異世界転生執行人 〜こんな仕事もありなのか?〜

かなちょろ

短編

俺は3年前まで、一人暮らしのニートをしていた。


 もちろん大学卒業後は就活もした。

 でもうまく行かなくて……、疲れた……。


 家賃なんかは仕送りと大学までバイトをしていたお金で賄っている。


 良くアルバイトすれば良いじゃん!とか言ってくるけど、俺は就職して安定した職を手にして、安定した生活を送りたい。


 こう言うとただの言い訳じゃん!と良く言われる。


 実際そうなのかも知れないなぁ……。


 そんなある日、いつものようにパソコンで就職サイトを覗いていたら、一つ変なサイトが目に着いた。


【動き方は自由。 月に2、3人、こちらの指定した人に接触するだけ。 要普通免許(AT可) 月収25万 ボーナス有り 連絡はこちらまで………】


 怪しい……。

 なんだこのいかにもなサイトは……。


「ちょっと面白そうじゃん」


 思わずサイトを開いてしまった。


 仕事の説明文を読むとこんな感じに書いてあった。


 【今はどの世界も人材不足。  それを貴方の手で解決して頂きます。  人の選別はこちらでしますので、ご安心下さい。  必要な道具もこちらで全てご用意させて頂きます】


 なんだこれ?

 どこの会社だよ!


 連絡先を確認すると……神……と書いてある……。


 かなり笑った。

 

 笑わせてもらったし、もう今日は終わりにして寝よ。


 サイトを閉じようとしたが、サイトが閉じない。


 うわ!やられたか?


 仕方ない……シャットダウンしよ。


 パソコンの電源をOFFにするもシャットダウン出来ない。


 やばい!


 なんとか消そうと色々いじっていたら、間違えて連絡先のボタンを押してしまった。


 【ご登録ありがとうございます。 只今より専属の係が伺いますので、よろしくお願いします】


 こんなメッセージが出てきた。


 おいおい……。

 流石に住所まではわからないよな?


 サイトが勝手に閉じて、パソコンがシャットダウンした。


 その時、部屋の真ん中に置いてあるテーブルの上が光出した。


 その光はどんどん大きくなり、弾けると、そこには1人の女性が座っている。


「あわわ……きゃあ!!」


 その人はテーブルの上に慌てて立ち上がろうとしてテーブルから転落した。


 あ、白だ……。


 「きゃ!」


 急いでスカートで隠すけどもう遅い。


 で、だ。


「あなたは何処から入ってきたの? 何処のだれ? うちには金目の物なんてないよ」


 こんなアクシデントがあったので、なんか驚くタイミングを逃してしまった。


「申し遅れました。 私は神様直属の天使で、ノアと申します」


 は?


伊達 春人だて はるとさんですよね?」

「そうだけど……」

 

「この度はご登録ありがとうございました。 早速明日から働いて頂きたいのですが……」

「ちょ、ちょっと待って!」


「なんでしょう?」

「話が全く見えないんだけど……」


「説明文は読んでおりませんか?」

「ぜんぜん……」


「……そ、そうでしたか……コホン……、今、世界では魔王を倒せそうな勇者が足りておりません。 私達天使はその世界に合った勇者を選別しておりますが、その選別した人に手を出す事は出来ないのです。 ですから、こちらで選別した方を殺して欲しいのです」


