第10話 『道テイム』の時、美少女パンツを見ていたことが魔王にバレる。

 この街で最も荘厳な建築物、それが魔王城だ。視線をキョロキョロできるから堪能できる景色が増える。空に向かう尖塔が綺麗だ。


 レギンは門番に会釈したりすれ違う奴に手を振って城の頂上を目指す。

 そして、大きな石扉の前に立ち、


「サキュバス族のレギン。参上します」


 レギンが敬礼しながらそう言う。魔物の場合、種族名が性なのだろうか?

 つまり、俺を『道さん』と言ったのは……苗字で呼ぶようなものか。


 俺は『道族のロードロード・ドーロード』と若干長い名前になってんのかな?


「来たか。入れ」


 魔王ガンダールヴの声がして、レギンが元気に「はっ!」と答える。

 大きな石扉が開く。どうやら自動ドアのようだ。異世界は電気の代わりに魔力が流れてたりするのだろうか?


 俺は運ばれ、レギンと一緒に魔王と対面。

 魔王とその左右に3人ずつ偉そうな奴らが座り、俺とレギンは彼等と向かい合う感じで位置してる。


「座ってくれ」


「座るって、どうやって」


 俺の言葉に苦笑する魔王と臣下の方々。なんとレギンも笑っている。


「ロードロードはそのままで良い」


 だよな。

 魔王は咳払いして、俺を見る。


「ロードロード、おはよう」


「魔王様、おはようございます」


 一応偉い方なんだろうから様付けしとかないとな。


「早速なんだが、ロードロードよ……昨日のことなんだが」


「あぁ、その……はい」


 俺は少し緊張してしまう。美少女パンツを見たの、怒られるんだろうな。修学旅行で女子風呂覗くようなものだ。


「見事だった」


「は?」


「余はお前のこと見直したぞ」


 美少女パンツを見て喜ぶってそんな褒められることなのか?


「余は満足だ」


 話がおかしい……満足したのは俺のはずだ。

 俺は自分の思いをそのまま口にすることにした。


「あの……その、どういうことでしょうか? 話が見えなくて」


「お前がやったことと言えば、一つしか無いだろ?」


「?」


「『道テイム』だよ。石畳を綺麗にしてくれてケンタウロス族が感謝してたぞ」


「!」


 そういえば、そうだった。俺としたことが美少女パンツのせいで石畳を整備したのを忘れきっていたぜ。

 つーか、それが本題か。


「魔王様……任された仕事をやってみただけです。感謝など、勿体ない」


「謙遜するな。代表者がお前にどうしても感謝したいそうだ」


 バレてないようだ。ふう、ヒヤヒヤしたぜ。


「お前が道か、ありがとな!」


 俺から見て魔王の一番右側に座る野太い声をしたごついおっさんが感謝してきた。筋肉ムキムキの大男、という感じ。


「兵站将軍ヒポハスだ! うちの娘が、世話になった」


 む、娘が世話になった? そんな覚えないぞ!?


「人違いでは!? いえ、魔物違いでは!?」


 笑顔のヒポハスさん、俺は貴方の娘ってのに覚えが無い。


「お前のような魔物、お前しかいないわ」


「ひいいい」


「ありがとう。ブーケが喜んでおったぞ!」


「は?」


 ブーケ? ブーケってあの超絶美少女の? っていうか、よく見るとこのおっさん……馬の耳がついてる。


「気付かなかったか? ブーケは我が娘なのだ! よく似てるって言われるんだが」


「ブーケが!?」


 あの可憐な馬の娘がこんな厳ついおっさんから……信じられん。似てるってどこがだよ、魔物の基準で似てるのだろうか? 俺、多分元人間だしな。


「そっか。喜んで貰えて何よりです」


「そしてだな。その、あの……お願いがあるんだが」


 おっさんが赤面して少しもじもじしてる。ちょっときもいな。いや、すげーきもいな。


「何でしょうか?」


「ブーケが言ってたのだ。お前の体は踏み心地が良い、と」


「はぁ」


 嫌な予感からつい、俺はだるい声を出す。にも関わらず、ヒポハスは目をきらきらさせて話しかけてくる。


「踏ませてもらえないだろうか?」


「え……嫌です」


「!?」


 ケンタウロス族の族長は悲しげな顔を浮かべた。


「な、何故」


 まるでその姿はデートを断られた純朴な少年のようだった。


「誰かに踏まれるのって良い気分じゃ無いんですよ」


 美少女でも無い限りな。


「そ、そんな……娘はあなたが踏まれて喜んでいる感じがしたと」


「!?」


 やべぇ、ばれてるのかよ!


「他のケンタウロス族の娘も言っていたのです!」


 っく……逃げ道が欲しいぜ! ケンタウロス族は踏んだ相手の気持ちを感じ取れるのか? 畜生!

 おっさんは泣きそうになりながら俺を見る。ふざけんな、偉いおっさんに踏ませてくれなんて言われて何が嬉しいのか。泣きたいのはこっちだ! ブラック企業かっての!


 と俺が考えていると、魔王が話しかけてきた。


「ロードロードよ」


「魔王、助けてくれ!」


 魔王は不敵に笑った。そうだ、こんなパワハラ案件、一国の主が許す訳が……。


「すまないが、踏ませてあげろ」


「な、何!?」


 何言ってんだ、この魔王。


「い、嫌なんだが」


「王命だ」


 ふざけんな!


