだろうか?


「ゴブリンに、何があった? お前達も、ゴブリンが人間や他の魔王に奴隷にされてて嫌だからこのエヴォルに逃げてきたんじゃないのか?」


「ふふふ、我々は……ゴブリンの王たる人物と出会った」


 レギンは怪訝な顔をする。


「ゴブリンの……王?」


「あぁ」


 ゴブリンはニヤリと笑った。


「ゴブリンの王は、ゴブリンロードなどではない。人間の転移者だ。『ロビンフッド』様、『シモ・ヘイヘ』様に心酔することにゴブリンは決めたのだ」


 おい。どっちも知ってるぞ……森で戦うなら相手にしたくない奴らだ。つーか、特に後者とは絶対に戦いたくねえ。『シモ・ヘイヘ』だと? そんな化け物とどうして俺が鉢会わないといけない。


 ちらりと見れば、レギンは眉を顰めている。スレイブも青ざめ息を呑む。


「転移者がいるなら……苦戦は免れません。それどころか、エルティア王国と連動されたら……」


 レギン達はかなり強いという話だが、そのレギンがびびるほど転生者ってそんな強いのか? 俺に戦闘力は皆無。二人が勝てないってなら撤退しかない。石畳直すくらいしか今のとこやってないぜ。

 ――すると。


 ゴブリン達が一斉にレギン達に飛びかかってくる、完全な奇襲だった。

 しかし、襲撃が再びあったもののスレイブが魔法を使うと一瞬で鎌鼬が発生し、ゴブリン達を切り裂いた。


 ゴブリン達が次々に肉片となって飛び散り、血の河が出来る。

 これには俺も生き残りのゴブリン達も騒然。


「つ、強い……」


 俺は思わず声を漏らした。

 手も足も出ないとはこのことだ!


 生き残りのゴブリンが一体、死に物狂いでレギンの腕を精一杯掴んだ。


「お前ら、やるんd――」


「レギン、上にゴブリン達が」


 一斉に伏兵として潜んでいたゴブリン達が上からレギンに飛びかかる。全員鉈を持っている。


「!」


 レギンは、俺にかけた茶色い魔力をより分厚くして、俺を振り回した。


「おらあああああ!!!」


 俺、武器として大活躍! 役立たずよりは使ってくれた方が嬉しいよね! って、んな訳あるかい!

 レギンはゴブリン達を俺で叩いていく。わぁ、痛くない。だけど俺の表面がゴブリンの返り血で染まり超グロい。


「っく……」


「な、何だ、その装備は。しゃ、喋った。まさか、魔物なのか?」


 俺の声に気付き、ゴブリン達が質問してくる。それに対して、レギンが、


「これは、魔王軍の新入り、『道』さ!」


「……ぶ、ぶははははははは!」


 ゴブリン達は俺を見て嘲笑する。


「コンクリートの塊が喋ったぞ!」


 っく、俺を笑いやがった。その後、ゴブリン達はスレイブとレギンに圧倒され、一体だけ生かされた。

 そいつは仲間を見て嘆いていたが、命を狙ってきたので可哀想という気持ちはまるで起きなかった。

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