「ころ……す?」

「はい。  前は私達がやっておりましたが、手違いで殺してしまったりとありまして……。 最近はコンプライアンス的にも……」


「いやいや、そうじゃなくて……、え? 殺すの?」


「そうですよ。  死なないと異世界にはお連れ出来ないので」


「異世界?」


「異世界はご存じで無いですか?」


 いや、凄く知っているけど……。


「本当に異世界なんてあるの?」


「もちろんですよ。 ここ地球も他の世界から見たら異世界ですし」


「そうかもだけど、本当に魔法が使えたり、魔物がいたり、魔王がいたりするの?」


「はい」

 満面の笑みでこたえてくる。


「じゃあ、まずは証拠、証拠を見せてくれ」


「そうですね。 見てもらうのが1番早いかもですね」


 ノアが胸の前に手を組むと背中から羽が生え、頭の上に輪っかが浮かんでいる。

 そしてノアが現れて転んだ時に崩れた本棚の本が元に戻っていく。


 マジだ……。


 俺は目を丸くし、心臓の鼓動が早くなる。


「じゃあ、俺も異世界転生できるのか?」


「う〜ん……それはちょっと難しいですね。 異世界転生出来る方は、その世界の勇者的存在にマッチした方でないと出来ません」


 マジか……。

 異世界転生好きなジャンルだったのに……本当に存在してたのに……マジかー……。


「信じて頂けたようですね」


 そう言うとノアは普通の人の姿に戻って行く。


「でも、なんで地球なんだ?」


「それはですね、この世界、地球にマナが存在しないからです。 元々魔力があったりする方だと、異世界転生しても強くはならないんですよ。  それともう一つ、ここ日本の方は異世界に転生しても、すんなりと受け入れてくれるので転生世界にとっては凄く良い人材なんです」


 な、なるほど…。


「それで? 俺はどうしたらいいんだ?」


「まずはこちらで選別した方を調べて頂きます。 その後、殺し方を考えて頂き、実行して頂きます」


「そう!そこ!人殺しなんて、出来るわけないじゃん!俺が殺人犯になるじゃん!」


「ああ、それでしたらご心配無く」

「え?」


「こちらで選別した方を殺しても地獄には落ちません。 神様のお墨付きですよ」

「そうじゃなくって!」


 ダメだー! この天使ずれてやがる。


「この地球では殺人は犯罪なの! 異世界に送るために殺しましたとか……、そんなの理由にもならないから!」


「それも大丈夫です。  勇者として選ばれた方の死は全て本人の事故死や病死となります。 ただ、人の多い所で殺してしまうとそれを見た方の記憶操作が大変となりますので、出来るだけ回りに人がいない時にお願いします」


「それ、本当なのか?」


「疑り深いですね。 わかりました。 最初は私もお手伝いしますので、安心してやっちゃってください」


 人を殺すのに安心も何もないんだけと……。


「私は一度天界に戻って準備してきますのて、また明日お会いしましょう」


 ノアは光に包まれ消えていった。


 こんなことが本当にあるのか?

 夢じゃないか?

 俺の幻かも。

 ついに俺もおかしくなったのか?

 そんな事を考え眠りについた……。


 次の日、まだ夢現な朝方、俺の耳元では天使の囁きが聞こえて来た……と思ったら地獄の囁きだった。


「春人さん起きてくださ〜い。 お仕事の時間ですよ〜。 早く殺しに行きますよ〜」


 朝一から殺しに行くとか言わないで!!

 目覚め超悪い……。


 「全く朝っぱらから物騒な言い方ですね」


 俺は布団から起き上がるとベッドの横に座っているノアを見る。


 昨日はびっくりするは、異世界の話を聞いてテンション上がり過ぎてあまりノアの事を見ていなかったが、改めて見ると……。


 髪の毛はローズピンク、茶色のキャスケット帽子を被って、服は茶色いボーダーとオーバーオール、丸い眼鏡もかけてる。


 「起きましたね。 早く行きましょう!」


 ノアは寝巻きの俺を外に連れ出そうと手を引いてくる。


「ちょっと待って!これ寝巻きだから!今着替えるから!」

「そうでしたか。 てっきり準備万全かと……」


 なんかノアってだいぶズレてるよな……。


 早く着替えて行くか……。


 ………。


「あのー……ノアさん?」

「はい!」


「見られてると着替え出来ないんだけど……」

「あ、これは失礼しました」


 ぴょんと正座のまま後ろを向く。


 やれやれ……。


 着替えも終えて、選別した人のいる場所までノアの話を聞いてみる。


「その、今日ターゲットにしてる人はどんな人なの?」

「今日は初めてなので、比較的楽に殺せそうな人を選んできました」


 だから言い方が物騒なんだって……。


「今日の人は、35歳、社畜と呼ばれている男性です」

「社畜……」


「はい! それで私が考えた楽に殺せる方法ですが、この時間の駅ホームは沢山の社畜さんで一杯ですから、電車が来た時に後ろからえいっ!と軽く押すだけで済みますよ」


「それを俺がやるの?」

「そうです」


 無理だって……。

 そんな顔をしている俺を見て察したのか、「これも仕事です」とにこやかに話してくる……。


 そんな考え事をしていると、駅のホームに着いてしまった。


 ホーム内をキョロキョロ見ているノアは早速発見したようで。


「春人さん!あそこに居ました!」


 手を引かれ、その男性の後ろまで連れていかれる。


「あと2分程で電車が来ますよ」


 いくら仕事でも人を殺すなんてやっぱ出来るわけがない!


