第4話 どうしたい?

 寒い。


 次に目を覚ました時、寒い、冷たいしか頭に浮かばなかった。




 どこだここ。



 あぁ、寒いはずだ。雨が降ってる。




 服も髪も濡れて、体温を奪われていた。




 パツパツと、地面に落ちるのとは違う雨音。



 そのはずだ。ビニールに雨が当たる音だからだ。




 クッションなんかじゃなかった。ここは、ゴミ捨て場だ。




 どこか屋根のある場所……暗くて、よく見えない。暗い路地。建物の影だからか?





 あぁ、でも立つのも億劫だ。


 このまま寝たらいけないことはわかるけど、身体がついてこない。


 もう一度だけ目を閉じて………。




 だめだ。寒い。



 耐えるために、無意識に食いしばっていた。顎まで疲れてる。




 たぶん今日が人生で一番最悪の日だ。


 こんなことってあるんだな。




 ぬくぬくとしたあの生活では経験できなかっただろうけど、したくもなかった経験になってるな。



 女相手に金を稼ぐなんて、こんな目になるかもしれないと考えなかったわけじゃない。




 でも手っ取り早いこの稼ぎ方に、そのいつかはずっと先、ある程度金が溜まっていつ辞めてもいいぐらい先のことだと甘く考えていた。



「祐は甘いから、俺の下で働けよ。他の会社じゃ苦労するからな」



 正兄ただしにいは俺が中学のころから言っていた。




「祐、正兄のとこはこき使われるぞ。俺の下なら週3勤務位で、あとは好きなことに使えるぞ」



 雅兄みやびにいもそう言って甘やかそうとしていた。





 あぁ、あの場所はいつもあったかかったなぁ。



 今と正反対だ。



 お腹空いた。




 吐いてばかりで、そりゃそうか。




「うぅぅ………」




 くそ、せめて暖かくなりたい。



 そうしたら、少しは頭が働くか?




 店の事務所に行けば前貸しぐらいしてくれないかな。


 ヒナの金、もらってないけど許されるかな。





 寒い………。




「やだっ!」






 頭の上からの声に、びくっと身体が反応した。




 また眠りに落ちていたらしい。




「なに? 誰っ!?」




 女の声!?



 反射的に、“怖い”と身体がこわばった。




「………………」




 どうしよう、通報される。



 自分はただの不審者だ。



 ゴミ捨て場ということは、ここは誰かの土地の敷地内。不法侵入だ。





 怖い。どうしよう。寒い。




「………どーしたい?」







 え?



 今なんて言った?




「うぅ………………」





 なんて?



 と聞き返したかったのに、上手く声が出せなかった。




「私これからお風呂にはいるけど、どーしたい?」




 え? え?




 耳を疑う。




 まだ足しか見ていない声の女は、風呂に入る。



 そして俺にどうしたいか聞く。




 これって………。





 怖い。また食い物にされるのか。




 性を売りにしていたのに、汚いと心と身体は拒絶する。



「しゃべんなくてもいいけど、暖かくなりたいなら今すぐ立ってあとついてきてよ。私も寒い」




「あ………」




 脚から上を見た。



 若い………年上だけど若い女だった。



 仁王立ちで、俺の前にいた。


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