第6話 用意されたぬくもり

「あったけー」



 シャワーで軽く流して湯船に浸かると、自然と声が出た。



 ジンジンと、冷え切った身体がとける感じ。





 寒くて自然に身体に力が入っていたのか、ほぐれたらどっと疲れが出た。



 今度は眠い。




 そして、お腹空いてる。




 人って、寒いだけでいろんな思考が止まるんだな。




 上がると、脱衣所の洗濯機の上にたたまれた衣服があった。



 これを着れと?



 ウサギの顔がプリントされたスウェット上下。


 色こそグレーだけど、明らかに女物だ。



 下着は………さすがにないか。




 さすがに濡れて汚れてるものをまたつけるのは嫌なので、下着はつけずに用意された服を着た。



「ちっせ」



 肩が動かしづらい。腹が見えそう。丈、なんだこれ………。




 でも、室温で暖められた衣服は暖かいし柔らかい気がした。



「やだ………あはは」


 部屋に出たら、待っていた女に笑われた。


 鏡に映った姿は自分でも可笑しいと思ったけど、これを用意したのは女なのに、それを笑われてムカッとする。




「ごめん、そんなんなるとは思ってなかった」



 俺、顔に出ていたのか、すぐ謝罪された。



 まだ笑いをこらえているようには見えるけど、ここで俺は怒る資格がない。


 まだ真意は測れないけど、助けてもらったのだから。



「そんなに怒らないでよ。ちょっと待ってて。あ、お腹すいてる?」




 その質問に、素直にうなずいた。


 胃がキリキリと痛いのは、胃液まで吐きまくった影響だろう。


 泥酔して酷い二日酔いの時、お腹に何か入れたときの方が楽になったのを思い出した。


 何か腹に入れないと。この痛みを止めないと。





「家捜ししないでよ。目の前のコンビニ行くだけだから」



 家にあるものを出されると思ったら、わざわざ買いに出てくれるらしい。




「そ、そんなことしねー」




 なぜこんなに親切に?


 実は知り合い………てことはないよな。


 顔をじっくり見ても、なにも思い出せない。


 すっぴん? 見た感じ20代前半………?



 すこしぽちゃっとしてるけど、いい意味での。




「テキトーに座ってて」



 俺にそう命令すると、女は財布だけ持って家を出て行ってしまった。




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