第5話 ついていっていいの?
やわらかそうな脚。
膝より少し上のスカートとの太ももは、決して細くはないけどいい肉付きだと思った。
顔は………逆光でよくわからない。
少し怒ってる? ちょっと圧のある声。
俺がここにいることが、気に食わないのかも。
「………」
「行くよ、私」
かつっ、と踵が踵を返した。
やばい、置いていかれるっっっ。
反射的に立ちあがってしまった。
寒い、もうここにいたくない。
ただそれだけを思った。
歩き出そうとして、足がもつれて膝をついた。
ガタンと大きな音が鳴る。
「痛………」
膝を打った。
前のめりにこけたから、顔も地面にこすりつけるとこだった。
なんとか腕で踏ん張って、商売道具を傷つけることは避けられた。
「立てない?」
振り返った女に、首を振って返す。
ぐっと膝に手を置いて支えにして立った。
立てた。
心なしかゆっくりと歩くその背を追いかける。
アパートのゴミ捨て場だったのか………。
女は2階の自分の部屋に着くと、扉を開けて中に消えた。
扉は開いたままだ。
本当に入っていいのか?
入ったら男がいて、俺は難癖付けられて金品を巻き上げられる………なんてことになるんじゃないのか?
盗られるものなんて、今は持っていないからただ殴られるかもしれないな。
こわごわと部屋の中をのぞくと、玄関から部屋の中が全部見えた。
らしくない部屋。
何もない。
目に入るのは、小さなテーブルと布団。
女のほかに、誰もいないみたいだった。
「風呂はあっち」
左を指さされて、見ると硝子戸が見えた。
あれが風呂か。
入ってもいいってこと?
俺、男だよ。
どんだけ警戒心ないんだよ。
逆に怖いよ。
なにかある。
なにか、交換条件が。
金だとしたら、その方が楽だ。
帰れば多少は用意できる。
金で解決であってくれ。
目の前の暖かい部屋とお風呂に勝てず、俺は中に入った。
「私のジャージしかないけど、出しておくから」
女物?
いくら俺が細身でも、それは………。
でも、濡れた服をもう一度着るよりはいいのか?
受け入れるしかなかった。
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