 こんな事やめて帰ろうと後ろを振り向いた時、電車がホームに入って来た。


  トン


 ノアが俺の事を押すと俺の背中が男性にぶつかる。


 電車の急ブレーキの音。

 聞いた事のないナニかがぶつかった音……。


 そして俺はノアに腕を引かれて野次馬に混ざって外に出た。


 息が詰まる。

 心臓の鼓動が早い。

 目の前が良く見えない……。


 俺は本当に殺しちまったのか……?


 「お仕事完了ですね」


 ノアは何食わぬ顔で言ってくる。


 「こっの!!」

 俺は思わずノアに手を上げそうになる。


「これは正義の行いですよ?  春人さんがあそこで殺さないと、あの方が転生する世界で、あの方がいないとなると、おそらく数千、数万の人が死にます」


 俺は握った拳をそのまま下ろす。


 だとしても……。


「最初は誰だってなれないものです。  春人さんが早く一人前になるよう私も頑張ってバックアップしますね」


 まだやるのかよ……。


「では私は処理と次の方を探しておきますね」


 そう言って消えて行った。


――――――――3年後


「春人さん今日はこの人です」


 そう言って写真を持って現れたのは俺の担当者であるノアだ。


「今回の方は、28歳、男性、引きこもりのニートさんです」

「引きこもりでニートかぁ……」


 3年前の自分を思い出す。


「情報によると、この方は引きこもりさんなので、家から出てくるタイミングが難しいんですよ」


「とりあえず行ってみるか」


 着いた現場は小綺麗なアパート。

 ターゲットの部屋は2階。

 セキュリティは無さそうだ。


 しばらく観察していると、ピザの宅配がやってきた。


 お金はそこそこ持っていそうだな。


「ノア、いつもの鞄を出してくれ」

「はい!」


 ノアが持っている白い鞄は天使が使える道具が入っている。


「とりあえず、さっきのピザ屋の服とナイフだな」


 ノアがバッグからから取り出した物は丸いガラス玉がはめ込まれた腕輪と透明に出来るナイフだ。


 このガラス玉の腕輪は服装だけだか、変装が出来る。


 準備をしてターゲットのドアをノックする。


「すいませーん! 先程お釣り間違えてしまいましたー!」


 ゆっくりとドアが少し開くと、俺は懐をゴソゴソとする。


 男性は安心したのか、チェーンを外した瞬間、俺の持っていたナイフは男性の心臓を一突きした。


 このナイフは優秀で、突いた相手の体内に入り込み、血飛沫が飛び散る事はない。


 その男性は倒れ込むと同時に生き絶えた……。

 死因は心臓発作となる。


「仕事完了だ。 帰るとするか」

「さすが春人さんですね」


「3年もすれば手際も良くなるさ」


 俺は仕事と割り切り、手をくだす事に躊躇はなくなっていた。


 そしてまた次の仕事がやってきた。


 今回は少し難しいらしく、殺す状況が限定されているようだ。


「それで、今回はその男性がトラックに轢かれる女性を助けると言うシナリオになっています。 タイミングが重要です」


 今までもトラックで轢く事は何度もやってきた。

 でも今回はめんどくさいな。


「タイミングがズレたらどうなる?」

「男性も女性も死にますよ】


「女性は転生出来ないのか?」

「この女性の方は転生の候補には入っていないんですよ」


 しゃーねーなー。


 俺とノアはターゲットとなる人を轢く現場まで下見に来た。


「ここの横断歩道で、春人さんの運転する暴走するトラックに撥ねられるシナリオです」

「こんな面倒臭いシナリオ考えたやつは誰だよ!」


「それは人事部の私ですよ」

「男性が1人の時でいいじゃん!」


「そうしちゃいますと、女性が別の車に撥ねられてしまうんですよ」


 なるほどな……。


 この異世界転生の仕事はノア達天使の色々な部署が噛み合って出来る仕事らしく、上手く行かないと、関係ない人が死んだりするらしい。


 俺はノアと現場から少し離れて待機する。


 今回のトラックも天界仕様で、人を轢いた後は消えてしまう。

 消えると同時に事故の場所で破損した物は勝手に治る便利仕様だ。


 人の体はその時のシナリオで治ったり治らなかったり出来るそうだ。

 便利だな。


 トラックに乗って準備する。


 そう言えば前に何故トラックなのか聞いたことがある。


 ノア曰く、普通の乗用車より殺傷能力が高いからだそうだ。


 そんな事を思い出していると、ノアがレースのフラッグのように帽子をふる。


 スタートだ!