「それでも嫌なんですが?」


「……分かった」


「分かってくれましたか、魔王様」


 魔王が理解してくれた様で俺は安堵する。

 が、ケンタウロス族の族長・ヒポハスは俺を見て懇願した。


「では道。私を踏んで良いので、踏ませて下さい」


「なんだその相互主義は!? おかしいだろ」


 おっさんに踏まれてもな。嬉しくないんだよ。と俺がそんなことを考えていると、魔王は水晶を持って俺に向けてきた。魔王の隣に座る6人、レギンも動揺し出す。


「ま、魔王様……『真偽水晶』を使われるのですか?」


 それは魔王の左側に座る髭の長い老人だった。胴長短足かつ中肉中背で筋骨隆々、見るからにドワーフだ。

 魔王はドワーフロードだけあって、側近に同族を任命したのかな。


「大臣よ、仕方が無い。余は今の国情を案じている。ロードロードを信頼できるかどうか、試す為にも仕方ない」


「魔王様……」


 どうやら大臣らしいドワーフの男は悲しげな顔をしている。なんだあの『しんぎ水晶』とやらは。真偽、審議、信義……心を試すものだと思うが、よく分からない。俺は質問する。


「魔王様、それは何ですか?」


 俺の言葉に魔王を覗く周りの魔物が驚く。


「真か偽か確かめられる『真偽水晶』だ」


「しんぎけっしょう……」


「これは相手が嘘をついてるかどうか百%分かる」


 まじ?


「凄い!」


「……『真偽水晶』は常識では?」


 ドワーフ大臣が俺を訝しげに見る。どうやら、俺が知らなかったのに驚いていたようだ。転生者ってバレてしまうな。ってかレギンが報告するって言ってたっけ……俺が人間の記憶あることとか。


「そ、そうですっけ? 記憶が曖昧で」


 俺が困っていると、レギンが会話に割り込んできた。


「その、魔王様。ロードロードが踏まれるのを嫌がってるなら止めてあげましょう。ロードロードが踏まれるのを嫌がるなら、皆踏むの止めるべきです」


 レギンは踏んでいいんだぞ、俺は内心そう思ったがそんなこと、言えない。


「あ……」


 俺はどもってしまう。


「どうした、道?」


「……」


 魔王は訝しげな顔で黙る俺を見つめる


「まさか……」


 魔王は驚愕の表情を浮かべ、俺を凝視した。


「おい、ロードロードを残して他の者はちょっと出て行って貰えるか?」


 周囲の七人はざわめく、俺と魔王を除いて二人になれだと?


「頼む」


 結局魔王の懇願でレギンを含む七人が出て行った。人って魔物を数えてるけど、全員が亜人だった。人型の魔物だけが魔王城にいる。スライムとかドラゴンとかいない。このエヴォルって国は亜人の国なのだろうか?


 そんな俺の疑問をよそに、魔王は俺を真剣な目で凝視する。

 何をする気なんだ?



 魔王城最上階の部屋で俺と魔王が二人っきり。魔王は真偽水晶を俺に向けて、1分ほど沈黙している。空気に耐えられなくなり、俺は質問をしてしまう。


「魔王様、どうしたんですか?」


 ただならぬ雰囲気、気まずいってレベルじゃない。魔王は俺に、重々しい空気で答える。


「ロードロードよ、道よ! ……もしかしてお前は、転生者か?」


「え」


「レギンからの報告も考えると、お前は、元人間の転生者ではないかと思うのだ」


「!?」


「どうなんだ?」


 疑われてる。元人間だと。これは誤魔化すしかない。この魔物の国で元人間とバレたらまずいよな? 取りあえず誤魔化そう。レギンに相談して、言っても良いと思ったら後で報告すればいいだろ。


「わ、分かりません。でも、もしかしたら違うんじゃないかって」


 ちかちかと真偽水晶が光る。


「やはり、か。はっきり分かってるようだな」


「……」


 あの水晶、チート過ぎだろ!


「お前は、元人間なのだな」


 魔王は暗い顔で俯く。水晶は光らない。


「お前が踏まれて嫌だというのも分かった」


「へへへ、まぁね」


 レギンとかは例外だけどな、と思うと。ちかちか、と光る『真偽水晶』。


「え?」


 魔王の怪訝な顔、まずい。


「どういうことだ?」


 魔王は俺と水晶をちらちら見る。あの水晶、チート過ぎて嫌!


「お前は基本的に常に仰向きの姿勢だよな?」


「は、はい」


 水晶は光らない。魔王は頷く。俺は焦る。


「元人間だよな?」


「はい……」


 水晶は光らない。魔王は無言。俺はドキドキ。


「お前は男か? いや、そうとしか考えられん」


「そ、その」


「全て『はい』か『いいえ』で答えろ」


「男です」


「……まさかお前……女子の下着を」


 魔王は口元を押さえて目を大きく見開いた。まずい、真実がバレる!


「こ、興奮なんてしてません」


 ちかちかちか、と光る水晶。


「……」


「……」


 魔王と俺の間に微妙な空気が生まれる、まぁそりゃ生まれるよな。

 静寂な空気がただただ気まずい。


 魔王は突如、声を発した。


「この変態がぁ! やはり俺の刻印情報は間違ってなかったようだな!」


 バレてしまった。俺が美少女パンツを見て喜ぶ変態だと、バレてしまった。

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