 俺はアクセルを目一杯踏込むとターゲットの現場まで急ぐ。


 男性が女性を突き飛ばす方向を考えながら、男性だけを殺す角度や速度を考えて突き進む。


 トラックは別にひっくり返っても構わない。


 俺には何のダメージも無い安心安全な仕様だ。


 「見えた!」


 居眠り運転に見せかけてつつ、ハンドルを切り、女性に当たるギリギリを通る。


 そこにターゲットの男性が女性を庇って、轢かれた。


 俺のトラックはガードレールをひしゃげて止まり、轢かれた男性が注目されている間に、トラックから降りて服装をすぐに変えて、群衆に紛れてノアの元へ。


「さすが春人さん!もうベテランですね」


 あんまり嬉しく無い言葉をもらい、帰路についた。


 こんな事を長く続けていたら頭がおかしくなるんじゃ無いかと心配していたが、そこは天使の力で記憶を操作しているらしい。


 ターゲットの記憶操作すれば簡単に殺せるとノアに話したが、人事部では出来ないらしく、手続きが色々大変なんだと。


 天界の道具も部署によって使える道具が決まっている。


 次の仕事は簡単と聞いていたが、ターゲットの男性を確認すると思いも寄らない事があった。


「春人さん!あの方悪魔着きです!」


 ターゲットを見たノアが声を大にして俺に言う。


 悪魔着き。

 対象者の魂を取って冥界に送る仕事をしていると前にノアに聞いた事がある。


「初めて見た」


 本来なら悪魔は見えないそうだが、この仕事をしていると見えるようになるらしい。


 男性に取り憑いている悪魔は、見た目はいかにも悪魔っぽく、ツノに尻尾、刺又の槍を持っていたが……。


 めっちゃエロい……。


 服装もそうだが、体つきがもうやばい……。


 思わずノアを見てしまったくらいだ……。


「あの悪魔!毎回私の邪魔ばかりしていた悪魔です!」

「邪魔って、殺しの?」

「そうです!」


「悪魔には生殺与奪の権限は基本的にありません。 取り憑いた人が寿命を真っ当するか、魂の取引をした人で無いと殺せないのです」

「……? ノアは殺せるんだよな?」

「天使ですからね」


 え?どっちが悪魔だっけ?


 「あ〜ら、そこにいるのは誰かと思ったら、窓際天使様じゃない」


 悪魔がこちらに気がつき、俺の影からにゅっと出てきた。


「もう窓際じゃありません!」


 ノア……、窓際族だったのか……。


「ふ〜ん、この彼のおかげかしら?」


 悪魔が俺に近寄って顔を艶かしく撫でてくる。


 「やめてください!」


 良い香りとお胸の感触にうっとりとしていた所にノアが入り込んでくる。


 何故邪魔をする!


 俺の本音が出そうになった。


「まぁ、良いわ。 けど、あの彼の命は取らせないわよ」

「邪魔しないでください!」


「邪魔だなんて、ねぇ? 私はあの彼がもうすぐ寿命が尽きるから待っているだけよぉ〜」

「それが邪魔なんです!」


「せっかく取引した魂をあんたみたいなのには渡さないわ」


 悪魔が刺又を身構える。


「取引してるなら尚更私達が殺します!」


「取引ってなんだよ?!」


「私と取引したのは、彼の元カノの病気を治す事よ」

「でもその取引で彼は病に倒れたのでは無いですか!?」


「あら、彼は元々病魔持ちだったのよ。 だから取引では魂との交換じゃ無いと元カノの病気は治せないもの」


「元カノとやらはどうしたんだ?」

「彼を捨てて行ったわ」


 これは酷い……。


「酷いとか思わないであげてね。 彼は満足してるし、代わりに私が寿命まで面倒見てるんだから」


 天使じゃね?


「春人さん!騙されないで下さい! 彼の寿命が尽きれば地獄に持って行かれてしまいます! 私達が殺せば異世界で人生をやり直す事が出来るんです!」


 天寿を全うさせてあげたくもある。


「悪魔と取引した者は例外なく地獄に落ちます!」

「地獄とか言わないでちょうだい。 冥界よ。め・い・か・い」


「どっちも同じですよ!」


「兎に角、他に行ってちょうだい」

「出来ません!」


「私とやるのかい?」

「お望みとあれば!」


 ノアの体が光、羽と天使の輪が出て来る。

 2人が空に上がり、激しくぶつかり出した。


「きゃ!」

「うわっ!」

「突風か?」


 周りにいた人は2人が見えていないらしく、ぶつかった衝撃波は突風のように感じるらしい。


「春人さん! 私が抑えてますから、早く彼を殺して下さい!」

「わかったよ!」


 少し気が引けるが、異世界で人生をやり直せるなら、ただ死んで地獄に行くよりはマシだろう。


 「あ!ちょっと!ズルいわよー!」


 俺は部屋に入り、眠っている男性にナイフを突き立てた。


   ……………………………………


 空で音がしなくなり、2人ともボロボロになって降りてきた。


 「はぁ、はぁ、今回は私達の勝ちですね」

 「はぁ、はぁ、くそっ! そこの…えーと……春人だっけ?……あなたこんな奴とつるんでたら良い死に方しないわよ……」


 だろうね……。


「そんな事ありません! 春人さんは神様のお墨付きですから!」

「……まぁいいわ。 今度は負けないから」


 そのままエロい悪魔は消えてしまった。


 それからしばらくして、ノアが現れた。


「春人さん、今回のお仕事もちょ〜っと面倒くさそうなんです……」


 ノアが申し訳なさそうに話して来る。


「何が面倒臭いの?」


「今回も悪魔付きなんです」


 またか!


 今回の転生者候補は、55歳のおじさんだ。


「いました!あの女の子を連れている男性です」


 女の子は小学生位だ。

 仲良さげに手を繋いで歩いている。


「あの人をやるのか?」

「そうです」


 いくら記憶を消去出来るとは言え、女の子の前でやるのはちょっと道徳的にどうなんだ……。


「さすがに今は無理だろ」


 1人になった所を狙わないと。


「いえ、今しかありません」

「なんで?!」


「隣にいる女の子……悪魔ですよ……」

「マジで!」


 ノアと俺は2人に近づいて声をかける。


「すいません。 ちょっとよろしいですか?」


「きゃー! パパ怖いお兄ちゃんがいるよー!」

「なんだ!君達は!! うちの娘に用でもあるのか!」


「いえいえ、要があるのはあなたの方です」


 女の子はいまだ泣いている。


「私には用はない! さっさと何処か行かないと警察を呼ぶぞ!」


 男性の後ろで女の子が笑った感じがした。


「ノア、どうやって今回はやるんだ?」

「今回は悪魔付きですから、まずは悪魔を離さないといけません」


「良く初めから悪魔付きと知ってたな」

「あの方の隣にいた悪魔は娘として契約しています。 娘さんは2年ほど前に亡くなりました」


「じゃあ、魂やる代わりに娘を蘇らせてくれとか頼んでんのか?」

「いえ、それはないです。 娘さんは既に異世界に転生済みなんですよ」


 え? て事は……?


「もう春人さんもわかっているとは思いますが、私達とは別のグループが殺しました。 春人さんは女性に手を上げるのは苦手そうですから。 ……でもでも、娘さんは異世界で楽しく暮らしています」

「……そうか」


 でも残された方は……。


「娘さんを異世界に転生させた時に、あの方の記憶も操作したはずなんですが、娘さんとの強い思い出が残っていたみたいで……、完全には消えなかったようなんです」

「だから悪魔と取引を?」

「おそらくは」


 今回の仕事はどこで殺せば良いとかの指定は無い。

 悪魔を剥がせば良いと言っていた。


 まずはあの悪魔と話し合いだな。


 ターゲットの家の近くまで来ると、あの悪魔が待ち構えていた。


「やっぱり来たわね」

「当然です」


「殺しに来たのよね?」

「まずは君と話しをしようと思ってね」


「そう。 でも私は離れないわよ。 可哀想だと思わない? 1人娘を殺されて、記憶も消えてないなんて」

「確かに……」


「だから私が娘役をやってあげてるのよ」

「魂と引き換えですよね!?」


 ノアは強い口調で言う。


「そりゃそうよ。 私達だって慈善事業じゃないんだから、ちゃんと対価は頂くわ」


 これは説得は無理そうだな。


「はは〜ん。 あなたね。 あの子が言ってた2人組は」

「あの子?」


 ここでノアが耳元で話して来る。


「前にやり合った悪魔の事です」

「ああ〜!」


 あのエロい悪魔の人か。


「あの子ペルが言ってたわよ。 血も涙もない人間と天使がいるって」

「私達はそんなんじゃありません!!」


「どうかしら」


 反論は出来ないよな……。


「さぁ、わかったら帰ってちょうだい。 私は契約分の仕事をしないといけないのだから!」


 幼女悪魔はさっさと家に入ってしまった。


 今回ばかりは部が悪い。


「なぁ、ノア。 今回は諦めないか?」

「それは……出来ません!」


「なんでそんなにこだわるんだ? 異世界の人も大事だけど、今目の前にいる人も大事にしろよ!」


「しかも、異世界のために娘さんを殺したんだろ! どっちが悪魔だよ!」


 あんな小さい子を異世界のためだけに殺した と言う事実を知っていてもたってもいられなくなった。


「確かに、私達のやっている事はとても神や天使の行いには見えないでしょう。 ですが、こうしないと世界の均衡が保てないのです!」


「でも、この世界で幸せに暮らしている人を殺してまで得る幸せってなんだよ!」


「本当なら転生先は教える事はできないのですが、今回はお話しします。 娘さんの転生した世界にあの方も転生するのです。 しかも今度は仲間として! それに娘さんだって私達が手を出さなくても3日後には事故に遭って亡くなってしまうはずだったんです!

私達だってやっている事の意味は知っていても辛いんです!!」


 ノアは反ベソになりながら訴えて来る。


「ごめん……言いすぎたよ……」


 そう言う事ならあの悪魔を何とかしないとな。


 次の日、俺達はまたあの悪魔の前に立ち塞がった。


「へ〜、私とやる気? 私はペルみたいに優しくは無いわよ?」

「こっちだって負けません!」


「言っておくけど、私はペルより強いし、ペルより年上だからね」


 その見た目で年上なのかよ!


「春人さん行きます!」

「よっしゃ!」


俺とノアは行き良い良く、家のチャイムを押して、おじさんを呼び出す。


「ちょっと!」

 飛びかかってくるとばかり思っていた悪魔は少し慌てたように言う。


 天界のアイテム、変身の腕輪をノアに着けて娘に見せる。

 天界のアイテムは現世では人間しか使用できない。


「ユメ…ユメなのか……?」

「パパ……」

「ユメ!」


 ノアを娘と見せて抱き締めている間に俺は背後からナイフで刺した。


 倒れた人の顔はとても笑顔だった。


 異世界で仲良くな……。


「良くもやってくれたわね!! あなた達2人とも殺してあげるわ!!」


「まずいですね……。 本気で怒ってます……」

「どうする? 戦うか?」


「私達じゃとても敵いませんよ」

「じゃあ、どうするんだよ!」


「こんな時はこうです!!」


 ノアはポケットから丸い玉を取り出し、悪魔に投げた。


 ボム


 玉が爆発して辺り一面煙で覆われる。


「こんな小細工通用しないわよ!」


 悪魔が風を起こして煙をかき消すが、俺達は既にその場から消えている。


「!! ちくしょー! 逃したか!!」


 悪魔は俺達を探すように飛び去って行った。


 俺とノアは本当はまだこの場所にいたのだけどね。


 天界のアイテムで姿を消す、羽衣がある。


 煙で隠れたフリをして羽衣を被ってその場から動かなかった。


「行っちゃいましたね」

「結構ちょろいな」


 少ししてから家に帰った。


 帰りながら俺は考えている。


 この仕事も潮時だな……。


 家に着いたらノアに今回で仕事を辞めることを話した。


 ノアは泣いていたが、意外にもすんなりと受け入れてくれたようだ。


 そして俺は普通に職を探すと楽に就職した。


 会社に行きながら色々な人を見ると思い出す。

 ノアと一緒に事故死した人を異世界転生させるために祈っていた事。


 全てが懐かしく思う。


 そしてまた、この中の誰かがきっと異世界に転生するのだろうと……。

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